回想 其の三
鬼と人間の同居生活が始まってから早一年が過ぎようとしていた。屍鬼の傷もだいぶ癒え、日常生活を送ることに何の支障も出なくなった。
一方、絶鬼は、順調に領地を広げていき、鬼の名を全国各地に知らしめていた。そのことを知った屍鬼は雪の家を出ようとした。
「屍鬼さん、体がだいぶ良くなったのは分かりますが、どうか行くことだけは止めてください」
「何故だ?
私には私の役目がある。世話になったのは確かだ。この恩は忘れない」
「どうしても行ってしまわれるのですか?
…今、ここでこんなことを言うのは卑怯だと思いますが、実は私、屍鬼さんの子を身籠っております」
雪がそう言うと屍鬼の顔が曇った。確かに一度だけ身を許した。それはお互い同意の上のことだった。しかし、屍鬼が危惧しているのはそこではない。世の中には犯してはならない禁忌がある。その禁忌の中で鬼と人間は交わってはいけないと決められている。何故なら、人間と鬼の間に生まれた子供は人間にとっても鬼にとっても災いしか、もたらさないと言われているからだ。
屍鬼は考えた。この女を殺すべきかどうか。
「屍鬼さん。私にいつか、恩返しをしたいと言っていましたよね。
それならば、この子の為にどうか、どうか、私の側にいてくださいませんか?」
雪は真っ直ぐな目で屍鬼を見つめた。
屍鬼は深く考える。そして、この一年のことを思い返していた。
長い時間をかけ、屍鬼はため息をついた。
「分かった。この屍鬼の生涯、お前の為に捧げよう」
屍鬼がそう言うと雪は目に涙を浮かべ喜んだ。
それから、時は経ち、雪と屍鬼の間に男の子と女の子の双子が生まれた。男の子を刹那、女の子を永久と名付けた。




