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ヒミツ(修正版)  作者: 爪楊枝
√姫:堕天使
208/240

白昼夢③

前話の加筆部分を読まないと話が飛ぶのでご注意ください。


「………うっ…。」


吐瀉物のような、鼻が曲がりそうになる程酸っぱい匂いに思わず目を見開く。


自分の身に何が起きたのか理解するよりも前に、目の前の人物と目があった。


いや、正確に説明するなら天井に貼られたポスターのようなものに写った人物と…だ。


「お…俺?」


天井に貼られていたのは俺の写真だった。


いつ撮られたかも分からない、しかも真正面からというのがこれまた不気味だ。


顔だけ動かして今いる場所がどこなのかを調べる。


(…野宮ののみやさん達の部屋と同じだ)


部屋の内装こそ違えど、造りは一緒。


それならば同じアパートの一室ということになる。


同じアパートに住んでいるはずの人物にも心当たりが確かにあった。


「………思い出してきたぞ。」


野宮さんと立花たちばなさんの部屋から出た俺は、限界を迎えつつあった腹を庇いながら歩いてすぐのところで、この部屋に引き摺り込まれたのだ。


すでに外は暗く、部屋の電気も付いていないため家具の配置や細かい部屋の内装までは分からない。


目の頼りと言えばカーテンの隙間から漏れている月明かりと、玄関側…つまり廊下の方から漏れている光だ。


そして廊下の先からシャワーの音が聞こえてくる。


(………。)


この部屋の住人が誰なのかその検討がついているからこそ冷静でいられるが、よくよく考えればこれは結構まずい状況なのではないか?


そう考えながらも、静かにベッドから降りようとする。


が、ベッドから降りることは叶わず、手首に若干の痛みが走った。


「いっ…!な、なんだ?」


思わず声をあげてしまい、慌てて口をもう一方の手で塞ぐ。


それからよく目を凝らして見ると、なにか紐のようなものでベッドの柵と俺の腕が固定されていた。


(お、おいおい…なんだよこれ…)


もう嫌な予感しかしなかった。


(…ん?)


自分が置かれた状況に気づくと、どんどん違和感が生まれてくる。


妙に髪がサラサラしていたり、服が変わっていたり…。


口の中だけはどうも気持ち悪いが、あの満腹感も感じないことを考えればおそらく俺は限界を突破してしまったのだろう。


自分に何が起きたのか考えていると、シャワーの音が止み、廊下の先でガラガラと風呂場の扉?が開くような音がしてしばらくするとひとりの少女が部屋へペタペタという足音と共に歩いてきた。


「やぁ、起きたかい…はる君。」

「まこ……とっ!?」


予想通りの人物…声のトーンが違ったり、髪が極端に短かったりする違いはあれど、その登場よりもその格好に俺は驚愕の声を上げる。


肩に掛けたタオルで髪を拭きながら現れたまこと…


否、俺のクラスの委員長、伊東いとういずみは裸だった。


恥ずかしがる様子もなく、俺の反応に疑問を浮かべる様子もなく…ただ平然としていた。


部屋が暗くて助かったと、この時俺は強く思った。


「ふ、服着ろよ!」

「私の寝巻きは今君が着てるじゃないか。」

「…っ!だからって…!せめて下着を…!」

「しーっ。」


まだその肢体の所々が濡れていて、光を反射させている。


そんな格好のまま彼女はベッドに片膝を乗せて、俺の近くまで寄ると、静かにしろとジェスチャーで伝えてくる。


「ここの壁結構薄いし、バレちゃうよ?」

「………。」


そういえばそうだった。


この隣の部屋には野宮さんと立花さんが今まさにいるのだ。


「静かにできて偉いね。」

「そ、そんなことよりコレ、解いてくれよ。」


ベッドと繋がれているためそんなに動かせないが、俺は必死に腕を動かしてアピールする。


もちろん小声だ。


「まだダメ。」

「なんでだよ。」

「今服洗って乾かしてるから、少し待っててよ。」

「……ということは…やっぱり俺吐いたのか?」

「うん、盛大に吐いたね。まさか私もあんなことになるなんて思わなかったよ。お陰で君を洗って洗濯までする羽目になった。」

「………す、すまん。」


何が起きたのか、少しずつ分かり始めたがなんだか申し訳なくなってきた。


確かに限界だったが、まさか吐いてしまうなんて…


ベッドに繋がれた左腕を見る。


(つまりこれは俺が勝手な行動を取らないようにする保険か?)


