到来
一方その頃、美冬利と楓は秋寺のいる病院へと辿り着いた。夜間という事もあり、病院の扉は閉ざされていた。外にあるインターホンを鳴らすと当直の看護師が対応してくれ、中に入ることが出来た。
看護師に内容を伝えると秋寺は帰宅しており、今から向かうとのことでここに来るまでに十五分程かかるとのことだった。
「千春さん、一人で大丈夫かな」
楓はポツリと言葉を漏らした。
「えぇ、絶対大丈夫ですよ。むしろ私達に被害が及ばないように病院に行かせたのだと思います。千春姉さんが使おうとしていた技は最強の一撃必殺技ですからね」
「そんな技があるんだ」
「私も生で見たことはないですよ。とてつもなく体力を使う上に範囲をコントロールするまでに至ってないらしくて。というか、そもそも千春姉さんが何故カウンター攻撃を主軸にしているのかと言うと―
美冬利が説明を始めようとしたその時、自分らが来た方向から身の毛がよだつ程の大きな鬼の気配を感じた。ここからかなり距離があるとはいえ、全身の毛が静電気に充てられたように逆立つような感触。紛れもなく四鬼の一角、雷鬼の気配だった。
「な、なんでこんな時に… わ、わ、私も行かなきゃ」
美冬利の声は震えていた。いや声だけでなく、体も震えている。その理由はそこにいるのが雷鬼だけではないからだ。他にも雷鬼には到底及ばないが上位クラスの鬼の気配を多数感じる。行ったところで全く持って勝ち目など無く、命を捨てに行くことに変わりはない。
そんなことは頭では分かっているが、四季家にとってそれを理由に行かなくていい事にはならない。
恐怖。頼れる姉達はとても戦える様子ではない。自分が戦わなければ町に甚大な被害を与えるのは確実だろう。だが、行ったところで殺されるだけだ。しかし、四季の名前を背負っている以上は向かわなくてはならない。
そんな葛藤に美冬利は悩まされた。すると、それを察してか楓が美冬利の肩をポンと叩いた。
「僕が行ってくるよ」
「で、でも」
「大丈夫。僕も役に立ちたくて頑張って修行したんだ。それに戦う訳じゃない。勝ち目がないことぐらい素人の僕でも分かるよ。だから、千春さんを助けてからここに戻ってくる。美冬利さんは秋寺さんが来るまでここに居て。すぐ戻ってくるから!」
楓はそう言うと激しい雨が降る中、再び倉庫に向けて駆け出していった。美冬利はその姿を黙って見守ることしか出来なかった。
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「なんでこんな近くに隠れてやがんだよ。私達を殺したいなら剛鬼と一緒に戦えばいいだけの話じゃねぇか」
千春は倉庫内で積み上げられた木箱の上に腰掛け、こちらを見下している雷鬼に向かってそう言った。
「ふっ、馬鹿言え。お前ら四季を消すことにそんなに興味はねぇよ。雑魚だしな。ただ、お前個人にはちょっとした借りがあってな。
あのタイマンした時、俺の腹に一発いいのを入れてくれただろ? そのお返しをしたくてよ。やっぱ借りっぱなしなのは俺の性に合わないからな。だから、邪魔な奴らを消してもらうために剛鬼を使ったんだよ。こいつらはこんだけ子分を引き連れて、「仲間に入れてください」なんて懇願してきたからよ」
雷鬼がそう言うと物陰から加味土師真詩呂改め魅鬼が姿を現した。
「あん時のガキか。通りで剛鬼の時に見ねぇと思ったんだよ。そりゃ、強制的に鬼に変える力があればこんだけ中位から上位の鬼がいるわけだわ。おまけに全員あっちの倉庫が片付くまで気配を消しやがって。意地汚ねぇにも程があるだろ。」
千春はそう言ってふぅと小さく息を吐いた。そして、話を続ける。
「まぁ、文句言っても始まんねぇ。やることは初めから決まっている。ここにいるやつら全員皆殺しだよ」
千春はそう言うと先程まで杖代わりにしていた武鬼を構えた。
「ふっ、笑わせんなよ。お前はもう立っていることさえままならねぇ状態なのに皆殺しだと? 冗談が過ぎるぜ、千春ちゃん」
雷鬼がそう言って笑うと雷鬼の頬を何かが掠めた。頬から血が滲む。千春の方を見ると冷たい目付きで千春は雷鬼を睨みつけていた。
「…やれ」
雷鬼が静かにそう言うと鬼達は一斉に千春に襲い掛かった。その鬼の大軍を千春はダメージを受けながら応戦した。やはり、先程の疲労があり動きにいつものキレは無い。着実に蓄積していくダメージに何度も倒れそうになった。
もう駄目だと思ったその時、倉庫の扉を誰かが蹴飛ばした。その音で倉庫内にいた全員がその方へ目を向けた。
「…楓かよ。何しに来たんだ?」
千春はその場に尻餅をつくとそう言った。
「た、助けにきました!」
楓はそう言うと、千春の元に歩み寄った。鬼達はまだ動かない。
「だ、大丈夫ですか?」
楓はそう言って手を差し伸べた。
「お前、この状況見て大丈夫だと思うか? 一丁前に格好つけやがって。手、めっちゃ震えてるじゃねぇか」
千春は楓の手を取って立ち上がると雷鬼の方を見た。
「わりぃ、待たせたな。第二ラウンドといこうじゃんか」




