トイレ①
剣崎嵐は俺の通う高校の生徒会長である。
生徒会の頂点にして、校内一の自由人。
割と頭髪や服装に厳しい我が校で、髪を自由に染め、制服を着崩す唯一の生徒。
なぜ教師達が彼女に何も言わないのかと言えば、彼女の成績がズバ抜けて優秀だからという結論に行き着く。
思緒姉ちゃんの留年への対応、剣崎会長に対しての放任主義…この学校にはごく限られた生徒への忖度と不文律が間違いなく存在している。
確か剣崎会長曰く3年にもうひとり神のような扱いを受けている生徒がいるらしい。
神、というのがいまいちピンとこないが。
とにかく、剣崎会長はこの学校という規則の中でそれに縛られない数少ない生徒のひとりだ。
「それで?結局この女子はなんなんだ?」
剣崎会長は悪戯心を過分に感じさせる笑みを浮かべて俺に問う。
「と、友達…です。」
「友達?それにしてはやけにくんずほぐれつやってたが…」
「いや、それは事故というか…」
「そうなのか?」
「そんなことはありません。私は家内君のお嫁さんになるんです!」
「野宮さん!?」
首根っこを掴まれた猫のようになっている野宮さんはまだ冷静とは言い難い状態のようだった。
「ハッハッハ!意味わからん!」
剣崎会長は笑う。
「まあ何でもいいけど、お前らもっと静かにしろよ。1階下の踊り場まで響いてだぞ、声。」
「なっ!」
野宮さんの顔がさらに紅くなった。
「ここを使う分には構わんけど、教師に見つかるなよ。私はともかくお前らはめちゃくちゃ怒られるからな。」
野宮さんを床に下ろし、愉快に笑いながら剣崎会長は建て付けの悪い扉から校舎に入っていたった。
「……。」
「……。」
沈黙。
「…休み時間も終わりますし…帰りますか…。」
「うん…。」
お互い目を合わせることができなかったが、野宮さんの顔はまだ紅いままだった。
1人で教室に戻った俺を、やはり数名の生徒がジロジロと観察していたが、すぐに視線が外れた。
立花さんは寝ている。
席に着くとすぐに予鈴が鳴り、教師が教室に入ってきたが俺の頭の中は先程の出来事のことでいっぱいで、とても授業に集中できる状態ではなかった。
「先生、教科書忘れたので隣の人に見せてもらいます。」
「おーう。」
ぼーっとしていた俺を現実に呼び戻したのは、一瞬の机の揺れと椅子を引く音だ。
「何してるの?教科書見せてよ。」
「……へ?」
廊下側、普段なら眠っているはずが今日は違った。
小学校のような感じで机をくっつけた立花さんが俺の顔を覗き込んでいた。




