タイツ①
なんやかんやあって同学年男子の憧れ、野宮莉音と一緒に登校することになった俺。
気さくに話しかけられたら良かったのかもしれないが、そもそも姉や妹以外で女子と一緒に登校するような状況は初めてであり、肝心の野宮さんもチラチラとこちらを見るだけでこれといって会話をしようとする様子もなかった。
なんとも気まずい空気のまま、校門前まで辿り着く頃には道ゆく生徒も増えなにやら視線が痛い。
「野宮、朝から悪いがちょっと職員室まで来てくれるか」
「…?はい、分かりました。…ごめんね家内君、また後でね」
「え?おう…?」
気まずい空気から俺を救ってくれたのは、校門前に立っていた教員だった。
よく見れば向かいの道には警官が2名ほどで警備している。
やはり傷害事件ということだけあって、学校側としてもそれなりの対応をしなければならないらしい。
野宮さんは小走りでかけて行くと俺はポツリとひとり校門に取り残された。
……一人になってもまだ周りから見られてる気がするな…とっとと教室に行こう。
自分の教室に着くと何人かのクラスメイトに野宮さんとの関係を聞かれたが、「金曜日に色々あった」とだけ言うと全員それ以上尋ねてくることは無かった。
流石に3日前の出来事だ。そうそうデリケートなことをズカズカ聞いてくる奴はいないし、そもそも俺と友達というわけでもない。
下手にトラウマを刺激しても面倒という判断だろう。
「家内君…いますか?」
しかしそれはクラスメイト…つまり事件とは無関係な人間のみに限られる。
当事者にとっては関係ない。
「の…野宮さん?どうして…職員室に行ったんじゃ…」
「先週の事件や不審者のことでなにか知らないかと聞かれたので知りませんと言っておきました。」
ニコリと微笑み、野宮さんは俺の隣の席に座る。
突然の訪問に俺が呆気に取られていると、突き刺さるような視線が周囲(特に男子)から向けられていた。
(なに?なんで来たんだ?)
「すみません急に…嫌…でしたか?」
「全然嫌じゃないです」
それ以外に言葉が見つからなかった。
というか嫌とか言ったらどうなるんだよ…
「嫌よ、どいて」
明確な拒絶の声は、たった今教室に入ってきた女子生徒のものだった。
普段寝てばかりの隣人はそのイメージとはかけ離れたドスの効いた声で続ける。
「邪魔」
立花あき
この女子こそ今まさに野宮さんが座る席の持ち主だった。