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四季さん家の鬼退治  作者: ぞのすけ
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疑い

 会議が終わり、会議室に残った駒走と千春達は少し話をしていた。

「駒さん、助かった。ありがとうございます」

「いえいえ、何とか間に合って良かったです」

 駒走は両手を胸の前で振りながら謙遜した態度でそう言った。

「急な頼み事だったのによく書類が間に合いましたね」

 夏樹がそう言うと駒走はとぼけた顔をした。

「え? 間に合っていませんよ。あれ、偽造したやつです」

 駒走は悪びれも無くそう言った。

「え、現職警察官がそんなことしてもいいのかよ」

「いい訳ないじゃないですか。私がこんなこと言うのもあれですが、バレなきゃ犯罪じゃありません。実際、申請しているのは確かなことですし、実質、所有権はこちらに移っているのです。

 あ、この後、何か用事がありますか?」

 駒走にそう尋ねられ、三人は顔を見合わせた。

「いや、特にはないですけど」

 千春がそう言うと駒走はスマホを取り出した。そして、どこかに電話をかける。話を聞いていると予約を取っているようだった。

「少し遅いですが、お昼ご飯でもどうですか? まぁ、もう予約しましたし行きましょう」

 駒走はそう言って半ば強引に三人を連れだした。

 建物の外に停めてあった車人乗り込むと駒走は車を走らせた。

「どこに行くんですか?」

 車内で夏樹が尋ねた。

「自分の知り合いが経営している店があるのでそこに行こうと思っています。個室があるのでそこで話でもしましょう」

 それから車内では他愛のない話が広げられた。

 車を走らせておよそ十分。どうやら目的の場所に到着したようだ。そこには暖簾も看板も無い普通の一軒家だった。

 駒走は一軒家の敷地内にある駐車場に車を停めた。

「さっ、着きましたよ」

「え? ここ、どう見ても人ん家ですよね?」

「隠れ家的名店というやつです」

 駒走はそう言って車を降りると家の玄関に回り、インターホンを鳴らした。

『どちら様ですか?』

 インターホンから女性の声でそう尋ねられた。

「駒走と申します」

『少々お待ちください』

 やり取りは一般的なそれだった。ほんの少し待たされると家の戸が開いた。

「中へどうぞ」

 エプロン姿の女性は駒走一行を中へ案内した。玄関で靴を脱ぎ、中へと足を踏み入れる。内装もごく一般的な家と変わりはなく、本当に飲食店なのかと疑う程だった。

 廊下を歩き、右手にある扉を開くと階段が現れた。

「こちらを下りていただくと、扉がありますのでその中に入って椅子に座りお待ちください」

 エプロン姿の女性はそう言うと頭を下げ、どこかへ行った。女性に言われた通り皆は階段を下りた。

「本当に隠れ家ですね。こんなの誰が気付くんですか」

「全くその通りですね。まぁ、味は確かなので安心してください」

 そんな短いやり取りをしていると階段が終わり、目の前に扉が現れた。その扉を開けると目の前には大きなテーブルが一つあり、その真ん中には肉を焼くためと思われる金網がテーブルに埋め込まれるようにあった。その上には排気用のダクトも備えてある。

「焼肉ですか?」

「そうです。ここは焼肉屋さんなんです。外見からは全く分からなかったでしょ?」

「まず飲食店には見えないんですけどね」

 千春がそう言うと駒走は声をあげて笑った。

「確かにそうですね」

 皆が席に着くと扉をノックする音が聞こえた。そして、先程のエプロン姿の女性が水を持ってきたようだった。

「失礼します。お冷です。メニューはお決まりでしょうか?」

 女性がそう尋ねると駒走以外は首を傾げた。

「メニュー表もらってないですけど」

 夏樹がそう言うと今度はエプロン姿の女性が首を傾げた。

「あー、すみません。店長のオススメでお願いします」

 駒走がそう言うと女性は「かしこまりました」と言って部屋を後にした。

「ここメニュー表って無いんですか?」

「あることにはあるけど、なんて書いてあるのか分からないので。大抵店長のオススメか今日入った肉を聞いて頼むのが主流ですかね」

 駒走は苦笑いを浮かべてそう言った。

「なんか一見さんお断りみたいな店ですね」

 楓は部屋を見渡しながらそう言った。

「別にそう言う訳じゃないんですが、店の外見とメニュー表の所為でそう思いますよね」

「知り合いの店と言っていましたけど、駒さんは店長とお知り合いなんですか?」

「そうなんです。子供の頃からの仲ですね。メニュー表が何と書いてあるのか分からないと何回も言い過ぎてメニュー表が無くなっちゃんですよね。本人は真面目に書いたと言っているのですが、流石にミミズが酒飲んで蛇行運転しているような字を解読するのは私には不可能でした」

