家族大会
トイレと洗面所から戻って来た二人は先程まで酒を飲んで酔っ払っていたとは思えない程、凛々しいかおをしていた。
トイレから戻って来た父は楓を見ると首を傾げた。
「お前、誰だ?」
「えっ」
千春と美冬利は横で頭を抱えている。
「お父さん、さっき説明したじゃないですか。
彼は四郎園楓さんで鬼人なんです」
「あれ? そうだっけ?
まぁ、なんでもいいや」
父はそう言って一人で豪快に笑った。
「楓君。挨拶が遅れたけど、俺はここの家主の四季 秀春だ。
まぁ、家主と言ってもほとんど家にはいないし、日本にいることも少ない。
鬼人になってから大変だと思うけど自分の家だと思ってくつろいでくれ」
「はい、分かりました!」
楓はそう言って秀春に向けて頭を下げた。秀春はそんな楓の肩を力強く叩いた。
「そう固くなるな。さっきも言った通り自分の家だと思ってくれ。
…ただ、娘に手を出すんじゃねぇぞ…」
秀春は楓にしか聞こえない声で囁いた。千春を遥かに凌駕する殺気に楓は背筋が伸びた。そんな楓を見て秀春はニヤリと笑い、今度は優しく肩を叩いた。
「よーし、新しい家族(仮)も増えたことだし、ちょっと運動でもしようぜ」
「おっ、いいね! 久しぶりに組手でもしよう!」
秀春の誘いに千春だけノリノリであった。美冬利はというとこの世が終わったかのような顔をしている。
すると、その時、夏樹が学校から帰って来た。
「げっ、お父さん帰ってきてるじゃん」
「おう、夏樹。今から特訓するぞ。秋穂も呼んで来い」
いつの間にか運動から特訓に変更されていた。その言葉を聞いた夏樹は露骨に嫌な顔をしたが、特訓がなくなることはないと分かっているので秋穂を呼びに二階に行った。
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場所はお馴染みの四季家の中にある特訓部屋。
秀春と千春は眼光を鋭くさせながらストレッチをしている。対照的に夏樹、秋穂、美冬利は死んだような目をしながらストレッチをしていた。一人、置いてけぼりを食らった楓はとりあえず皆に倣ってストレッチをした。
各々、準備運動を始めてから、おおよそ十分が経過した。
「よし、もういいだろう。
皆、集合。今から特訓? まぁ、組手をするんだけど、お前らは分かっていると思うが、楓は初めてだし、改めて説明します。
予選を行ってから、その結果によってトーナメント方式で組み合わせを決めます。
ルールは至ってシンプル。勝利条件はこの枠内から相手を出すか、「参った」と言わせるか、気絶させるかのどれかです。
もちろん、武鬼を使うのは反則、楓の場合は鬼人になるのは反則な。
まぁ、某漫画のなんちゃら武道会のオマージュだと思ってくれ。
なんか質問ある人?」
そう問いかけると美冬利が手をあげた。
「あの、四郎園さんは戦闘に関しては素人過ぎて鬼人にならなければ、こちらの相手になりません。私に腕相撲で瞬殺されるレベルですし…
力のコントロールが出来るようになったのは、つい最近でまだ不安定ですが、万が一暴走した時にはお父さんも千春姉さんもいますので、四郎園さんの鬼人化を許可してほしいです」
「まぁ、いいけどさ。美冬利はえらく楓の肩を持つじゃねぇか。
気でもあるのか?」
「いえ、それだけは絶対にないですが、同じクラスなので、他の姉さん達と比べて過ごす時間が長いので、どういう人間なのかを少しばかり理解しているだけです」
「ふーん。
じゃあ、とりあえず、楓の鬼人化はオッケーってことで。
ちゃんと手加減しろよ。皆、嫁入り前なんだから」
「ぷっ、千春姉さんのお嫁姿とか全然想像できないんですけど~」
秋穂はそう言った後に、ハッとした表情を浮かべた。恐る恐る千春の方に顔を向けると千春はにこやかに笑っている。しかし、その笑みの奥から溢れる殺気は隠しきれていない。
「ねぇ、秋穂ちゃん? 対戦するの楽しみだね」
「あ、あはははー。そ、そうだねー」
そう言う秋穂の目には既に薄ら涙が浮かんでいた。
「あっ、そうだ、言い忘れていたけど、毎回の通り最下位になったやつは一位のやつの言うことを何でも聞かなければならないという罰ゲームがあるから、安易に「参った」と口にしないように。
だからと言って無茶はするなよ。危ない時には俺が止めるから。
じゃあ、くじ引きをするか」
秀春はそう言うと、どこからか割り箸を取り出し、歳の若い順から割り箸を引くように言った。
公平なくじ引きの結果、予選の組み合わせは夏樹対美冬利、秀春対千春、秋穂対楓となった。
そして、第一戦が始まろうとしている。
第一戦目の夏樹と美冬利は両者とも向かい合って構えている。
「それでは両者とも準備はいいか?」
審判を務めている秀春は二人に問いかけた。
「初っ端が美冬利はラッキーだわ。後の為に体力温存しておきたいし」
「残念ながらそう簡単にはいきませんよ。窮鼠は猫を噛みます。夏樹姉さんも成長しているかもしれませんが、中学生の成長期は計り知れないということを今から教えて差し上げますよ」
「ほー、啖呵は一丁前に切れるようになったんだ。
いいよ、そこまで言うならさっさとやろうぜ」
二人とも一気に戦闘モードに入った。空気が一気にピリついたものに変わる。
秀春は開始の合図を告げた。




