豪雨
無人島から戻ってきて一週間ほど経った日。その日は記録的な豪雨が降っていた。一メートル先も見えない程激しい雨。そんな雨の中を四季家姉妹と楓は町外れにある倉庫へとやってきた。
千春は倉庫の扉の前に立つと、ふぅと小さく息を吐いた。そして、目の前の扉を思いっきり蹴飛ばした。扉は激しい音を立て、倉庫内を二転三転する。その音で中にいた五十からいる鬼達は一斉に扉の方を見る。
「よぅ、お前ら。私の住んでいる町で気配を消すことなく集会を開くなんて、いい度胸してんじゃねぇか」
千春はそう言って薄暗い倉庫の中を見渡した。すると、とある鬼が目についた。
「お前、確か剛鬼だったよな。ずっと見ねぇかと思ったら、せこせこ仲間を集めて。これだけ集めれば充分だと思ったか?」
剛鬼と呼ばれた鬼は意味有り気な笑みを浮かべた。
「ふっ、充分だろ。楽勝過ぎてお釣りがくるレベルだよ」
「おぅ、後で吠え面掻くなよ」
「言ってろ」
その言葉を皮切りに五十を超える鬼達とたった五人の人間との戦いが始まった。そこに集まっていた鬼達は中位の中でも上位に近い実力を持っており、いくら鬼退治を生業としている四季家でも、かなり苦戦を強いられていた。だが、その中でも群を抜いて鬼を退治していたのはやはり千春だった。次から次へと絶え間なく襲い来る鬼を細切れにしていく。夏樹と美冬利もそれに負けじと鬼を退治していく。
「はぁ、はぁ、やっぱり、これだけ数が多いと流石に骨が折れるな。
楓! そっちは大丈夫か!?」
夏樹は肩で息をしながら楓に尋ねる。楓は二体の鬼と戦いながら「大丈夫です!」と返した。
「やっぱ、楓きゅんは可愛いねぇ。お姉ちゃんももうちょっと頑張らないと、ねっ!」
夏樹はそう言って薙刀を鬼へと振り下ろした。
かなりのハイペースで倒されていく鬼達。剛鬼はそれを想定内だといった様子で眺めていた。
「…そろそろだな。まずはあいつからか」
しばらく眺めていた剛鬼はそう言うとおもむろに立ち上がった。そして、一瞬にして秋穂との距離を詰めた。
「…ッ!」
気が付いた時には遅かった。秋穂の体は剛鬼の一撃により吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「秋穂!!」
「人の心配をしている場合か?」
秋穂に気を取られた夏樹の背後に剛鬼が回り込む。そして、夏樹の顔に回し蹴りを食らわせた。
「ふぅ、これで仕事の八割は終わったかな。後は…、出たとこ勝負か」
剛鬼はそう言って首の関節を鳴らした。
その様子を見ていた千春は急いで美冬利と楓を呼び寄せた。
「おい、一度しか言わねぇからよく聞けよ。二人は夏樹と秋穂を秋寺さんのところに連れていけ」
「千春さんはどうするんですか!? もしかして、一人で戦うつもりですか!? まだ大勢いますよ!」
「いいから早く行け」
楓は何か言おうとしたがそれを美冬利が首を横に振って止めた。楓は納得のいかない様子だったが、指示に従い秋穂を抱えると夏樹を抱えた美冬利と一緒に倉庫を出た。
「おい、逃がすか。追え」
剛鬼が指示を出すと三体の鬼が追いかけようと千春の横を通り過ぎていった。しかし、その鬼達は倉庫の出入り口に着く前にはバラバラになって死んだ。
「おい、クソ共。どこの誰に刀を抜かせたか、その体に刻みこんでやるよ」
そう言った千春の手には刀身が朱色に光る刀が握られていた。
「それがお前の武鬼の全貌か。なかなかカッコいい刀じゃないか。
正直、言うともうこの時点で俺の仕事は終わりだ。カウンターを主に戦っていた奴が刀を鞘から抜いて攻めることに転じてきたんじゃ、俺には勝ち目は無い。だが、俺ら鬼達の勝ちだよ。試合では負けたが勝負には勝ったってやつだ」
「遺言は終わりか? それならここにいる奴らまとめて死ね」
千春はそう言うと刀をたった一つ振り下ろした。そのたった一振りは千の斬撃を生み出した。
その斬撃は倉庫内にいた鬼を残すことなく殲滅した。
一仕事終えた千春はその場に倒れ込んだ。額からは脂汗が滝のように流れており、息切れを起こしていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、やっべぇな。体動かねぇ」
千春がそう言って一息つこうとした瞬間、すぐ近くから途轍もなく大きな鬼の気配を感じた、
「…しんど。過労死させる気かよ」
その気配に覚えがあった千春は武鬼を杖代わりにして立ち上がり、よろけながら倉庫を出た。
そして、二つ隣にあった倉庫の扉を開けた。




