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困惑星人  作者: 満月 烏
発見
1/7

発見 part1

 遠くからかいがいしく私を呼ぼうとしている声が聞こえる。


()っちゃ〜〜!!! ()っちゃのカーナビやっと動いたって!!車ん中そろそろ戻って〜〜!」


 妹の友紀(ゆき)が体を必死に動かしている私に声をかけてくれた。父親が作業している間車の硬い椅子に座ることに飽食しきっていた私は、車外で少し準備運動(少し体を動かしていただけだが)していた。


 もう中学3年生にもなるっていうのに姉妹の私に対してはおろか、親に対してすら反抗期を迎えなかったこんな妹を持った私を含める家族は果報者だと、この妹を見るたびに思う。母親が疲れた雰囲気を見せたら夕食を代わりに作ってあげたり、休日に父親は頻繁に釣りに行くのだが、その準備等々全て完遂して父親に少しでも楽をさせてあげようとする親孝行ぶりを毎日発揮している。妹曰く、父親が毎日仕事に行ってきっとかなり疲弊している、ということを見越してのことらしい。こういう子供がいたら子育ては平易にこなせるんだろうな、と未婚者全員に思わせるような妹である。そんな妹が私に、父がカーナビの電池を買いに行き取り替えその作業が終わったことを伝えたのである。


 現在私の家族、計4人は林道で迷子中。と言っても車の移動だし、父が運転しているので特に特別私が迷子の解決の鍵を握っているのではなく、単純に父親の点検ミスである。なんで日本の(みやこ)である東京都に住んでいる私たち家族が林道でぐずぐずしているのかと言えば、母親が家族団欒で夕飯を食べているときにいきなりこのようなことを言ったからである。


「明日みんなお(うち)にいるでしょ?友紀も明日は塾ないって言ってたし、お父さんも明日は釣り行かないんでしょ?わよね?

 じゃあ、おばあちゃんのお墓参りに行かない?私たちもう、2年は行ってないと思うわ。一年半かしら?そんなことはどうでもいいのだけれど、もう長いこと行っていないのよ。きっとおばあちゃんも私たちを呪う準備をし始めている頃だと思うのよ。もしかしたらもう呪っているかもだけど。

 ちょっと遠いけれど、車で日帰りできる距離だし、ちょっとした旅行だと思って行きましょ?ね?」


 このおばあちゃんと言うのは母方の祖母のことである。

 それに対し父親は


「いいじゃないか。お義母さんのとこにはそんなに行っていなかったけか。じゃあ今日は早めに寝て車を運転する体力を蓄えておかないとね。あそこまで何分だったっけ?片道4時間ぐらいだったんじゃないかなあ。お母さんの運転は危なっかしいから。いや、そんな怒らないでくれよ。本当のことだし、いつも言っていることじゃないか。」


 と言って賛同したし、一方、妹の方はどうかと言うと、まあこの話が出た時から妹が断る行動プログラムを脳に搭載していないとは思っていたが、しかしやはりそのプログラム通りに母親の頼みに断りを入れるわけもなく


「楽しみだなぁ。ねえお姉ちゃん?」


 と言っていた。私はどちらかと言えば明日は家でくだらないT Vでも見てグータラしていたい気分だったし片道4時間もかかるような場所にはあまり行きたくはないが、ここでは家族総意の結論は出ているようだし何しろ祖母に呪殺されたくはない。なので


「そうね。楽しみだわ。」

 と一言だけ言って賛同しておいた。




 そして現在、父親がカーナビの電池の取り替え終わって運転を開始する旨のことを、妹を通じて伝えられたのでさっさと同乗することにする。これ以上長旅にしたくはないし、もう疲れたと言ってもまだ墓参りを終われせてすらいない。とどのつまりまだ片道なのだ。特に祖母と親しくなかった私は墓参りを、何か義務的な行為としか感じていないと思う。だから墓参りに行くというのにこんなに時間のことを気にしているのだと、自分の中で結論を出す。


 勿論、何回かは会ったことがあるみたいなのだが、もう10数年前におっ()んだので記憶に残らないのも仕方のないことだと思う。しかし、あと何時間かかることなのやら。この便りない男の運転はあと2時間ぐらいはかかるのだろうか。


 そんなことを思って体感5分後ぐらい経ち、まどろみにさまよってた私を現実に戻す声が聞こえた。




「起きて!!()っちゃ!!もう着いたよ。車が動いた瞬間寝ちゃってるんだから。ここに着く前の30分ぐらい前かな、車窓からの景色結構良かったんだから。その時起こそうとしたんだけど姉っちゃなかなか起きなくて。」


「車窓からの景色なんてそんな大したことないでしょ。」あと気持ちよく寝てるときに起こそうとするな、とも言おうと思ったがそれはやめておく。


「そんなことないよ。紅葉みたいな秋気溢れるような場所が一か所あったんだよ?今の季節が秋だったことを思い出させたね。今年は季節の移り変わりが激しかったから結構木とかすぐ枯れちゃったでしょ?おかげで着たい服ちょっとしか着れなかったし。なんだけど、その辺一角はまだ寒さに耐えてたみたいで。おかげで久々に秋っぽい気分味わえたわ。今はこんなに寒いけど。」


