合宿 五
三日目の昼。皆は海に来ていた。
「よっしゃああぁ! 海だああぁ!」
千春は嬉しそうに叫んだ。可愛はその横で不満そうな表情を浮かべている。
「ん? なんだよ。楽しくないのか?」
「楽しい楽しくない以前に! 何で! 私だけ! 水着なのよ! 他の皆は体操服みたいな動きやすそうな恰好をしているわけ!」
「だって、別に海で泳がないからな。可愛は泳いできていいけど」
「はぁ? じゃあなんで、今「海だああぁ!」ってテンション高く叫んだのよ!」
可愛が声を荒げてそう言うと千春は不思議そうに首を傾げた。
「そりゃ誰だって、こんな綺麗な海見たらテンション上がるだろ」
「それは泳ぐ人のテンションよ。あんたってたまに引くぐらい変な事言うよね。それで泳がないのになにするわけ?」
可愛がそう尋ねると千春は先に見える崖を指差した。
「あれを今から登る」
「は? 命綱無しで?」
そう言われた千春は頷いた。
「そんなもん無いし、要らない」
「要らないって、落ちたら怪我じゃ済まないでしょ」
「大丈夫だって、落ちたぐらいじゃ死なないだろ」
「いや普通に死ぬから。
もしかして、鬼比良さんも一緒に登るの?」
「馬鹿じゃないの? そんなゴリラみたいな芸当が出来るのは人間じゃ無理よ。
私と駒走さんと真奈美さんは今日の食料確保が仕事よ」
可愛に尋ねられた鬼比良は鼻で笑ってそう言った。
「まっ、ゴリラの件は後でたっぷり聞くから。とりあえず、私達はトレーニングしてくるよ。食料確保は頼んだ」
千春がそう言うと姉妹と楓は崖の方へと向かっていった。
「ほんとに同じ人間なのかしら…? ま、まぁ、私達は私達の仕事をしましょう!」
可愛達は任された通り、食糧調達をした。海に来ていたので魚以外の海産物をある程度調達した。主に貝類が多かった。
「この前、四季さんが大きな魚を取って来たけど、一体釣竿もないのにどうやって取って来たのかね」
可愛がそう呟くといつの間にか隣にいた駒走がその独り言に返答した。
「素潜りですよ。彼女はそのやり方でいつも魚を取ってますよ。釣竿にかかるのを待っているのが苦手なんですって」
「うわっ! びっくりしたぁ… 駒走さん、いつからそこに居たんですか」
「何時からって、結構前からいましたよ」
駒走はそう言って曇りのない笑みを浮かべる。その笑顔を可愛は訝しげな眼で見る。
「失礼なことだと重々承知しているのですが、前々から思っていたんですけど、駒走さんのその笑顔って嘘くさいですよね」
「ふふっ、そうですか?」
「はい、裏が見えないというか、裏が無いというかって感じで、なんか企んでいるんじゃないかって思ったりします」
可愛がそう言うと駒走は声をあげて笑った。
「君は上司に向かって堂々と物をいうものですね。感心しますよ」
「す、すみません…」
「いえいえ、謝らなくていいですよ。自分でもそう思いますから。
さて、食糧調達の続きをしましょうか」
駒走はそう言うと歩みを進めた。




