回想 其の六
事が起きたのはそれから、二週間後のことだった。
里の人間が次から次へと消えるというものだった。災いの根源と言われている鬼を取り除いたはずなのに、どうしてだ。と里の中は騒ぎになった。
里の人々は疑心暗鬼になり、疑わしい人は里から追放された。しかし、被害は収まらず、どんどん人はいなくなるばかりであった。
一方、雪たちは元居た山から少し離れた別の山で慎ましく暮らしていた。
そんなある日、三人組の男が雪の家を訪ねてきた。双子は遊びに出ており、その場にはいなかった。
「あなたが雪さんですか?」
「え、えぇ、そうですが。あなた達は誰ですか?」
「失礼、申し遅れました。この度、天の使いで来た者です」
「天の使い? 仰っている意味が分かりませんが」
「手紙を預かっています。それを見れば分かるかと」
三人組の内の一人がそう言って雪に手紙を差し出した。雪は受け取った手紙を広げ、目を通す。
『鬼と人間の血が交わりし者が人と接触したことにより、人々の中に鬼が棲みついています。
その所為で、人々は酷く混乱し、秩序が乱れています。自分達で蒔いた種は自分達で処理をしてください。鬼の血を濃く受け継いだ者にはそれが出来るはずです』
手紙にはそう書かれていた。
「どうして、このことを知っているのですか?
それに、この手紙に書かれていることは本当のことですか?」
「えぇ、事実です。
以前、貴方達が住んでいらした山の麓に里がありましたよね?
その際に接触した子供がいるはずです。その子があなたの子と接触した際に種を植え付けられまして」
「種? この手紙にも書いてありましたが、種というのは一体」
「まぁ、本当の種ではないのですが。なんと言いますか、分かりやすく言えば、病の根源となるようなものです。
鬼と人間の間に生まれた子が持っている特殊な物です。鬼の血を持っていない人間と接触してしまうとその人の体に、いや、心に種を植え付けられ、その種が芽吹くと鬼となってしまいます」
「そ、そんな…
その種を植え付けられた人はどうなるのですか?」
「種を植え付けられた人間は宿主の感情を糧に成長し、やがて人を喰らう鬼となるでしょう。
そうなってしまえば、もう元の人間に戻す術はありません。
貴方達はその処理をする義務があります。
では、これを」
男はそう言うと刀と弓を差し出した。
「…まさか、自分の子供に人を殺せと言うんですか?」
「えぇ、そうです。
まぁ、厳密に言えば人の形を模した鬼ですが。
それにあなたに拒否する権限はありません。そんなに自分の子供に殺しをさせるのが嫌ならば、これ以上、人を鬼にさせぬようあなたが自分の子供を殺してください。
それでは私たちはここで失礼させていただきます。明日、もう一度伺いますのでその時にどちらかの返事を聞かせていただきますので。
後、逃げようなんて考えないでくださいね。逃げてもいいですが、私たちは天の使いなので、貴方達を探すことなど造作もないことなので」
そう言うと三人組は去っていった。
雪は頭を抱えた。一体どうすればいいのだろうか。確かに禁忌を侵したのは自分だ。子供たちには何の罪もない。それなのに、何故、自分の罪を子供たちに押し付けなければならないのだろうか。
一頻り悩んでいると、双子が帰って来た。
「ただいまーって母ちゃん! なんで泣いているの!?」
「えっ?」
いつの間にか溢れていた涙。子供たちの顔を見ると、それが一斉に溢れ出た。双子は困惑して泣いている母を黙って見ていることしか出来なかった。
十分程涙を流し、落ち着いた母は事の顛末を子供たちに打ち明けた。
「…そ、そんな。
嘘だろ? お、俺見てくる!」
刹那はそう言うと家を飛び出した。
「ちょ、ちょっと刹那!!」
「永久。お願いだから刹那を追いかけてあげて。お母さんは大丈夫だから」
「分かった」
永久はそう言うと急いで刹那の後を追った。
回想は次で終わる予定です。




