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ヒミツ(修正版)  作者: 爪楊枝
√姫:白日
216/240

白夜②


「「………。」」


ゴウンゴウンと音を立てる大きな洗濯機の中で、俺と先輩の制服が回っている。


近所にあるコインランドリー、建物事態は小さいが各家庭に置かれたものよりも容量が大きく、乾燥機も設置されているため意外に需要は高い。


俺と先輩がここへ来た時も、乾燥機以外は全て回っている状態であり少しの間待っていたぐらいだ。


客層としてはどうだろう…独身の男性や親元を離れて暮らす学生が多いんだろうか…とりあえず高校生の男女ふたりという組み合わせの俺たちが浮いていたことは確かだ。


「「………。」」


俺たちがコインランドリーに入ってから新たに入店してきた人はいない。


逆にそれ以外の客はすでに洗濯を終えて帰ってしまっている。


ひとつだけ俺たちがコインランドリーに来た時から回っている洗濯機があるが、相当な量を洗っているのかその持ち主は店内にはいない。


今は先輩と2人だけであり、2人揃って店内に置かれた長椅子に腰掛けている。


会話は無いが。


家を出てきたから先輩と何も話していないのだ。


先輩も目を合わせてくれないし。


「「………。」」


空気は最悪だ。


ここ最近何度かこんな感じで気まずい出来事が何度かあったが、今回のはそのどれとも種類が違う。


…気まずさの種類ってなんだよと言いたくもなるが、とにかく違うのだ。


(とりあえずなんか会話…するか?)


別に先輩に嫌われたとかではないことは分かっているし、俺に至っては風呂場での出来事を思い出して話しにくいと思っているだけだ。


多分先輩も似たような感じだと思う。


(…よし、このままってわけもいかないもんな)


「えっと…先輩?」

「……………はい。」

「お、思ったより長いですね。洗濯…。」

「そ、そうね。」

「「………。」」


(終わった!)


おかしい…なんだか前より気まずくなっている気さえしてくる。


「………家内いえうち。」

「……っ!?な、なんですか!?」


玉波先輩から声をかけてくれた。


このチャンスを逃すわけにはいかない。


「……名前。」

「なまえ?」


今まで目を合わせてもくれなかった先輩が、ここへ着いて以降初めて俺のことをまっすぐ見た。


「苗字以外で呼んでもいい?…ほら、お姉さんとややこしいし。」

「あ…あぁ〜確かに、いつも家内とかい家内さんとか…俺や思緒姉ちゃんのこと苗字で呼んでましたもんね。」


そういえばそうだった。


今まで気にしたことも無かったが、同じ家に住んでいる以上ややこしいという先輩の言い分はもっともなものだ。


確か最近は真実まなみのことを真実ちゃん、両親のことは仰々しい感じもあるがお母様、お父様と呼んでいる。


「そ、それでね。その…家内も私のことをな……名前で呼んでくれない?」

「………。」


(なんか…さっきまでと全然雰囲気が違う)


先ほどまでムスッとした表情で目も合わせなかった先輩が、今はもじもじしながら顔を染めている。


「名前…ですか?」

「そう…。あ、別に嫌なら無理に呼ばなくても大丈夫だから!」


ぶんぶんと手を振って慌てる先輩の様子はなんだかおかしくてさっきまでの心配はなんだったのかと、少し馬鹿らしくなってきてしまった。


「いいえ、全然嫌なんかじゃないですよ。」

「ほんと!?」

「本当です。」


というか、名前で呼びたくないですなんて言えるわけない。


…そもそもそんなことも考えていないが。


「それで、普通にひめ先輩って呼べばいいですかね?」

「………。」

「…先輩?」

「ひ、ひーちゃん…とか?」

「………。」


(うーん……無理かもしれない)


「さ、流石にそれは…恥ずかしいというか…。」

「そ、そうよね!じゃあ普通に…姫で…。」

「は、はい…!」

「「………。」」


小っ恥ずかしくて、耳が熱い。


「…………な、なにか?」


気づけば先輩が期待の眼差しで俺を見ている。


「よ、呼んでみてよ。」

「へ…。」


洗濯機の音が響いている以外は周囲の音は何も聞こえない。


「ほら、呼んでみて?」


ぐいっと身を乗り出して目を輝かせる先輩。


(……思緒姉ちゃんや真実…は家族だし違うか…?泉も…違う気がする…あれ?もしかして家族以外で名前呼びって初めてなんじゃ…)


そう考えると途端に緊張する。


あんなに洗濯機の音がうるさかったのに、今はもう自分の心臓鼓動しか聞こえない。


「………ひ…」

「ひ?」

「……………ひめ…先輩…。」

「くっ……!」


名前を呼んだ瞬間、先輩は目を見開き足の先から頭の先へ向かって全身を震わせた…ように見えた。


バっと顔を晒して、なにやらワナワナ震えている。


「……。」

「は…。」


先輩がゆっくりこちらへ振り向く。


「……?」

「は、はる…ま。」


瞬間、自分の背後で雷が落ちたような…そんな気がした。


「や、やっぱり恥ずかしいわ!」

「痛て!?」


バシバシと先輩に背中を叩かれた。


…今日の先輩は本当に感情の起伏が激しい。


「恥ずかしいならやっぱりやめときます?」

「……!い、いや、それだとせっかく…」

「せっかく?」

「なんでもない!……ふぅ…なんだかめちゃくちゃ暑いわね。」


シャツの襟でパタパタと扇ぎながら先輩は天井を見上げる。


コインランドリーの中は冷房が効いており暑くないはずなのだが…不思議と俺も暑い。


「……2人きりの時は名前で呼び合う。」

「…!」

「ね?それならは…陽満はるまも呼びやすいでしょ?」

「………それなら…はい。」


ついこの間まで、先輩と距離をとり…関わらないようにしていたはずなのに、この数日で信じられないほど親しくなっている気がする。


それはなんだか…白い紙に絵の具が馴染んでいくような…。


距離がバグるというか…。


思緒姉ちゃんとは真逆…何故だがそんな言葉が脳裏に浮かんだ。


次回投稿は明日です。

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