 駒走がそう言うと先程の女性が肉を持って戻ってきた。

「悪かったわね。字が汚くて」

「おやおや、聞こえていましたか」

 駒走はニヤニヤしながらそう言った。

「当たり前です。お客さんは貴方達しかいないし店も広くないから家でも聞こえてきます」

 店長はそう言いながらテーブルに肉の盛り合わせを置いた。

「人間は完璧な人を見るとどこか欠点を探して揚げ足を取りたくなる生き物なのですよ。だから、お気になさらずに」

「あなたそれ、余計に貶しているわ」

 店長は眉を顰めながら駒走を見た。そして、すぐさま顔の表情を戻すと千春達を見た。

「今日はゆっくりしていってくださいね。若いからたくさん食べてください」

 店長はそう言うと火を入れ、肉の説明をした後戻っていった。

「さて、食べましょうか」

 駒走がそう言ってトングを手にした時、スマホが鳴った。

「あ、すみません。私です」

 駒走はポケットからスマホを取り出し画面を見た。そして、顰め面をした。

「うわー、だるいなー

 ちょっとだけ静かにしていてもらえますか?」

 駒走はそう言うとスマホをテーブルの上に置き、皆に聞こえるようにスピーカーにした。スマホの画面には『クソジジイ』と表示されている。

「はい、駒走です」

『お前さん、よくもやってくれたな』

 声の主は朽網会長だった。

「さて、何の事でしょうか?」

『恍けるなよ。小娘が』

 電話の口調から分かるように朽網会長はかなり怒っていた。

「いやいや、私には何のことか皆目見当もつきません。それにもう小娘と呼ばれるような年齢ではないですよ。ふふっ、自分で言っていて悲しくなりますね」

 駒走ののらりくらりとした対応が朽網会長の琴線に触れたようで急に声を荒げた。

『馬鹿にしているのか!!』

「ですから、私には何のことか分かりませんって」

 駒走はそう言いながら手に持っていたトングの開閉具合を確認している。

『あくまでもシラを切るつもりか。あんな小細工をしよって』

「小細工?」

 駒走のあまりにも嘗めきった態度に千春と夏樹は笑いを堪えるのに必死だった。

『四郎園の書類の件だ。聞けば、お前らに所有権が渡るのは明日だそうじゃないか』

「あぁ、それですか。それは会長がちゃんと確認していないのがいけないではないですか? まぁ、何にせよ、今日まではそちらに処分を下す権利はあるみたいですし、日付が変わる前に四郎園を捕獲すればよいのでは?」

