微睡み③
朝、目覚めると共に真っ黒な瞳と目が合う。
「おはよう、ハル君」
「おはよう思緒姉ちゃん。」
蚊に刺されたのか、首が少し痒かった。
「……今何時?」
「8時15分。」
「…そっか….…8時15分!?」
驚きのあまり起きあがろうとしたが、馬乗りでさらに俺を覗き込んでいた思緒姉ちゃんと当然のようにおでこがぶつかる。
「いっっっーーーー!!!」
「…….。」
思緒姉ちゃんはビクともしない。
「ど、どうしていつも目覚まし止めちゃうんだよ!」
「今日は目覚ましなんてセットされてなかったわ。」
昨日…忘れてそのまま寝ちまったのか!
「そ、それならなんでもっと早く起こしてくれなかったんだよ!」
「私は起こそうとしたわ。でもハル君夜は一度寝ると絶対7時間以上は目を覚さないし。」
昨日あれだけ昼寝したというのに…!
自分が怖い!
「と、とにかく急がなきゃ遅刻しちまう!」
「着替えは用意しておくからシャワーを浴びてきなさい。」
「いいよ別に!シャワー浴びてたら間に合わないし。」
「……ふふ、私は別に構わないけど。ハル君、汗と私の匂いが混じって凄いことになってるわよ。」
酷く艶かしい表情にどんな意味が込められているのかは俺には見当もつかなかったが、姉の忠告は素直に聞いておくことにする。
「………すぐ浴びてくる。」
シャワーを浴びて着替えながら歯を磨き、朝ごはんも食べずに家を飛び出した俺は、結局学校に着く頃には汗だくになっていた。
(これならあのまま家を出ても変わらなかったんじゃ…。)
今日はHRがない曜日だったからなんとか間に合ったが、もしHRがあった場合確実に遅刻だった。
玉波先輩と一緒にいるんじゃないんだから、遅刻なんてすれば平常点に響く。
「あちい…。」
教室は冷房がかかっており幾分かマシだったが、冷房設定の28℃指定という名の学校の決まりによってそんなに涼しくも感じない。
一応ロッカールームで制汗シートを使ったから大丈夫だとは思うが、一応年頃の男子として周りの目が気になる。
「はぁ…」
教室について自分の席に座ると緊張が解けたのか、一気に眠くなってきた。
昨日昼寝して夜もぐっすり眠ったはずなのに…。
立花さんと野宮さんは今日も休み。
それに加えて今日の1、2時間目が現代文ということを思い出した瞬間、俺の眠気が最高潮に達したのは言うまでもない。
それは、4時間目の日本史が終わって少したった頃だった。
廊下が騒がしい。
まあ昼休みに入ったのだから食堂や売店に向かう生徒たちの声が響くことは考えられるが、どうもそれだけではなさそうだった。
生徒たちの喧騒…というより歓声か。
そしてそれは、ゆっくりとこちらに近づいてきているようにも感じる。
(まあいいや、今日も玉波先輩の所に行くか。)
なぜか彼女のことが気になっていた。
玉波先輩が他とは違うからなのか、それとも単に興味が湧いただけか。
「失礼します、家内君はいますか?」
その声が教室に響いた瞬間、昼休みにはしゃいでいた生徒たちが静まり返る。
「あぁはい、います……よ……。」
そこには聖女様が立っていた。
「こんにちは、一緒に昼食を食べましょう。」
ニコリと、自然で爽やかな笑顔を玉波先輩が浮かべている。
(……………誰?この人……。)




