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ヒミツ(修正版)  作者: 爪楊枝
1部 Prologue
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雨と涙


雨は嫌いだ。


6月、この時期に降り続ける雨と高い湿度は授業中の教室に気だるげな雰囲気を漂わせるのに最適な組み合わせだった。


朝から続く雨音を子守唄に使う隣の席の女子生徒、窓際では男子生徒が曇った窓ガラスに指で何やら落書きして楽しんでいる。


よく見れば、とある女子生徒は櫛まで取り出して毛先を整えていた。


教師はそんな生徒たちを注意することもなく淡々と黒板に数式を書いては数分時間を取り、時間が経てば消してまた数式を書く。

彼もまた早く授業を終わらせて快適な職員室に戻りたいと思っているに違いない。


この環境と金曜日の午後、6限目という状況が勉学にとって最も適さないことをこの場の全員が分かっているのだ。




希望を持って入学してきた1年生。進路に向けて本腰を入れて勉強に励む3年生と違い、6月の高校2年という時期はあまりにふわふわしている。


人によってはすでに進路希望もきちんとしており、付近の大学などのオープンキャンパスに参加しているだろう。

しかし俺、家内いえうち陽満はるまに将来の目標や就きたい職業と聞かれた時に、パッと答えられるようなものは無かった。


周りを見ても将来の話や仕事の話をしている同級生は皆無であり、休み時間に聴こえてくる会話のほとんどは休日にどこに行くかとか彼氏彼女がどうのこうのというものばかりである。


この教室にいる生徒全員がテスト勉強を実はしているのに友人にはしていないと言うような性格なら分からないが、そもそも学年全体で見た時に1人か2人点数上位がいるのはいるが、平均で見れば中の下程度なのを考えるとそういうわけでもないはずだ。


「授業終わりな〜、残りは課題なちゃんとしてこいよ〜」


暑さと気だるさで無駄に長く感じた時間もついに終わったらしい。

チャイムと共に、数学教師の気の抜けた声が響いて本日の授業が終了した。


俺のノートには数学の問のみが書き写されていて計算などした形跡もないがこれでいい。授業終わりに教師へ質問へ行くようなこともしない。


めんどくさげに説明してくる教師よりも、優しく教えてくれるとっておきの家庭教師が家にいるからだ。




HRも終わり部活や委員会に向かったり、帰宅する生徒でごった返した廊下を縫って進み玄関を出る。

校門付近でなにやら人垣ができていたがその中心にいた女性に心当たりもないので気にしなかった。

聞き耳を立ててみるとどうやら人を探しているらしい。


人垣の中に妹を見かけたが無視。

最近は反抗期なのか家以外で話しかけることを嫌がる。


双子の兄としては寂しいが、二卵性で似てない兄妹ということもあり妹の周りから見れば馴れ馴れしい男に映ることもあるだろうから我慢するほかない。


雨の影響もあるだろうが、学校から離れるにつれて人影がなくなってゆく。


地面と傘にぶつかる雨音以外に聞こえるのは、遠くを走る車か信号機の音くらいである。




じんわり濡れてきた靴下と、跳ねた水滴と雨でビショビショになったズボンのことを考えながら歩いていると、雨音とは明らかに違う音が後ろから近づいてくるのが分かった。


どうやらそれは人の足音で、急いでいるのか水が跳ねることも気にせずバチャバチャと音を立てて走っているようだ。


すでに濡れているとはいえ、人に水をかけられてもいい気分はしないので歩道の端に寄って道を開ける。






女子生徒。





そう、それは女子生徒だった。同じ高校、よく見えなかったがリボンの色からして同学年。


傘も持たず走り去った女子生徒と…



ひどく怯えたその目と確かに視線が合った気がした。



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