『今、四郎園はどこにいる』

「知りませんよ。さっきまで会議室で話していたので、まだ周辺にいるのではないでしょうか。

 というより、先程は皆の居る前だったので空気を読んで発言したのですが、会長ってぶっちゃけ鬼と繋がっているんですか?」

 駒走の核心の突く質問に今の今まで笑いを堪えるのに必死だった二人は真面目な表情になりスマホに耳を傾けた。

『何をそんな世迷言を。何故、鬼を滅ぼすために人生を捧げてきた儂が鬼にならねばならんのだ』

「会長もご存じのはずですよね。つい最近、うちで保管していた物が何者かによって奪われたことを」

『氷像の件か? 氷鬼の仕業と言われておるやつだろう。もちろん耳にしているが』

「流石、会長ですね。そうです。氷像の件です。あまり凶悪な事件を起こさなかった氷鬼ですが、今回の件でいつ暴れだすのか分かったもんじゃありません」

『何が言いたい』

「雷鬼を倒した四郎園は現在、最も氷鬼を倒しうる可能性が高いですよね。そんな存在をみすみす手放すような行為をするなんて普通は考えないと思うんですよね。

 なので、私は会長が鬼になってしまい、四郎園がこれ以上生きていると自分の存在が危ぶまれるから消そうとしたのではないかと考えているのですよ」

『馬鹿も休み休み言え。儂が鬼になって何のメリットがあると言うんだ』

「それは鬼になった者にしか分からないので私からは何とも言えません」

『はぁ。とにかく、そこに四郎園と四季はいないのだな』

「えぇ、いません」

 駒走がそう言うと朽網は「分かった」と言って通話を終了させた。駒走はため息をついてスマホをポケットに戻した。

「あ~、朽網会長は鬼になっちゃったか~」

 駒走はそう言いながら肉を網の上に乗せた。

「すみませんね、こんなご馳走を前にお待たせして」

「それはいいのですが、何故会長は鬼になったと断言できるのです?」

 千春も網に肉を乗せながら尋ねた。

「まぁ、まだ断言と言えないのですが、さっきの電話で氷像が無くなった話をしたじゃないですか」

「あー、それ。私も気になったんだけど、まず氷像ってなに?」

「簡潔に言えば氷鬼が氷鬼になった日の被害者ですね。生きたまま冷凍保存された人物です。この氷がとても厄介でして、いくら熱湯をかけても融けないし、ハンマーで叩いたりドリルで壊そうとしたのですが、とても壊れる代物ではないやつでして」

 駒走はそう言いながら肉の具合を見ている。そして、話を続けた。

「それで、その氷像をうちでずっとほかんしていたんですよ。夏場はすごく便利な代物だったんですけどね。冷房をつけなくて済むので電気代がかからなかったんですよ」

「えぇ、そんなもの置いていたら君が悪くないですか?」

 夏樹はそう言いながら焼けた肉を取った。

「あっ、おい! 私が育てた肉を取るんじゃねぇよ!」

「誰の肉とか書いてないからセーフでしょ。それにこれは楓きゅんにあげるやつだから。はい、アーン」

 夏樹はそう言って楓の口元に肉を運んだ。楓は初めは遠慮していたが圧に負けて肉を口にいれた。

「あっ、あいつは放っておいていいですよ。話を続けてください」

「あぁ、それでその氷像が最近、何者かによって奪われたんですよ。奪われただけで済んだならどれだけ良かったか。警備していた者、それに呼ばれ手応援に駆け付けた者、皆殺されてしまいましてね。今、うちは人手不足で困っているんです。

 おっと、話が脱線しましたね。それで、この情報を知っている者は極一部の人しかいないんですよね」

「その極一部に会長は含まれていないと」

「はい、そういうことです。まぁ、その極一部の人間が言いふらしたと言うのなら話は別ですが。でも、それなら鬼退治のエキスパートである四季家の方々にも話がいっていないというのはおかしな話です」

「会長のところで止まっていたという可能性は?」

「そのメリットがないじゃないですか。氷鬼がその氷像を奪い返したということはその氷像は何か大切なものだという可能性が高いですよね。つまり、何かを企んでいてもおかしくはない。そうなったら、千春さんはどうしますか?」

「何かされる前に叩き潰す」

「ははっ、頼もしい。

 普通はそうですよね。ですが、会長はそうじゃなかった。まぁ、まだ状況証拠だけなので限りなく黒に近いグレーといったところでしょうか」

 駒走はそう言うと再びスマホを取り出し、誰かに電話をかけた。

「あ、もしもし、四十分後に迎えに来てもらえる? 七号車でお願いしますね。え? いや、人を乗せるから後ろのシートは起こしておいて。いや、だから、獲物じゃなくて、生きている人だから。後、二人で来て一人は私の車に乗って帰って。じゃあ、よろしくお願いしますね」

 駒走はそう言うとスマホをポケットに戻した。そして、千春に話しかける。

「今日は帰らない方がいいですよ」

「私もそう思います」

 千春はそう言って、秋穂に連絡を取るためにスマホを取り出した。すると丁度そのタイミングでスマホが鳴った。画面には『秋穂』と表示されている。

「もしもし、どうした?」

『今、協会の人が四郎園はいるか?って尋ねてきて、まだ帰ってきてないって言ったら戻ってきたら連絡するようにって。何か巻き込まれたの?』

「まだ、そこに協会の人間はいるか?」

『いや、さっき帰ったけど』

「近くに気配は?」

『どうしたの? 何かあったの?』

 秋穂はとても心配したような口調だった。

「どこで聞き耳立てられているのか分からないから詳しくは言えないけど今日は帰らない。夏樹も楓もだ。明日帰ってきたら詳しく話す。お前ら、今日は一段と戸締りを確認してから寝ろよ」

『ちょ、ちょっと―』

 秋穂が何かを言う前に千春は通話を終了させた。

「おー、さすが会長。手が早いですね。

 さて、まだ時間はありますし、もう少しゆっくりしますか」

 駒走は呑気なことをいいながら肉を焼き始めた。



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