回想
平安時代初期。この時代はまだ人間の世界と化物の世界の境界線が曖昧だった時代。
魑魅魍魎が跋扈していた時代だ。
時に助け合いながら、時に相反しながら、人間は化物と共存していた。
そんな中、一際力を持った化物がいた。
鬼だ。
化物の中でも随一の力を持つ鬼は、人間だけでなく化物でさえ近付く者はいなかった。
鬼の数自体、それほど多いものではなく、数にして百も満たない程度のものだった。忌み嫌われていると分かっている鬼は五体から六体程の小さな群れを成し、慎ましく生活していた。
しかし、一体の鬼が「何故、強いこの俺がこんな惨めな生活を送らねばいけないのだ?」と思い始めた。
その鬼はその群れの中だけでなく、全ての鬼の中で一番に近い、絶大な力を持っている鬼だった。
その鬼に感化された他の鬼達は自分達の領地を広げる為、人間だろうが化物だろうが、見境なく蹂躙し始めた。
そんな中、一体の鬼が「それは間違っている」と声をあげ、立ち上がった。
しかし、その時には大半の鬼が蹂躙する側に回っており、声をあげた鬼には味方など存在していなかった。
それでも、その鬼は諦めず、一人で立ち向かった。
何度も、何度も敵対する鬼の大将と対峙した。
「お前もしぶとい奴だ。並みの鬼ならとっくにくたばっているぞ」
「そう、やすやすと殺されてたまるか」
「それでこそ、我が宿敵よ」
「お前も、相変わらずの戦闘狂だな。絶鬼」
絶鬼と呼ばれた敵対する鬼の大将はニヤリと笑った。
これで実に七度目の戦い。実力は拮抗しており、今回も決着はつかないかと思われた。しかし、思いもよらぬ出来事で絶鬼が優勢に立つことになる。
それは、不意に子供が現れたことだ。子供を攻撃すれば、庇うことを分かっていた絶鬼は迷うことなく子供に襲い掛かった。
絶鬼の思惑通り、その鬼は身を挺して、子供を庇った。
「ぐはっ」
「くくく、思った通りだ」
「き、貴様、お、鬼としての誇りは、無いのか?」
「誇り❓あるからこうして領地を広げようとしているのではないのか?
何故、絶大な力を持っている鬼が、こうも虐げられなければならんのだ。少しだけ、人間と姿が違うだけなのに、人間は我の群れに石を投げる。火を放つ。
それを、指を咥えて黙って見ていろ。とでも言うのか? それが鬼としての誇りなのか? どっちの方が鬼なのだ?
それに見てみろ。お前が助けた子供を。恐怖に怯えているではないか。喰われると思っているに違いない。
お前も鬼の端くれだ。腹が減っているだろう。
その子供を喰え。したらば、トドメは次回に持ち越してやろう」
鬼は庇っている子供を見た。怯えているようで、今にも泣きだしそうな顔をしている。鬼は優しく微笑んで子供の頭を撫でた。
「お行き、私はお前を食べたりしない。
ここで見たことは悪い夢だと思いなさい」
鬼がそう言うと、子供は脱兎の如く逃げ出した。
その背中が見えなくなるまで見守り、振り返った。絶鬼は絶望した顔をしている。
「…見損なったぞ。本当に鬼としての尊厳まで無くしてしまうとはな。
屍鬼の名が聞いて呆れる。そこまで死にたいのなら。今、楽にしてやる」
絶鬼はそう言うと、動けないでいる屍鬼に強烈な一撃を食らわせた。屍鬼は避けることも防ぐことも出来ず、真正面から攻撃を受けた。
屍鬼の体が倒れる。絶鬼はそれに一瞥もくれることなく、その場所を後にした。
残された屍鬼の意識はどんどん薄れていき、とうとう意識を失った。




