日常 part1
翌日は週明けの学校であった。つまり、昨日の墓参りは日曜に行ったわけで、昨日の長旅で多少疲れている。しかし久々に22時という私からしたら早い時間に寝れて寝覚めは良好、これで少しは授業が真面目に聞けるというものだ。
私の部屋と妹の友紀の部屋は二階にあるので、今朝、7時に珍しく起きた私は一階に降りて妹を見習って朝食の準備でもしようかと思ったのだが、
「あ、姉っちゃおはよ〜。こんな早く起きるなんて珍しいね。父っちゃはもう食べ始めているから久々に一緒に朝食取ったら?」
と友紀自身が小学生時代に家庭科の授業で裁縫したエプロン姿で挨拶を言ってきやがった。完璧か、この妹。
ここで私の家族の朝事情を説明しよう。父親は7時か、もう少し前にはスーツ姿で朝食を取っている。ということは起床時間はその三十分ほど前から起床しているということだ。その朝食を用意しているのは私の献身的な妹――友紀である。
この事実のみで読者の方々は分かるであろう。なんて模範的な妹、子供なのかということを。
そして8時ちょっと前に、私と母が食卓に登場する。母は朝をあまり食べない人なので、食パンをとろけるチーズ付きでトースターに入れてそれで朝食は終了。私はちゃんとおかずも食べるがな。朝食をゆっくり味わっていると遅刻するから、朝食を掻き込んで10分以内に食べ、その最中にしっかり者の妹は家を出発している。朝食後、急いで準備をする。髪なんてものは後ろ髪だけ結んでいれば良いと思っているので、ポニーテールにして身嗜みの準備は終わり。こんなのが私の家族の朝事情である。
ちなみに私はその後自転車をあくせくと漕いで、教室に着くのはベルのなる3分前。こんな朝を毎日過ごしているので、朝はとても忙しい。まあ、全ては自業自得なんだがね。まあ、いわゆる朝に弱い体質ってことさ。クラスに数人はいると思う。私はその一人なのさ。しかし、私からしたら「朝に弱い」なんて表現は間違っていると思う。そんな言い回しをしたら私が弱者みたいではないか。だから私が思うに、「朝が私に強い」のである。そう、私は何ら弱くはなく、普通の人類であり、朝が限定的に私に強いのである。大衆からしてみれば朝なんてものは大したことはなく、きっと気持ちが良い者さえいるだろう。年取った爺さんとかは朝に散歩に出かけてるしな。なんで、朝寝坊しても私は悪くなかろう?そうに違いないのだ。私が悪いなんてことさえ否定できれば私は満足なので、この話はここで終わらせておくことにする。
しかし、今日は珍しく早起きだったので始業の15分前に高校に着いていた。自分の席に鞄を置き、置き勉している教科書を今日の授業の分だけ机の中に入れようとロッカーの中を弄ろうとしていると、隣からやけに楽しそうな声でクラスメイトの女が話しかけてきた。
「あーーー!!おっはよー早紀ちゃん!今日は珍しく朝早いね〜?どうしたの?もしかして、今日から真面目に授業受けようとしてるの?早紀ちゃんはもう授業中いびきをしないんだね!」
なんだか、私の高校生活をこれまでとなく簡潔に表現してて、朝から耳が痛い。というかいびきをしてるとかしてないとかは、あまり私の目の前では言わないでもらいたい。
この前髪を1と9の比率で分けていて、耳を完全に露出させ、なおかつ後ろ髪にはゴムなどを何も付けずに、肩が完全に見えなくなる程度には後ろ髪が長く、髪の質が非常に艶やかな女の名前は、宝條芹夏。私と同じ高校2年生で3組の同級生である。非常に陽気な人間で、まあ、クラスの人気者って程ではないが友好的な人間関係を少なくない数を築けている女子であるとは思ってる。私と違って。
「昨日は事情があって早めに寝てね。おかげでぐっすり眠れた訳さ。だからこれからの授業も今まで通り受けるし、明日はこんなに早く学校には来ないと思うよ。ところで、今日の教科なんだっけ?午前中の分だけでいいから教えてくれない?」
「えっと〜、多分英語の文法と現代文と古典さえ用意しとけばいいんじゃないかな。うん。4時間目は体育だしね。そういえば、体育今日から種目変わるよね。確かハンドボールだったかな?早紀も知ってると思うけど私は体育が苦手でさ。ボールに当たって怪我しなきゃいいけど。」
そう、芹夏は確かに体育が苦手だ。サッカーの時にボールに触れる機会があれば必ずと言ってもいいほど空振るし、運が良くてボールに足が当たったとしても見当違いな方向に飛んでいくのがこいつだ。サッカーの試合の時、近くにきたボールをクリアリングしようと思ったらオウンゴールしたのはここ3ヶ月忘れそうにないね。
だからこいつは最近体育の試合が始まったらボールが来なそうな位置に移動しているのだ。大抵はコートの隅っこが定番だな。ボールが近付いてきたと、思ったら逆方向に遁走している。芹夏曰く、チームメイトに迷惑をかけたくないようだ。
芹夏は少し不安そうな表情で
「私の今年の体育の評定どうなるんだろうなあ。ちょっと不安かも。去年は頑張って体育に参加してたけど、今年は自分からボールに触ってないし。でも、きっと進級には響かないよね。だって体育だし、私みたいに体育できない女の子はたくさんいるから、大丈夫!おそらく、きっと・・・」
と嘆いている。
まあきっと大丈夫だろう。体育で高校を留年したなんて話聞いたことないし、まあ最悪でも冬休みにちょっと招集されるだけであろう。それすら私は聞いたことがないから、留年なんてありえないとすら思っている。
おしゃべりな芹夏は今度は不安そうな表情から不思議な顔に変わって
「ところでさ〜。今日職員室でなんか先生たちがざわざわしてたんだけどなんか知ってる?今朝学校入った時に、名前は知らないけど先生が一人職員室に慌てて走って行ってたとこをたまたま見かけてさ、暇だし付いて行ってみたら職員室にいる先生たちがせわしなくて。その後、すぐ職員室閉まっちゃったから原因は何も分かんなかったんだけど。誰か休日中に停学になるようなことでもしたのかな〜、て思ったんだけど早紀なんか心当たりある?」
と私に話題を振ってきた。しかし、暇だから先生に付いていくっていうのは生徒として模範的な行動とは到底言えないだろうなあ。それはさておき、
「私は知らないね。校長が土日にわいせつ罪で逮捕されて今日仕事場で知ったとか、そこらじゃない?あの校長以前から変な噂あったし。」
と嘘を交えて言うと、今度は納得した表情に変えて
「そんな噂あったの?私あんまり、校長先生の顔とか声は覚えてないんだけど結構ヨボヨボのおじいちゃんだったよね?そんなおじちゃんでも変なこと企むんだねぇ。人は見かけに寄らないとは良く言うけど。私も気を付けよ。」
いつものことながら芹夏の表情はよく変わるなあ、と話を聞きながらつい思ってしまった。
というか、芹夏はこんな簡単な嘘に騙されていることに今気が付いた。もうすぐ、定年になるおじいちゃんがわいせつな行為なんてするわけないっての。しかし、まあ世の中にはいろんな人がいるから一様に断じてしまうのもよくないのかもしれない。だとしても、私たちの高校の校長はそれに当てはまらないと信じている。今の会話通して、芹夏が将来悪い大人に言いまくられないように高校在学中にどうにかしてあげよう、と勝手に誓う私であった。
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