変異 前篇
「私とお友達になってください!」
「……え?」
男の子の前に出て、真実と呼ばれた女の子がペコリと頭を下げる。
「お、お友達?」
「はい!」
「えっと…」
女の子の後ろに立つ男の子に説明を求めるように視線を動かすと、私の訴えに気づいてくれたのかことの経緯を説明してくれる。
「妹はひとみしりで友達が少ないんだ。もしよければ仲良くしてやってくれないか?」
「…ど、どうして私に?」
「さぁ?真実がお前らがいいって。」
「おまえら…。」
この子、ちょっとかっこいいけどなんだか失礼だ。
「…ええっと、真実ちゃん?だっけ。真実ちゃんはどうして私とお友達になりたいのかな?」
「…さっき背の高いお姉ちゃんが教えてくれたの、お姉ちゃん達なら仲良くしてくれるって。」
「お姉ちゃん?」
つまり、しおと名乗った少女のことだろうか?
でも確か彼女はこの子達のお姉ちゃんと言ってた気がする…。
「真実、いつそんな知らない奴と話したんだ?」
「お兄ちゃんがトイレに行ってる間だよ。」
「…そうか。」
「……。」
……なんだか変わった兄妹だ。
でも、私も莉音ちゃんとお話しもできずに退屈していたし、ちょうど良いかもしれない。
「わかった、一緒に遊びましょ!」
「ほんと!?」
「うん、私もすることなかったし…あ、私と一緒に来た……」
「あきちゃん、その子達誰?」
ちょうど良いタイミングで、莉音ちゃんが帰ってきたようだ。
「り、莉音ちゃん!お帰り!えっと、この子は真実ちゃんで後ろの子が…」
「陽満だ。よろしく。」
そういえば、男の子の名前は聞いていなかった。
「……。」
「莉音ちゃん?」
「…の!野宮…莉音です。」
莉音ちゃんは頬っぺたを赤くして、自己紹介とともにそっぽを向いた。
………んん?
さっきまであんなにムスッとしていたのに、今の莉音ちゃんにはそんな様子のかけらもない。
「そ、それであきちゃんと私になにか用?」
「いや、ぼ…俺じゃなくて真実が…」
「そうなんだ…。真実ちゃん、私達とお友達になりたいんだっけ?」
「え?莉音ちゃん聞いてたの?」
「大きい声だったもん、廊下にも聞こえてたよ。」
「ごめんなさい…」
「良いんだよ。それより一緒に遊びましょ?」
「…!うん!」
明らかに莉音ちゃんの態度がさっきまでと全然違う。
私は莉音ちゃんに近づいて耳打ちをする。
「ね、ねえ…もう大丈夫なの?」
「なにが?」
「いや…このごろ元気ないみたいだったし…」
「そんなこと?もう平気!」
「……。」
今まで見たことない、屈託のない笑顔だった。
その後、私と莉音ちゃんは真実ちゃんと陽満君の兄妹と一緒に遊んだ。
夕方にはお父さん達が迎えに来て、お家に帰る。
それからも何度かあの幼稚園のような場所に行ったけど、真実ちゃん達は必ずいて莉音ちゃんもあの場所で遊ぶ時だけは機嫌が良かった。
私も私で真実ちゃんや莉音ちゃんと遊ぶのは楽しかったから、あそこへ行くことに抵抗もなかった…あの日までは。
「私、陽満君のこと好きなの…。」
「……。」
ある日、莉音ちゃんの部屋に呼ばれた私は彼女から突然の恋の相談を受けていた。
「……ど、どこが好きなの?」
つい最近、隣のクラスの男の子と別れた話を聞いた気がするとかはどうでもよくて、まず私の口から出た疑問はそれだった。
陽満君はしおさんの弟というだけあって、男の子にしては可愛い顔をしているけどいつも無愛想で、真実ちゃんが私たちと遊ぶ様子を遠くで眺めているだけだ。
真実ちゃんは優しいお兄ちゃんだと言っていたけど、私の彼に対する印象はあまり良くなかった。
「だって陽満君、ものすごくかっこいいんだもん。」
「え"…」
「一目惚れしたの。きっとあそこで出会えたのも運命だわ!」
「……。」
ものすっごくメルヘンチックな理由だった。
女子の間で人気の漫画にでてくる女の子みたいだ。
「で、でも莉音ちゃんちょっと前までともき君と…」
「あれはともき君がどうしてもってしつこいから断れなかったのよ。想像と違ったのか彼すぐ他の子に告白してたわ。」
「……。」
フンと鼻息を荒くする莉音ちゃんに対して、私はあまりに進んだ恋愛観を持った同級生達との違いを実感していた。
「で、でもどうして私にそのことを…?」
「どうしてって、こんなこと相談できるのあきちゃんしかいないでしょ?」
「……!」
その一言に、私はつい嬉しくなってしまう。
「私、この夏休み…あの場所にいる間に陽満君に絶対告白する!だからあきちゃんに協力してほしいの。」
いつも頼りっぱなしだった莉音ちゃんが私を頼ってくれていると思えて。
「……うん…うん!協力するよ!」
「ほんと!?嬉しいな。」
莉音ちゃんは私の手を両手で取ってぎゅっと握る。
「私達、友達だもんね。」




