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四季さん家の鬼退治  作者: ぞのすけ
9/91

通学路

 「…さ…おき…さい

 しろ…さん…起きて…さい」

 誰かの呼ぶ声がする。夢現の中で呼びかけてくる声に耳を傾ける。聞き覚えのある声だ。楓はゆっくりと目を開けるとそこには美冬利の姿があった。

 「ん? あれ、四季さん? なんでここにいるの?」

 「なんで、と言われましてもここは私の家ですよ。

 寝惚けているのですか? 昨日言ったじゃないですか。四郎園さんは昨日から四季家で暮らすことになったのですよ」

 楓は寝惚けた頭で一生懸命昨日の出来事を思い返した。全部思い出したところで、昨日の出来事と今起きていることが夢ではなかったんだと思った。

 「…朝起きたら夢でした。というのを期待したんだけど、そうはいかなかったみたいだね」

 「はい、残念ですが、夢ではありません。現実です。

 それはさておき、朝ごはんが出来ていますので案内しますね」

 楓は美冬利に導かれるまま自分の部屋を後にした。トイレを済まし、顔を洗うと食卓へと案内された。そこには既に席に着いている姉妹達の姿があった。

 「もー、遅いよ。私、お腹ペコペコだよー」

 秋穂は楓にそう言って頬を子どもみたいに膨らました。

 「すまんな、昨日言っていなかったが四季家は朝と夜はみんな揃ってから食べるのがきまり事でな。

 とにかく、秋穂がああいう状態だから席についてくれ」

 千春はそう言うと空いている席を教えた。楓はそれに従い、美冬利の横に座る形で席に着いた。

 「それでは、皆さん手を合わせてください。

 いただきます」

 夏樹が号令をかけると姉妹達は声を揃えていただきますと言った。楓は少し遅れていただきますと声を出した。

 食卓に並べてあったのは白米、味噌汁、目玉焼きと焼き鮭といった楓の中では贅沢な朝食だった。

 皆、黙々と朝食を口に運ぶ。楓もそれに倣って食べ始めた。食卓には何だか重々しい空気が漂っていた。

 各々、朝食を食べ終えると食器を洗って水切り場へと置いた。楓も同じようにして食器を置いた。すると、千春が何か思い出したように口を開いた。

 「しまった。楓の家から歯ブラシを持ってくるのを忘れていた。

 私が今日預かってくる。すまないな」

 「い、いえ、大丈夫ですよ」

 「楓きゅん。歯ブラシ無いの? よかったら、夏樹お姉ちゃんの歯ブラシ使う?」

 「きゅんってなんですか。

 それと、歯ブラシは使いません」

 「もう、楓きゅんったら、ツンデレなんだから」

 夏樹は楓の肩をパシンと叩いた。

 「痛いですよ! それと、今のどこにデレ要素があったんですか」

 そんなやりとりをしていると秋穂が横から少し呆れたような口調で話しかけてきた。

 「本当、夏樹姉さんは朝から元気だよねー どこからその元気が出てくるのか不思議だよ」

 「私が元気なんじゃなくて、あんたたちが元気無さ過ぎるんだよ。

 まだ、若いのに朝っぱらから重たい空気でご飯食べたって、美味しいご飯も美味しくないわ」

 「確かに、夏樹姉さんの言うことは一理あるけどさ、朝から元気の出る話題なんて何一つないよ」

 「いや、ここにあるでしょ! 突如現れた可愛い少年が! この顔だけでご飯三杯はいけるね!」

 夏樹はそう言って楓の肩をパシパシと叩いた。楓が痛そうにしていると夏樹の手を千春が掴んだ。

 「おい、大学行く前に整形外科行っとくか?」

 「い、いえ、遠慮しときます」

 愉快?な朝食も終わり、皆は学校へ向かう準備を始めた。初めに準備を終えて家を出ようとしたのは秋穂だった。

 秋穂は地元でも有名な女子高の制服を着ていた。

 「秋穂さん、女子高だったんですね」

 「そうだよー 共学だと元気な男の子がいっぱい寄ってくるから面倒でね~」

 「確かに、四季家の歩とたちはみんな綺麗な人だから男の人にモテそうですもんね」

 「そんなに褒めても何も出ないよ?」

 秋穂はニコリと笑って楓を見た。そして、すぐスマホを見た。

 「いけない。電車に遅れちゃう。それじゃ、行ってくるね~」

 秋穂はそう言うと、ヒラヒラと手を振って玄関へ向かっていった。楓はそれに対して頭を下げた。丁度、その時美冬利が話しかけてきた。

 「四郎園さん、準備終わりました? 私たちもそろそろ出発しますよ」

 美冬利にそう言われた楓は時計に目をやった。時刻は午前七時二十分を指していた。

