疑問②
「なに?話って。」
夕焼けに染まる屋上、夕陽を背に立花さんは俺に微笑む。
「もしかして告白?」
「ち、違う…。」
「なんだ違うのかぁ、残念。」
立花さんは相変わらず掴めない人だ。
揶揄うような目が俺を見ている。
「じゃあ何?私部活あるからさ。」
「新体操部だっけ?」
「そう、よく知ってるね。」
「伊東さんと話してるのよく聞くし。」
「そっか、伊東ちゃん声大きいもんね。」
「そうだな…。」
世間話をしにきたわけではないのに、なかなか切り出せない。
状況がそうさせているのかは分からないが、妙な気恥ずかしさがある。
「ところでさ」
それは俺ではなく、立花さんからの一声だった。
「野宮さんといつも一緒に登下校してるの、やめた方がいいと思うよ。」
太陽が半分ほど沈み、次第に夜の帳が下り始める。
「なんでだ?」
「知ってる?噂になってるんだよ。家内君が野宮さんの弱みを握ってるとか無理やり従わせてるとか。」
「なっ…!」
知らなかった…。
「あの娘と一緒にいたら、家内君も不幸になっちゃうよ。だから…ね?」
「……俺は…誰にどう思われても構わないよ。学校で話すやつなんてそれこそ野宮さんや立花さんくらいしかいないし。」
玉波先輩や剣崎先輩は例外中の例外だ。
特に剣崎先輩はまずゲームのレアキャラみたいな頻度でしか会えないし。
「そっか…でも私は嫌かな。」
立花さんが一歩、こちらに近づいてくる。
「家内君、今からでも遅くないよ。野宮さんとは関わらないでよ。」
手を伸ばせば触れる距離で立花さんは俺を見る。
その視線は俺の目に合わせられて動かない。
今しか…ない。
「野宮さんと俺が関わるのと…立花さんの両親が野宮さんの父親に殺された事件は…なにか関係があるのか?」
「……え?」
立花さんは動かなかった。
その瞬間、時が止まったように。
「調べたんだ…俺は二人に仲良くなって欲しかったから…。」
言葉を紡がなくては。
「互いが…立花さんがどれだけ野宮さんを憎んでいるかは俺には想像もできない…。」
踏み込んでしまった以上は、引き返せない。
「でも…俺はできれば二人ともと友達同士でいたい…。」
どちらかひとりなんて、選べない。
「だから…だから教えて欲しいんだ…。なんでもいいから…。」
これは俺の我儘でしかない。
「関係ないよ。」
立花さんが言葉を遮る。
「父さんと母さんのことなんて関係ないよ。」
「…え?」
引き返せないとは言ったが、今思えばこの時俺はすでに捕まっていたのかもしれない。
「父さんと母さんが殺されたのは自業自得…父さんが野宮さんのお母さんと不倫したたのが悪いんでしょ?」
「な、何言って…。」
すでに彼女は壊れていたのだ。
「たしかに家族の恨みもあるけどね…そんなのもう昔のことだよ。」
3年前…いや、恐らくもっと前から。
「でも!」
立花あきは憎悪で顔を歪めていた。
僅かな夕陽の光が後光となって、まるで炎のように彼女を焼いた。
「私はずっとずっとずっとずっと!あの娘のことが嫌いなの!!」
「た、立花…さん?」
「我儘で、傲慢で、狡賢くて!私のものを奪おうとするあの娘のことが!」
立花さんは止まらない。
一度延焼が始まれば簡単には消化できない。
「教えてあげるよ!野宮莉音がどんなに悪い子か!覚えたなかったもんね!家内君は!」
「…!」
これだ…。
辛い過去を思い出す立花さんには悪いが、俺は知らなければならない。
俺と二人の関係を。
なぜ二人が俺にこだわるのかを。
そして、岩木智子が真実の名を口にした理由を。