 と言いながら友紀は携帯の画面で温度のページを開いて見せる。なんと数字は一桁になっていた。今は本当に11月なのかね。昔の人が9月から12月を冬にしていた気持ちもよく分かるね。しかし、9月は冬にしては少し暑すぎると思うからやはり間違っているなと、そんなことを思っていると


()っちゃ、早くしてね。ずっと車の中でぬくぬくしてたら堕落して来世はきっとナマケモノになっちゃうんだから」


「それもいいなぁ。ナマケモノって多分結構人気者でしょ?なんとかして動物園に入園して、一生食いっぱぐれない生活してさ、それで生涯を終えるのさ。きっと動物園なんかで死んだら色んな人に弔ってもらえるさ。こんなにいい人生はないだろう。いや、ナマケモノ生、略して怠生(たいせい)かな?」


「バカ言ってないで、さっさと動いて。」


 と呆れるように言って私を抱き抱えるようにして私を動かそうとする。流石に赤ちゃんみたいな対応を妹にされると、一応の自尊心が私に動けと囁くので友紀の手を拒否するように払って自分で立ち、車外にでる。友紀が施錠を頼まれていたようで、無線の鍵でドアを閉める。どうも無線の鍵の仕組みは生涯かけても理解できそうにない。なぜ鍵穴に何もさしていないのに、誰もが開けることの出来ない魔法の扉になってしまうのだろうか。同じことを思っている人が私以外にも絶対にいると思うね。


 そんなことを思いながら車を降りると、そこはお寺の中にある駐車場であった。駐車場と言ってもせいぜい4台駐車できたらいい方で、そこには車のタイヤを止めるコンクリートの突起物すらない。果たしてあのコンクリートには名前があるのだろうか。そんなことなので、そこは駐車場と呼ぶには少し豪華な名前でありそこは、車置き場、と呼称した方が似つかわしい気さえした。そんな車置き場には車は一台しかなく、まさしくそれは我々家族の車だ。周りには車どころかお墓参りに来ている人や、お坊さんの影一つ見当たらない。あまり栄えていないのだろうか。それもそのはず、このお寺は周りが森に囲まれているのであまり交通の便は良くないのだ。


 しかし、人の気配一つ見せないこのお寺は本当に大丈夫なのだろうか。この辺の近くには森しかないし。鬱蒼とした森林の中にある建物が二つ、お寺と講堂、そしてお墓しかないこの場所には嫌悪感すら覚えた。


 講堂があったので、てっきりお邪魔してそこで少し休むのかと思ったのだが、


「じゃあ今日の朝僕が作ったお弁当を食べようか。一応レジャーシートも車の中に突っ込んでおいたから近くにベンチがなくても大丈夫なはずなんだけど、う〜ん。どうやら近くににはないみたいだね。お墓の近くでお弁当食べる家族っていうのも格好付かないからさ、お墓掃除したら近くの公園みたいな場所探そうか。公園じゃなくてもいいけど。こんなに田舎なんだから一つや二つあると思うしね。」


 と父親が少し困ったような顔をして言った。おいおい、人っ気ひとつないとは言っても講堂にぐらいは人がいるだろうから頼んで少しだけ入れさせてもらったらどうだ?この前行った時もそうした記憶があるぞ。もう何年前だかの話になるからあまり鮮明には覚えていないけど。


「それもそうだね。全然通(かよ)ってないから少し利己的かもしれないけど頼んでみてもいいかもしれない。それにずっと車で友紀と早紀(さき)も疲れているだろう。お墓参りが終わったら頼んでみるよ。中にはいるだろうからインターホン押したらきっと出てくるさ。」


 早紀(さき)というのは私の名前だ。妹と名前が似ているが、性格はまるで似ていない。自分で言うのも何だが性格は杜撰で、夏休みの宿題を夏休みの間に終わった確率は30パーセントを切っていると自負している。私も妹みたいに面倒見が良くて、人から好かれていて、物事を計画的に行う性格だったらどれだけよかっただろうか。




 さて、時間は少し進んで墓参りが終わった頃になる。墓参りと言っても墓石にお水をかけ、お線香を焚き手を数十秒間合わせるだけなので、まあ長く見積もっても車から降りてから10〜20分程度だろう。そして今、またもや困った状況になっている。先ほど私と父が話し合った通りに講堂でお昼を食べようとして、その許可を得ようと講堂の入り口にあるインターホンを父親が押したのだが、


「ごめんくださーい!誰かいらっしゃいませんか〜?管理人さんはいないのかな。管理人と言うよりはお坊さんなんだろうけど。お寺にも誰もいなかったし、こりゃ困ったな。」

 何だか今日の父親を見ていると頼りない、と言うよりは少し可哀想になってくる。


「あらあなた、人がいないのなら仕方ないわね。本当はもっとちゃんとしたところで食べたかったのだけれど、仕方ないわ。カーナビで調べてくださいな。あ、でも最近はその携帯でも調べられるんだっけ。早紀でも友紀でもいいわ、どこか調べてくれるかしら?」


 と母親が言う前に常に数手先のことを考えている我が妹は既にスマートフォンで調べており、両親にいくつかの場所を提示していた。本当にすごいな私の妹は、と考えながらふと講堂の方を一瞥し、「この前来たときは居たのにな〜」とか思っていた。そして何かが私の目に留まった。


不定期更新です。初投稿です。

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