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ヒミツ(修正版)  作者: 爪楊枝
1部 3章 蜘蛛の巣
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影①


家内いえうち、私は貴方を見つけたわ。」

「……………え?」


その優しげな声を聞いた瞬間、より強い頭痛と共にある光景がフラッシュバックする。


それは壁と地面、そして雪。


「家内。」


玉波先輩が屈んで俺と目線を合わせる。

その淡い瞳は爛々と燃えていた。


「貴方はいつ私を見つけてくれるの?」


頭痛。


「お、俺は…。」


頭痛。


「あれ…なんでこんなことを忘れて…」


頭痛。


小学生の頃のことを忘れていた、それはいい。あの頃のことは極力思い出したくないと俺自身が強く思っていたから。

しかしこれは…こんな極最近のことを俺はなぜ忘れていたのか。


『私が君を迎えに行くよ。』


あの日壁の向こうから聞こえた声、それは確かに今目の前にいる玉波先輩の声だった。


「ぁ…ぁれ…?」


勝手に涙が溢れる。

一体俺はどうしてしまったのか、自分が分からない。


突然蘇った記憶に混乱…というよりも先ほどまでの会話で自分自身が信用できなかった。

この記憶は本当に俺自身のものなのか?


本当に壁の向こうで泣いていたのは玉波先輩なのか?


激しい頭痛共に、目まぐるしく変わる思考。


そんな状況から俺を救ってくれたのは、やはり玉波先輩だった。


「大丈夫よ家内。私だけは貴方の味方、絶対に貴方を騙したりしないわ。」

「…先輩?」

「私には貴方しかいないもの。」


玉波先輩は、俺を抱き寄せるようにしながらソファーに押し倒す。

抵抗はしなかった。頭痛のせいか、それとも俺に考える力が残っていなかったのか…。



「家内、私の全てをあげるから…私に貴方の全てをちょうだい。」



ファーストキスだった。

家族を除けば、俺の記憶が確かならば。


目を瞑って、唇を一文字に閉じた玉波先輩がそれを俺に力任せにぶつける。


「プハッ…はぁ…はぁ…。」


勢いよく体勢を起こした玉波先輩は、深く息を吸っている。


(…………あれ…この状況……まずくないか?)


玉波先輩の行動のおかげか、俺は急激に冷静さを取り戻す。


「た、玉波先輩?」

「なに?」

「な、なんで俺の服を脱がそうとしてるんですか?」

「なんでって、決まってるでしょ。約束通り私の処女を家内にあげるためよ。」

「しょ…処女って!だ、ダメです!俺たちまだ…っ!?」


再び口が塞がれる。

さっきと違い、玉波先輩の舌が侵入してきた。


「んんっ!?」

「……っこら!抵抗しないで!」


先輩の肩を押して、無理やり引き離す。


「きゅ、急すぎますって!」

「私には時間がないの!」

「じ、じかん…?」

「このままじゃ私…高校を卒業したら知らない人に抱かれることになるわ!」

「は?…え?」


玉波先輩の言葉が理解できない。


「私の両親は私を売る気なの!私はいや!そんなの絶対に嫌!」


先輩を売る?

そんな…いや、でも…。


玉波先輩の腕を涙の粒が伝い、肘から雫となって俺の制服に落ちる。

純白の髪と手に隠れて表情は窺い知れない。



「…でも…」



聖女様。

誰が最初に彼女のことをそう呼んだのか。

一体彼女のどこを見ていたのか。


「家内は私に言ってくれたよね。」


玉波先輩の顔から離れた手が、俺の身体を蛇のように這う。


「俺が見つけます。一緒に昼ご飯を食べて、一緒に遊んで、一緒に悪さをしようって。」


パサリと先輩は俺に倒れ込んで、頬と頬を密着させる。


「私は貴方を絶対離さない。」


先輩は顔を少しあげて、俺に目線を合わせる。

互いの心音が聞こえそうなほどの近さ。


「私は我が儘だから、家内が他の子と喋ってるだけで嫉妬するし、私といる時は私のことだけ考えてくれなきゃ拗ねちゃうわ。私の頼りは貴方だけ。私は貴方がいればそれでいい。だから……」


先輩の涙が、俺の頬に落ちた。


「私を助けて…。」


今までにない、激しい痛みが頭を襲う。











『ハル君。』









俺が目を覚ました時に目に入ったものは見知らぬ天井だった。

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