合宿 三
「へー、島にこんな洞窟があったんだな」
千春は洞窟の入り口に立つと感心した様子でそう言った。
「初めて見たんですか?」
「この島に来るときはテントを張った場所と海以外はあまり探索しなかったですからね。父さんが、お化けが出るぞー、とか言うもんで」
「へぇ、千春さんにも怖いものがあるんですね」
「当時は怖かったですけど、今はもう大丈夫です。ホラー映画をいっぱい見てお化けへの耐性をつけたんで」
「…、まぁ、それは置いといて中に入りますか?」
駒走がそう尋ねると姉妹は頷いて洞窟内へと足を踏み入れた。
洞窟内はとても暗く、ジメジメしていた。千春が持っていたジッポライターの灯りを頼りに奥に足を進めていく。しばらく進むと分かれ道が出てきた。
「なんでこういう時に決まって分かれ道があるんでしょうね。洞窟って基本一本道じゃないの?」
「そんな文句を言ったってしょうがないでしょ。どっちに進むの?」
秋穂は呆れたようにそう言って皆に尋ねた。
「私は右だな。右利きだから」
「ちょっと夏樹姉さんは黙ってて」
「私も右利きなので右でいいですよ」
「駒さんまで…
それなら私も右利きだから右になるんだけど。千春姉さんはどっち?」
「私は左だ」
千春はそう言って左の方を指差しtあ。
「「「は?」」」
皆は口を揃えてそう口に出した。
「なんで左なの? 多数決ならもう右確定なんだけど」
「私は多数決が嫌いなんだよ。やっぱ信頼できるのは力だからな」
千春がそう言うと夏樹はため息をついた。
「出たよ。千春姉さんの訳の分からない発言。こう言い出したら何しても撤回しないからなー
しょうがない、左に進もう」
千春の言うことに従い、左に進んでおよそ二分。四人は行き止まりに突き当たった。
「…さて、引き返すか」
千春は何事も無かったかのように踵を返した。皆、何も言うことはなく黙って分かれ道のところまで戻った。
さっきの道を右に進むと遠くからすすり泣く声が聞こえてくる。
「え、ちょっと待って。もしかしてお化けがいる?」
千春は足を止めて真面目な顔をしてそう言った。
「そんなわけないでしょ。きっと可愛さんだよ」
「なんだよ。それならそうと先に言えよ」
千春は笑顔でそう言ったが、そこから一歩も動こうとしない。
「千春さん? 何をしているんですか? 早く行きましょう」
「いや、私はここで見張っておくんで駒走さん達で見てきてくれますか?」
「ん? 何を見張っておくんです? もしかして、ちょっぴり怖いんですか?」
「何って、鬼からに決まっているじゃないですか」
「いや、そんなキメ顔で言われましても…
まぁ、分かりました。見てくるんで、そのジッポ貸してくれますか?」
駒走がそう言うと千春は驚いた顔をして「え?」と言った。
「いや、何驚いているんですか。その灯りがないと先が暗くて見えません」
「え、あ、いやぁ…」
千春はそう言って目を泳がせている。そして、すぐさま何かを思い出したかのような仕草を見せた。
「やっぱり私も行きます。何かあったら心配なので」
見事にクルクルと回る手の平に皆、呆れてため息をついた。
そのまま足を進めると行き止まりのところに蹲って泣いている可愛の姿があった。その足元には何故かビールの空き缶が三本転がっていた。




