苛立ち
「なぁ、一体いつまでお前らはここにいるんだよ」
ソファーにふんぞり返るように腰掛け天井を眺めている千春は扉の前に立っている屈強な男達にそう言った。しかし、男達は何も答えることなく立ち尽くしている。
「チッ、いい加減飽きてきた」
千春はそう言うとゆっくりと立ち上がった。
「ちょ、ちょい、千春姉さん。どうするつもりなの?」
「何を言っても返事がねぇんだ。それならこいつらは人間じゃねぇ、獣と同じだよ。なら、力づくで退かすしかねぇだろ」
千春はそう言って指の関節を鳴らした。そして、持ってきていた木刀を手に取る。その千春の態度を見て、今まで後ろに手を組み、微動だにしなかった男達は身じろいだ。その間に夏樹が入る。
「千春姉さん! 騒ぎはマズいって! 大人しく待っていようよ!」
「待っていたら現状は変わるのか? こんな体になったから行動したって何も出来ねぇかもしれないけどただ待つだけじゃ私の性分に合わねぇ。ここで動かなかったら私が私じゃなくなる。そんなのはまっぴらごめんだね」
千春の眼光と言葉の圧に負けた夏樹は言葉を返すことを諦め、道を譲った。
「さて、リハビリの相手ぐらいにはなってくれよ」
千春はそう言って木刀を構えた。すると丁度そのタイミングで扉をノックする音が聞こえた。ただコンコンと扉を叩くのではなく、どこか合図めいた独特のリズムであった。
「…どうぞ」
屈強な男の内の一人が返事をすると扉が開いた。そこに現れたのは鬼比良であった。
鬼比良は木刀を構えている千春を見ると「何をしているんだ?」といった表情で千春を見た。
「お、お前! 楓をどこにやった!」
鬼比良の側に楓の姿がない事を確認した千春は怒った口調でそう尋ねた。
「あの子の神経の太さに驚いたわ。きっと大物になるわ」
鬼比良はそう言って部屋に入ると先程まで千春が座っていたところに腰を下ろした。そして、男達に席を外すように言った。男達がいなくなったことを確認すると鬼比良は口を開いた。
「楓君は無事よ。何とか朽網会長にも見つからずに済んだわ」
「え? 会長が来ていたんですか?」
夏樹は驚いた表情を浮かべた。千春は黙ったまま腕を組み鬼比良を見据えている。
「えぇ、そうよ。今の今までいたわ。さっき帰ったけど」
「あのジジイは何時からいたんだ?」
「貴方達が来る前からよ。おかげでこっちは超大変だったんだからね」
「それで楓はどこだ?」
千春は苛立ちを隠そうとせずにそう尋ねた。」
「あの子は寝ているわよ」
「どういうことだ?」
「会長と一緒に屋敷内を回ったのだけれど、その道中で楓君のいる場所を案内する時があったの。そしたらあの子、堂々と眠っていたのよ。普通に考えれば自分が今置かれている状況が良いものではないと分かっているはずなのに。そのおかげでこっちは相当疲れたわ」
鬼比良はそう言って深いため息をついた。
「まぁ、今から起こしに行くから手伝ってよ。歩きながら詳しい話しもするわ」
鬼比良はそう言って立ち上がり部屋を出た。千春と夏樹もそれに続いて部屋を出た。




