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四季さん家の鬼退治  作者: ぞのすけ
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不安

 楓は寝付けずにいた。いつもと違う環境で寝ているのもあるが、それ以上に今日一日は色々なことがありすぎた。特に鬼のことが楓の睡眠を妨げる一番の要因であった。

 「…喉が渇いた」

 独り言を呟くと起き上がり台所まで向かった。とは言っても台所の場所は分からないので広い家を探索するみたいな形になる。

 とにかく二階にはなさそうなので一階へと降りた。すると、リビングからテレビの音が聞こえる。恐る恐る覗いてみると誰かが座ってテレビを見ていた。その人物は楓の気配に気付いたのか、こちらを見てきた。

 「ん? なんだ楓か。

 どうした、眠れないのか?」

 話しかけてきた人物は千春だった。千春は片手に持っていたビール缶をこちらに向けて振っている。

 「えっ、は、はい。

 なんだか眠れなくて」

 「ははっ、まぁ、無理もないよな。色々あったもんな。それで寝付ければ大したもんだ。

 こっちに来なよ」

 千春はそう言って手招きをした。楓は言葉に誘われるがまま千春の元へ向かった。そして、千春から少しだけ離れたところに腰掛けた。

 「あ、あの、腕のことすみませんでした」

 「だから、気にすんなって。

 それとも、お前が責任取って私をお嫁さんにしてくれるのか?」

 「い、いや、それは…」

 「冗談だよ。冗談。

 とにかく、腕のことは気にすんな。千切れなかっただけマシさ」

 千春はそう言うとビールを一口飲んだ。

 お互いに沈黙が訪れる。その空気に耐えられなかった楓は千春に話しかけた。

 「あの、ビールって美味しいんですか?」

 「ふっ、あはははっ、お前もいきなり面白いことを聞くな。

 う~ん、そうだな。美味しいか、美味しくないかで聞かれると私は美味しくないかな」

 千春はビール缶に目をやりながら答えた。

 「じゃあ、なんでビールを飲んでいるんですか?」

 「さぁ、なんでだろうな。

 たまに、帰ってくる父さんが美味そうにビールを飲むんだよ。母さんは、そんな父さんを見て嬉しそうに笑うんだ。私もビールを飲めば、あの日が返って来るんじゃないかなって思ってさ」

 「そう言えば、お父さんとお母さんはどうしてるんですか?」

 「父さんは鬼退治に行ってるよ。月に一回帰ってくる時もあれば、半年帰ってこない時もある。なんたって世界で一番強い鬼退治の人だからな。

 母さんは…、母さんは死んだよ。鬼に殺された」

 千春はそう話すとまたビールを口に運んだ。

 「えっ、あ、あのすみません」

 「なんで、お前が謝るんだよ。言ったろ? 私たちは死ぬ覚悟で鬼退治をやってるんだ。仕方がないことだったのさ。あの日のことは…。

 ところで、お前はその後、体の調子はどうだ?」

 「今のところは何ともないです」

 「そうか、それは良かった。

 そう言えば、お前、あのDVDを見たんだってな」

 楓は千春にそう言われて、あのショッキングな映像のことを思い出した。何も答えない楓を見て千春は話を続けた。

 「あの映像に映っていた奴は私の高校生の時の同級生なんだよ。

 呻き声しか映ってないから、どういう人間か分からないかもしれないけど、高校の時は凄く真面目な奴でさ。

 野球部に所属していて、エースで四番っていう漫画に出てくるような奴で、練習も一生懸命取り組んでいて、誰よりも早く部活に行って、誰よりも遅くまで練習していた奴だった。でも、二年生の時に怪我をしてしまってさ。その時から変わってしまったんだよ。なんか、あいつの中で何かが壊れてしまったんだろうな。

 それから、悪い評判の奴らとつるむようになってから、一生懸命練習に取り組んでいたあいつはいなくなった。そのうち学校にもこなくなって、いつの間にか、そいつは退学していた。

 そして、それから、そんなに時間が経たないうちにそいつの鬼は生まれた。危ない薬に手を出していたんだってさ」

 千春はそこで話を区切りビールを飲んだ。

 「そ、その鬼はどうなったんですか?」

 「…私が退治したよ。仕事とはいえ、何とも言えない気持ちだったね。切った後は何だか涙が止まらなかった。今思えば、きっとあいつのことが好きだったのかもしれない。それは今となっては分からないことだけどさ。

 ふっ、私、酔っぱらってんのかな~。なーんで、こんな話を楓にしてんだろうな」

 「そ、そんなことがあったんですね」

 「それに、同級生の鬼を退治したのは私だけじゃないよ。夏樹も秋穂も自分の友達だったやつの鬼退治を経験してんだ。

 仕事とはいえ、結構きついもんがあってさ。あいつら一ヶ月間、魂が抜けたようにすごしていたもんな。

 久しぶりにあんなに元気にしているあいつらを見た気がするよ。

 いや、私が見ていなかっただけかもしれないな。礼を言うよ。ありがとな」

 「い、いや、僕は何もしていないですよ」

 「ふっ、やっぱりお前は面白いやつだ。

 …だが、稽古になったら厳しくいくからな。もし、お前の鬼の力がコントロール出来なくて暴走するなら、その時は私は楓のことを遠慮なく切る。

 そのことだけは覚えておいてくれ」

 千春の目は鋭く光り、楓のことを見た。楓は生唾をゴクリと飲み込んだ。

 「そ、そのことなんですけど、本当に僕は鬼をコントロール出来るようになるんでしょうか?」

 「あぁ、出来るさ。

 言っただろ? 鬼人の力を所有していた人は世界で三人いるって。その人たちは全て、もれなくコントロール出来るんだ。お前に出来ないはずはない。後は楓の努力次第だ。自分を信じろ。

 ん? もうこんな時間か。さすがに喋り過ぎたな。お前も早く寝ろよ。明日学校に遅刻するぞ」

 千春がそう言ったので時計に目をやると、午前一時を指していた。確かにこのまま起きていては明日の学校に支障が出る。楓は千春に台所の場所を聞き、水を飲んでから大人しく部屋に戻った。

 部屋に戻ってから眠りにつくまでにさほど時間はかからなかった。

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