合宿 二
合宿二日目。早朝五時。誰よりも早く起きた千春は皆の朝食を確保する為、海へとやってきた。
千春はじっと海を見る。ふぅ、と小さく息を吐くと勢いよく海に飛び込んだ。そして、海からあがると千春は大きな魚を掴んでいた。その魚を掴んだまま皆が寝ているテントへと向かった。
テントに着くと、可愛を除いて全員起きており、所々で欠伸が出ているのを見ると、皆寝起きだといたところだろうか。
「おはよーございまーす」
千春も皆の欠伸につられ、欠伸をしながら挨拶をした。
「まだ可愛は寝ているんですか?」
「えぇ、そうみたいですね。まぁ、無人島に来る前に徹夜で済ませないといけない仕事があったみたいですからね。
それより、その大きな魚は、どうしたんですか?」
「あぁ、これは朝ごはんのためにさっき捕ってきました」
千春と駒走がそんな会話をしているとテントから可愛が出てきた。髪の毛は寝癖が酷くボサボサになっている。
「あっ、駒走さんおはようございます」
可愛は目を擦りながらそう言った。
「おい、可愛。私にもちゃんと挨拶しろよ」
「は? なんで千春がここに…って私、昨日から無人島だったわ。おはよ」
そんな会話をしながら皆で朝食の準備を進めた。
しばらくすると朝食の準備が終わり、皆は千春が取って来た魚を焼いたものが並んでいる。
「じゃあ、皆さん手を合わせてください。いただきます」
千春がそう言うと皆はそれに合わせて「いただきます」と言った。そして、魚を食べ始める。
「かーっ! やっぱ沁みるねぇ!」
千春が大きな声でそう言うと可愛はそっちが気になり千春の方を向いた。すると、千春の手には缶ビールが握られていた。
「ちょ、ちょっと、朝っぱらからビールって」
「ん? なんだよ。文句あんのか?」
「文句しかないわよ。私にもちょうだい」
可愛はそう言って手を差し出した。千春はそれに対して舌を出す。
「なんでだよ。嫌に決まってんだろ。私が持ってきたやつだからな。
あっ、そうだ。私から一本取ったら一口くれてやってもいいぞ」
千春がそう言うと可愛は鼻で笑った。
「私にもプライドってものがあるの。そんな酒を飲んだ相手から一本取るなんて余裕よ。だから、そんな勝負は受けない」
「何言ってんだよ。例え酒飲んで千鳥足になったとしてもお前は私に勝てねぇよ」
「そこまで言うなら叩きのめしてあげる。あの日の借りをここで返すから」
可愛がそう言うと立ち上がった。美冬利はいつの間にか手にもっていた竹刀を二人に渡す。
可愛は竹刀を構え、千春を睨む。千春はそんな可愛とは対照的に缶ビールを片手に持ち、気怠そうな様子で構えた。
「どこまでも剣道を侮辱するつもりなのね。いいわ。その腐れた根性をここで叩きのめしてやるんだから」
可愛はそう言うと剣道部特有の大声をあげ、千春に突っ込んだ。千春はそれを竹刀で受け流すと可愛の背後に立ち、頭を軽く小突いた。可愛はその場に倒れるように座り込む。
「はい、いっぽーん。実戦でそんな考えも無しに大声出して突っ込んだら死ぬぞ~
駒さん、こいつ大丈夫ですか? 足手まといになったりしていません?」
「まだ、回収作業には連れて行ったことはないのですが、これはこれで心配ですね。無人島バカンスに連れてきたのは失敗だったのでしょうか」
駒走は少し呆れた様子でそう言うと可愛は目に涙を溜め、今にも泣きだしそうな顔をした。
「うっ、ひくっ、そ、そんなに、言わなくてもいいじゃないですかっ」
可愛はそう言うと泣き出してしまった。夏樹と秋穂はそれを宥めるように声を掛けた。美冬利と楓は少し引いたような目で可愛を見ている。
「大人になっても泣きたくなることがあるんだね」
楓は小声で隣にいた美冬利に話しかける。
「そりゃ、大人だって泣きたくなることだってあるんですよ。人前で泣かないだけで、一人の時は皆泣いているんです」
美冬利も小声で楓に言い返す。しかし、そういう時に限って本人の耳に届くもので、中学生二人にそう言われた可愛は恥ずかしさと情けなさで、居ても立ってもいられなくなってとうとう走りだdしてどこかに行ってしまった。
「あーあ、美冬利~、楓~、泣かすなよ」
千春は頭を掻きながらそう言った。
「えぇ、僕たちのせいですか?」
「そりゃ、あんなことを中学生に言われたらお姉さんのプライドはズタボロよ。走って逃げたくもなるさ。しゃーない。皆で探しに行くか」
千春がそう言うと皆で手分けして可愛の捜索を始めた。
二時間程探したが、可愛の姿は見当たらない。
「チッ、あいつ、マジでどこ行ったんだよ。手間取らせやがって。見つけたらタダじゃおかねぇからな」
「ちょっと、千春姉さん、言ってることが柄の悪い奴みたいになってる。そんなんじゃ可愛先輩が出てきたくても出て来れないって」
夏樹は呆れたように千春にそう言った。千春はため息をつく。
それから二人は少し歩くと駒走と秋穂に出会った。
「そっちは見つかったか?」
千春が尋ねると二人は首を横に振った。
「だりー、もうこうなったらここら辺一帯を消し飛ばすか?」
千春はそう言って武鬼を構える。
「ちょいちょいちょい、そんなことして可愛さんがいたらどうするの? 美冬利ちゃんと楓君もその辺ウロチョロしてんだよ?」
秋穂が慣れた様子で宥めると千春は舌打ちをして武鬼を仕舞った。
「ふぅ、本当に島が危ないところだった」
「皆さん、あそこにある洞窟なんてのはどうでしょう? 可愛君、そこにいそうじゃないですか?」
駒走は姉妹のやり取りに我関せずと言った様子でそう言うと少し先に見える洞窟を指差した。




