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ヒミツ(修正版)  作者: 爪楊枝
√姫:白日
219/240

白夜⑤


「え。」


とある日の放課後、HRでの出来事だった。


「だから、この後文化祭関連の集まりに出席して欲しいんだよ。美術部の部長さんからご指名。」


担任の新田にった先生は特に興味なさげに話しているが、それ以外…特に男子生徒からの視線が尋常じゃないほど痛かった。


「ちょっと待ってください!は…家内いえうち君は実行委員でもなんでもないんですよ!?」


自分の置かれた状況を飲み込むのと、周囲の目から離れたくて必死だった俺の代わりにいずみが新田先生に質問を投げる。


以前、文化祭の実行委員をクラス内で決めることになった時に彼女は自ら立候補しており、俺は危うく彼女の推薦で実行委員の任を任せられるところだった。


あの時はなりふり構わず言い訳を並べて、とにかくやりたくないという意思を伝えたことで新田先生から助け舟が出たが…今回はその先生からの突然の宣告だ。


(美術部の部長…玉波たまなみ先輩か?)


なんとなく、嫌な予感がしてならない。


「あー、それなんだけど実は家内美術部所属してるから、関係ないとかないんだよ。なんでも人手不足で男手が欲しい…ってことらしいけど。」

「「「…は?」」」


困惑の声が3つ重なった。


2つは泉と俺、もう一つは隣の席だ。


「に、新田先生!」

「なんだ家内。」


流石にこればかりは聞かねばなるまい。


「…お、俺…帰宅部ですよ?」

「違う、お前は美術部だ。書類も提出されているし受理もされてる、従ってお前は美術部。いいか?」


念を押すような喋り方だ。


(し…知らないうちに美術部に入っていたのか…)


十中八九先輩の仕業だろうけど、何が目的なのか…。


…単に力仕事を任せたいなら直接俺を呼べばいいわけで、こんな回りくどいやり方を選択する必要はない。


見れば泉が困惑の表情…というかなにか納得いかないような表情で俺を見ていたが、先輩が俺に用があるということなら断るわけにもいかなかった。


「…わかりました。」

「そっか、それじゃあよろしく。」


大人しく席に座るが、やはり周りからの視線が痛い。


そもそも玉波先輩は男子女子問わず人気なのだが、ここ最近部室の外に出ることが多くなっている影響もあってその熱狂ぶりは過去最高潮なのだ。


そんな学校一の人気者である聖女様の隣に、俺が立っている場面を想像して…寒気がした。


(石でも投げられるんじゃないか…)


「………!」


周りの目から逃げるように目を伏せていると、たまたま隣の席の立花たちばなさんの手元が目に入った。


机の下でスマホを弄っている。


(…何してんだろ)


流石に画面を覗くのは不味いと思いすぐに目を逸らしたが、なんとなく気になってしまう。


もう一度だけチラリと見るとすでにスマホをポケットにしまったようで、そのまま突っ伏してしまった。


(まだ寝るのかよ!)


聞き流している新田先生の挨拶も佳境に差し掛かっているし、もう下校できるというのに…。


それからすぐにHRは終わり、俺は3階の空き教室で行われるという各クラスの実行委員や生徒会が集まる会議に出席するため泉と共に教室を出た。


泉と一緒なのは単に目的地が一緒だからだ。


というよりそもそも泉がピッタリ横に着いてきた形だし…。


「はる君。」

「その呼び方…誰かに聞かれたらどうするんだよ。」

「廊下歩いてる生徒の会話を盗み聞きする趣味の奴なんてそうそういないよ。」

「まぁ、それもそうか。」


俺だって廊下で話している生徒達の喧騒を雑音というか一つの音として聞いている。


一人一人の声、ましてや何を話しているかなんてよほど集中しない限りわかりっこない。


「シロ先輩とどういう関係なんだい?」

「シロ先輩?…あー…玉波先輩のことか。別に、お前には関係ないだろ?」

「関係あるさ、前に言ったじゃないか。私は君のことが好きだって。」

「……。」


(やっぱり無かったことにはならないよなあ…)


「なぁ、泉。」

「なんだい?」

「その…これからもこのまま…っていうのは俺もなんか気持ち悪いと思ってるんだよ。」

「…?」

「えっと…だからさ、泉さえ良ければ真実まなみや母さん達と一緒に話して…」

「……。」

「泉?」


隣を歩いていた泉の足が止まり、振り返る。


普通に歩いているだけならそう目立たないが、変わった動きをすればすぐにいくつかの視線が集まるだろう。


「いらない。」

「…。」


それは明確な拒絶。


「私ははる君だけが欲しい。……君以外の家族なんて…要らない。」


いつもとは明らかに違う平坦で低い声。


その迫力に気圧されて喉を鳴らす。


一瞬そう見えただけだが、思緒しお姉ちゃんとよく似た…冷たい目だった。


「そ、そうか…。変なこと聞いてごめん。」


周りをチラリと見ると、やはり多少目立ってしまったのか数名の生徒達が俺達を見てなにやらコソコソと話している。


「いや、いいんだ…私こそ急かしてしまったね。さぁ、3階へ急ごう。」

「あ、あぁ…。」


今の泉を見て、改めて痛感した。


やはり、俺と家族もまた…先輩や野宮ののみやさん、立花さんと同じか…いや、それ以上の闇がある。


それを無視したまま、このままのうのうと学校生活を過ごして…卒業してもいいのだろうか。


全てを知れるだけのチャンスと言っていいのかは分からないが…関係者がこんなにも近くにいるのに。


「……。」


スタスタと歩く泉の後ろに続く。


が、少し歩いた地点で泉が急に立ち止まったため危うくぶつかりそうになった。


「おっと…なんで急に止まるんだよ。」

「はる君、あれ。」

「ん?……あ…。」


泉が廊下の先を指差し、俺もその指先に目を向ける。


すると前方から濁流のように波打ちながら、こちらに向かってくる行列が。


そしてその先頭には後方の騒ぎを気にもしていない様子の聖女様…もとい玉波先輩が歩いていた。


(前見た登下校の時の行列は最近見なくなったけど…これじゃあ前より酷いかもしれんな…)


俺が知る先輩は目立ちたがりとは正反対の性格のはずなのだが…。


「あっ!家内!」


途中までお淑やかな聖女然とした立ち振る舞いをしていたはずの先輩が、俺を確認した途端手を振りながらこちらに駆けてくる。


そして向けられる教室で受けた以上にキツい視線。


玉波先輩は俺の手前まで駆け寄ると、絶対計算していたと疑いたくなるほど自然なタイミングでスピードを緩めながら、勢いあまったと言わんばかりに「おっとっと…」と口に出し、俺の腹に手をついて立ち止まった。


「チッ…」


慣性の法則ってやつだ…多分。


かなり近くで聞こえた舌打ちは聞かなかったことにしておく。


「せ…先輩?なんで2階に…?」

「なんでって決まってるじゃない!」


玉波先輩が上目遣いで笑顔を見せる。


かなり自然な笑顔…つまり作り笑いと思われるが…。


先輩がこうして大々的に動いた時のことに関して、いい思い出がない。


中庭での昼食に誘われた時もかなり目立っていたし。


しかしなぜだろう。


この人に振り回されるのは…さほど嫌な感じがしなかった。



「部長として新入部員の面倒をしっかり見てあげなくちゃ。」



次回投稿は明日です。

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