日常 part4
その後は勿論私から転校生に話しかけることはなく、私となんら関係を持たない転校生も私に何も話しかけることはなかったようで、授業は三限まで着々と終わった。次の授業は体育なので更衣室で着替えてから体育に行くのだが、着替え中に芹夏は身振り手振りで私に熱意を持って説明する。
「早紀ちゃん!分かってるよね?昼休みになったら園江ちゃんに猛烈なアタックを仕掛けるんだよ?私はあんなんだったんだからもう早紀ちゃんしかいないんだから。よろしく頼んだからね?」
身振り手振り説明すると、服着ていても分かる芹夏のたわわが揺れに揺れる。豊満だということは本人は自覚していないようだが、できる限りそういう行為は自重していただきたい。私は貧相なものだということで理解はしているがなんだか納得できないこともあるということだ。
さて、体育の授業が始まり今日もいつも通り試合中は木陰に座ってやり過ごそうとし、実際に行動に移していた際であった。遠巻きに体育の授業を見物していた私の目の前に一人の女がやってきた。今日の流れで予想するならばここは芹夏だと思ってそいつの顔を見てみたら意外な顔であった。
その顔は今朝転校してきた前崎園江であった。
私がサボってい… 休憩している時に黙々と近づいてきたので、てっきり委員長キャラを発揮し「ちゃんと参加してください!」なんてことを言うと思ったら、転校生は黙って片手に持った一つの紙切れを渡してきた。その後何か言うのかと思ったらこれまた何も言わずに立ち去っていった。不思議な子だ。しかし私の元から体育の授業へと去って行った時に見えた彼女の後ろ姿は、物寂しげに誰かを待っているような、そんな感情を周りに振りまいていたように思えた。
もらった紙切れはルーズリーフの端っこをハサミで長方形に切ったようで、几帳面に切られていた。その裏面を見てみるとこんな内容が書かれていた。
「今日の昼休みに屋上へ来てください」
そんな昭和時代の恋文のようなことを綴っていた文字は非常に流麗で、書道が趣味と言われても遜色ないほどであった。
私は一体全体何を言われてしまうのだろうか。まだ一度も話したことがなく、初めて見たと言うのも今朝ばっかりだという女に。
そしてそのまま体育の授業が終わった。私と前崎園江が接触していたということは芹夏には気付かれていないかと思う。手紙の受け取りの最中は、ハンドボールのミニゲームを行っていたので見ていたら逆におかしいのである。体育の授業の間、私は上の空だったかのように思う。周りには恋煩いをしている年頃の女の子と見られてもおかしくない表情であったであろう。実際は全くそんなことはなく、一度も話したことがない女に無言で手紙を渡された理由を心の中で探していただけなのだが。
なぜ私に手紙を渡したのであろうか。これから屋上に呼び出されてどんなことを言われるのだろうか。「宝條さんがうるさいので私に近づかないように厳重注意しておいてください」がいいとこだろうか。もしくは、「宝條さんの一味ですよね?これからあなたも私には絡まないようお願いします」だろうか。しかしまあ、私が直接何かをした覚えは一切ないしあっても、それは前崎園江の勘違いであろうから胸を張り堂々と行ってやろう。きっと、そんな大したことにはならないのだ。
と思っていた私を今懐かしく思っている。どうして、いきなり転校してきた女の手紙をそんな真っ当な理由などで考えたのだろうかと。元々前崎園江は変わっていた人間であったではないか。何に対しても無言を貫き通し、声を発していたとしても多少の返答のみ。くそ、この時に少し思いとどまっていればこれから起こる結末は少しは変わったのかもしれない。いや、もはやこの時には全てが手遅れだったと言えよう。もう少し早くこれから起こる出来事を知っていれば、どうにかなったのであるかもしれない。
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