聖女③
俺の通う高校は中庭を囲う形、コの字型の校舎になっており、1階は職員室や校長室、技術室、理科室や図書室などの特別教室、別棟にはなるが食堂や体育館があり、2階は1.2年生の教室、3階は3年生の教室と少し広めの講義室という配置になっている。
そして今俺がいる4階、文化部の部室や人数の多い一部の運動部の予備部屋として割り当てられた部屋が多いこの階はこれからの時間帯こそが一番賑やかな時間だ。
あの行列の中にも部活動に入っている生徒がまあまあ含まれていたのか、すでに幾人かの生徒が談笑していたり部活の準備を始めていたりする。
(えーっと…美術部美術部…)
そういえば、吹奏楽部の部室は音楽教室と併用なのに美術部は別に用意されている。
美術の時間に使われる美術室は1階にちゃんとあるのだ。
その辺りもまたあの聖女様だからこそなのかもしれない。
中央階段から右に曲がって一通り見たが、美術部の部室は見当たらなかった。
続いて左側、廊下の突き当たりを右へ。
「…あれか?」
コの字で言うと丁度左下の位置。
廊下の先に不自然なほど立派な両開きの扉がある。
その扉に近づけば近づくほど人の気配は減り、あたりの教室は全て空き部屋なのか使われていない椅子や机が山積みになっていた。
……近づいてからより一層感じる異様さ。
明らかにここだけ特別と言わんばかりの存在感を放っている。
扉の上には、他の教室や部室と変わらない古びた表札があり、美術部と書かれている。
どうやらここで間違いないらしい。
「…なんか開けづらいな。」
普通の…他と同じような引き戸ならガラスも付いてるし中の様子も伺えたが、この木製の扉は完全にこちらと向こう側を遮断している。
とりあえず扉を数回ノックしてみる。
「………。」
反応無し。
もう一度ノックする。
「……。」
誰もいないのか?そう思った時だった。
ガチャリと音を立ててドアノブが動くと、ギィと音を立てて扉が開いた。
開いたというより、隙間が空いた。
隙間からジロリとこちらを睨むのは、あの淡い紅だ。
「…ぇ?………なに?」
隙間から素っ頓狂な声がした。
(す、すごい警戒されてる…。)
「あー…これもしかして先輩のハンカチじゃないかなあ〜って…さっきぶつかった時に…」
扉の隙間から白い腕が伸び、俺の手からハンカチを奪い取って引っ込むとバタンと扉が閉められた。
「…え?」
(な、なぜだがものすごく傷ついた…。)
「はぁ…教室戻るか。」
踵を返し、自分の教室を目指して歩き出す。
「ち……ちょっと待ちなさい!」
振り向くと、扉から出てきた聖女様がスカートの裾を摘みながらモジモジしていた。
「な、なんでしょう…。」
まさかハンカチが別の人のものだったりしたのだろうか。
「お….」
「お?」
何か口に出そうとして、黙ってしまう。
聖女様は数秒黙ったまま顔をグニグニと揉んでいる。
(なに!?何やってんだ!?)
そしてダラリと腕を垂らして顔を上げた。
「お、お礼にお茶でもいかが?」
「………はい?」
それは笑顔…だったと思う。
ピクピクと頬が痙攣していたり妙に目つきが悪かったが、確かに聖女様は俺に笑ってそう言った。




