事故
「よし、これで特訓は終わりだ。よく一ヵ月頑張ったな!」
あの日から一ヵ月経ち、楓の特訓は終わった。初めの頃は五分程度しかなれなかった鬼人も今は一時間は保てるようになった。
「ありがとうございました!
これで、四鬼と戦えるようにはなったんですか?」
「いや、まだ全然ダメだよ。第一、四鬼は俺が一対一で戦ってギリギリ勝てるか負けるぐらいの相手なのに、そんな簡単に勝てるわけがないだろ。
そのレベルだと下級クラスの鬼と戦えるのがやっとだと思う。でも、まだ伸びしろはいっぱいあるから焦らず特訓していけばいいさ」
「はい!」
こうして楓たちは一ヵ月過ごした山を後にした。
「ただいまー」
楓は約三週間ぶりに家に帰った。と言うのも、最初の一週間ぐらいは食事や勉強の為に家に戻っていたのだが、千春や秋穂が忙しくなり勉強どころではなくなったのだ。きっと鬼絡みなのだろう。それから食事も秀春が山に持ってくるので山で完全に生活することになったというわけだ。
久々に戻った家は何やら重々しい雰囲気が漂っていた。
「おぉ、楓、帰ったか」
「はい、千春さん。お久しぶりです」
「特訓は無事に終わったみたいだな。顔つきが前より逞しくなったじゃねぇか」
「ありがとうございます!
それより千春さん、大丈夫ですか? だいぶ疲れているみたいですけど」
「ん? あぁ、大丈夫だよ。心配するな。
私は少し出掛けてくるから」
千春はそう言うと楓が何か言う前に家を出た。その後に続くようにして夏樹と秋穂も出ていった。秀春も只事ではない雰囲気を感じたのか、楓に「家にいろよ」と言うと三人を追いかけた。
楓は不安を感じながらも、あの人たちならば大丈夫だろうと思い、風呂に向かった。三週間も川で体を洗っていたら温かい風呂が恋しくなったのだ。
鼻歌混じりで風呂場に向かい、勢いよく脱衣所の扉を開けた。そして、固まる楓。
楓はすっかり、美冬利のことを忘れていた。いや、正確には忘れていたわけでは無いが、風呂に入りたいということに捉われ過ぎていて、美冬利が先に入っているかもしれないということを考慮していなかった。
つまり、何が言いたいかと言うと、楓の目線の先にはバスタオルで体を拭いている美冬利の姿があったと言うことだ。
「きゃああああああああああ!!!」
家中に美冬利の叫び声が響き渡った。
―――
――
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「ただいまー
あー、腹減った」
用事を済ませた千春たちが帰ってきた。
「ん? 楓、お前、顔にモミジの後付けてどうしたんだ?」
い、いえ、これには色んなことがありまして…」
「まぁ、大方予想はつくよ。ドンマイ。
とにかく、腹が減ったから飯食おうぜ」
「あれ? 秀春さんは?」
「あぁ、父さんなら「調べ事があるから先に帰れ」って言ったから先に戻ってきた。
それよりも、勉強見れなくて悪かったな」
「いえ、大丈夫ですよ。
それよりも、何があったんですか?」
「ここのところ、鬼の出現が頻発していてな。
強さ的に言えば下級クラスばかりだから大したことはないんだけど、数が多すぎてな。一日、十や二十じゃきかないぐらい出てきているんだ。こんなこと今までなくて戸惑っている所だよ」
「原因は?」
「それも、さっぱり分からん。分かっていたら苦労しないしな。
とにかく、今は現れた鬼を倒すことが先決さ。楓も明日から学校だから気を付けろよ」
千春はそう言うと食卓の方へと消えていった。