 「結構早い時間に出るんだね」

 「ええ、四郎園さんのお家みたいに学校に近くありませんから。ここから学校まで大体三十分程度なのでこの時間に家を出るのが丁度いい時間ですよ。

 さて、出発しましょう」

 美冬利に促されて楓は四季家を後にした。それと人生で初めて女の子と一緒に登校である。楓は少しばかり緊張していた。

 家を出てから少し歩いたところで楓は美冬利に話しかけた。

 「あの、美冬利さんっていつも何時に起きてるの?」

 「四郎園さんって、いきなり変な質問しますよね。

 朝はいつも四時半ぐらいに起きていますよ」

 「よ、四時!? な、なんで、そんなに早いの?

 「自主トレーニングをするためです。私は最近、やっと実戦で戦えるようになりました。姉さん達の足を引っ張らないようにしないといけませんし」

 「そうなんだ…」

 「ですから四郎園さんも早く力をコントロールして戦えるようになってくださいね。鬼退治が出来る人は多いにこしたことはないですから」

 「そう言えば、鬼退治が出来るのは四季家だけなの?

 「いえ、他にもいますよ」

 「その人達と一緒に戦ったりしないの?」

 「未来永劫ないでしょうね」

 「ど、どうして?」

 「理由は簡単ですよ。四季家が武鬼を使うからです。それに加えて四季家自体あまり好かれていないのです」

 「…そうなんだ。と言うことは他の人達は武鬼を使わないんだ」

 「まぁ、専売特許みたいなものですからね。

 それに、鬼退治にも様々な流派があって、鬼退治をする人は世界中にいるのですが、自らの鬼の力を使って鬼退治をするのは四季家だけです。

 他の流派の方々はお経を唱えて退治したり、己の肉体のみで退治する方々もいます。その方々からすれば四季家はズルをしているように思えるのでしょうね。まぁ、あそこと比べたらマシですが」

 「え、じゃあさ、その人達の中にも鬼はいるんだよね? それなら特訓して武鬼を使えるようになったらいいんじゃないかな?」

 「…無理ですよ。さっきも言いましたが武鬼は四季家の専売特許です。今まで何人もの名だたるスペシャリストが武鬼の習得に挑戦しましたが誰一人として例外なく習得することが出来ませんでした。習得出来るのは四季の血を引く者のみなのです。

 なので、鬼の力を使って鬼退治をする四季家は異端として言われています。まぁ、結果を残しているのでそこまで直接的に言ってくるところはないのですが」

 「い、色々あるんだね。なんだか大変そうだ」

 「何を他人事みたいに言っているんですか? 四郎園さんもこれから鬼退治のスペシャリストになってもらわないと困るんですよ?」

 「すっかり忘れてた」

 「しっかりしてください。

 ちなみに、四季家はこれまで代々、鬼退治で一番の実績を持っています。その名に恥じぬようにしてくださいね」

 美冬利はそう言って笑顔を見せた。その表情は自分の家に誇りを持っているように見えた。そんな美冬利を見て楓は美冬利のことが少し羨ましく思えた。そんなことを思っていると、いつの間にか学校へと到着していた。昇降口で上履きに履き替えていると美冬利が話しかけてきた。

 「あっ、四郎園さん。言い忘れていましたが、今日から力のコントロールが出来るまで四郎園さんは私と一心同体だと思ってください」

 「ごめん。言っている意味が全然分からないんだけど」

 「ですから、片時も離れず私と行動してくださいという意味ですよ」

 「え、えーっと、それって、告白になるのかな?」

 「は? どこをどう捉えたら、そういった解釈になるのですか? もしかして、脳内にお花畑咲いてます?

 鬼の力が暴走したら困るからそう言っているだけですよ。私としても、他の人に勘違いされるのが辛いので嫌なのですが、千春姉際の命令なので逆らえないだけです。それと学校では鬼のことは口にしないでくださいね」

 美冬利は明らかに嫌な顔をして楓に言い放った。

 「冗談のつもりだったのに…

 そこまで否定しなくても…」

 楓はその場に膝をついて項垂れた。

 「そこまで落ち込まないでください。私も本気で言っているわけではありませんから」

 美冬利はそう言うと手を差し伸べてきた。楓は情けないなと思いながらもその手に掴まり立ち上がった。至る所から視線を感じたのは完全に立ち上がってからだった。

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