勝手な行動なんてとならないが、そもそも彼女も女性だ。


そういうことに対する対策だって万全に整えるべきで、今回に限っていえば俺に文句を言う資格は全くなかった。


しかし、今のこの状況に対すること以外では別だ。


「……伊東…さん。なんで学校で話しかけてこなかったんだ?」

「泉でいいよ、それからそれについては謝るよ。まだ藤本ふじもとも捕まっていなかったし、これ以上君に迷惑かけたくなかったんだ。」

「……あいつ、やっぱり生きてるよな。」

「だろうね、死体が出てこない以上どこかに隠れていると思う。」


玉波たまなみ先輩を攫い傷つけた殺人鬼は未だこの街のどこかに潜んでいる。


警察なんかの見回りが増え、俺たちは元の生活に戻り掛けているがそれは一種の現実逃避に過ぎないのかもしれない。


しかし、あの男については警察に任せる他ないし、できれば考えたくなかった。



なにより、玉波先輩にあの日のことを思い出して欲しくない。



このまま奴が俺たちの知らない所で勝手に野垂れ死ぬか、警察に捕まることを祈っている。


「…まぁ、そんなことはどうでもいいよ。」


泉は何も気にしていないのか、裸のまま俺の横に腰を下ろした。


……近い。


とにかく泉の方を見ないようにしながら、俺は窓の外を眺めることにした。


「ねぇ、はる君。」

「ん、んん?」

「立花ちゃん達の部屋で何してたの?」


(あ、泉が俺を部屋に引き摺り込んだ理由はコレかぁ!)


しかし壁が薄いとなると、聞き耳を立てればある程度どんな会話をしていたかなどは分かるはずだ。


それに俺がこの部屋を通り過ぎる前、ピンポイントで扉が開いていたし。


泉は俺の行動を知っていたとしか思えないが…。


「飯を一緒に食べようって言われたからお邪魔しただけだぞ。」


ここは正直に本当のことを話すべきだろう。


そもそも嘘をつく理由がないし。


「……なんでこっち見て喋らないの?」

「…いや、そこ説明いるか?」


本当に恥ずかしさとか感じないのか…それとも俺を揶揄って楽しんでいるのか…。


「私がこんな格好してるのは私にゲロをぶちまけたはる君のせいだよ。」

「…うっ、だからそれはほんと、申し訳ない。」


いざ言葉にされると罪悪感が一気に増してくる。


「へぇ、自分のせいだって自覚はあるんだ?じゃあさ、ちゃんと責任とってよ。」


泉はそう言ってベッドに繋がれていない俺の右手を掴み、引っ張った。


「え…。」


努めて視線を逸らしていた俺だったが、今自分が何に触れているのか分からず困惑する。


手のひらが彼女の皮膚に触れているのは分かる。


しかしそれは胸だとかお腹だとか、はたまた彼女の頬だとかではない。


硬いのだ。


骨の硬さを確かに感じる。


そして手首の付け根あたりに僅かに柔らかさを感じた。


(………これってまさか…)


最初は水滴などで冷たさを感じたが、次第にじんわり温かくなってくる。


なにより、ドクンドクンと鼓動が手のひらに伝わってくるのが分かった。


多分、鎖骨と鎖骨の間の凹み。


その少し下あたり…前胸部と呼ばれる位置だ。


硬いのは胸骨だろう。


(…って何冷静に考えてんだ!)


「な、何してるんだよ!」

「はる君、天井の写真…見たんでしょ?それに夏休みに一緒に答えに辿り着いたしもう隠す必要もないけどさ、私は君が好きなんだよ。」

「で、でも…!」

「あぁ、はる君が心配してる理由は分かっているよ、私達は兄妹だ。」


泉はサラリと言うが、だからこそ実感が湧かないというか…フワリとした感覚に陥る。


「でも、感じるでしょ?すっごく私の心臓の鼓動が速くなってること。」

「………。」

「自分で言うのもなんだけれど、私ははる君にゲロをかけられて興奮できるくらい…君が好きだ。」


泉の顔を見ることができないため、彼女が今どんな表情をしているのかは分からなかった。


しかしその声はどこか悲しげでもあった。


次回の投稿は月曜日です。

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