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ヒミツ(修正版)  作者: 爪楊枝
1部 1章 私とアナタ
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トイレ③


「教えて。野宮ののみやさんとどこに行ってたの。」


立花たちばなさんは興奮気味に迫ってくる。

その間にはやはり冷静さは感じられない。


「お、落ち着けって!というか手を離してくれ!」


未だ俺の右手は彼女の左胸に押さえつけられたままだ。緊張と困惑の感情に支配されて感触など全く分からないが。


「あぁもううるさいな!」


突如として、俺の太ももの上に柔らかな感触を感じた。

立花さんが対面の姿勢で俺の上に座ったのだ。


「お、おい…?」



「もし教えてくれたら私の処女あげるよ。」



耳元で囁かれた言葉は、俺の脳に溶けるようにして響く。


「は…はぁ!?なんでいきなりそんな話になるんだよ!」

「なによ!どうせ童貞でしょ!卒業させてやるって言ってるのよ!」

「つ、釣り合わないだろ!?」

「なっ!失礼ね!私に価値がないっていうの!?」


話が噛み合ってない。


「違う!野宮さんの話をお前にするのと、お前の…しょ…処女がどうとかってのとは釣り合わないだろってことだよ!」


何かに気づいたのか、立花さんは目を丸くして一瞬黙った。


「……あぁ、そうね。そうよね。わ…私何言っちゃってんだろ…。」


いつのまにか右手も解放されている。

立花さんは爪を噛みながらなにかブツブツと思案していた。


「…な、なあ。」

「なに。」

「なんでそんなに野宮さんに拘るんだよ。」


目つきが怖い。

やはり野宮さんのことはよく思っていないようだ。


「言ったでしょ、人殺しだって。」

「いや、それだけ言われても…」


それに…


『立花さんは私の両親を殺した人の娘です…』


あの発言を聞いては…


「あの子に何か言われたの?」


どうやら不安が顔に出ていたらしい。


「あの子は私のことなんて言ってた?」

「いや、特には…」


言えるはずない。


「ほんと?」

「…ほんと。」

「嘘が下手なんだね。」


立花さんは俺の唇に人差し指を当てて言葉を遮る。

その仕草と表情は妙に艶かしかった。


「最後の質問、野宮さんに好きとか付き合ってとか言われた?」

「……。」


『私のものになってください!』


あの発言は告白とも取れるかもしれないが、状況的にはもっと別。俺の貞操の危機だった。


「言われてない…」


俺の言葉を聞き、立花さんの表情が変わる。

この表情は見たことがあった。


タイツを嗅いだ俺を見た時の…新しい玩具を見つけた子供のような目。

その表情は、なにかに対して勝ったと確信したような。とにかく、そんなニヤついた顔だ。


「それじゃあ私が一番乗りだね。」



「私と付き合おうよ。」




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