会議 後
時刻が九時になると、どこからかマイクを持った進行役の男が現れた。
「皆さん、静かに願います。
これから、特例会議を始めたいと思います。
司会は私、鬼兵隊副隊長、祁答院です。よろしくお願いします」
司会は挨拶を済ますと次へと進めた。
「それではまず、会長から一言お願いします」
祁答院はそう言って会長へとマイクを手渡した。
「えー、会長の朽網です。
今回はいつもの定例会議と交え、先日あった氷鬼による金峰山氷結事件についても話し合いたいと思います」
会長はそう言うとマイクを祁答院へ返した。マイクを受け取った祁答院は次へと進める。
「えー、それではまず各代表者は今月の鬼の討伐数などの報告をお願いします。それでは四季家からお願いします」
近くにいた黒子にマイクを渡された千春は立ち上がった。
「皆さん、おはようございます。四季家の四季千春です。
今月は鬼の発見数が八十九体、討伐数が八十五体です。逃がした四体に関しては四鬼である炎鬼、雷鬼、風鬼、氷鬼の四体です。
報告は以上です」
千春がそう言って黒子にマイクを返して席に着くと周りからどよめきが起こった。
「八十!? そんな数、有り得ないぞ」「デタラメじゃないのか?」「そんなの嘘に決まっている」
「静かにお願いします。四季家の数字に間違いはありません。こちらに届いている報告書とデータベースで照合済みです」
祁答院がそう言うと、どよめきは段々と小さくなっていった。完全に静かになったのを確認すると祁答院は次に進めた。
「では 次に見鬼原組、報告をお願いします」
見鬼原組は関東に本部を置く一派だ。その規模は鬼退治を専門としている中でもトップクラスで大きい部類に入り、支部は全国とまでは言わないが数多く存在している。
彼らは四季家とは違い、戦闘向きではない。鬼を発見する能力に長けているのが特徴だ。
四季家や他の流派は鬼が生まれた時や鬼が力を発揮した時に気配を察知することが出来るが、見鬼原組は私生活に紛れ込み、普通の人と何ら変わらない生活をしている鬼を見つけることが出来る。
しかし、そこまでの戦闘力を持ち合わせていない為、普段は他の流派の人達と協力するなどしていいる。
見鬼原組と呼ばれた流派は千春の座っている場所から少し離れたところにいた。
立ち上がった男は、この部屋の中では少し年上のような風貌をしている。
「見鬼原組、代表の見鬼原 義弘です。えー、発見数が五十四体、討伐が三体です。
五十一体に関しましては、全て取り逃がしております。以上で報告は終わります」
そう言って見鬼原は席に着いた。
見鬼原が席に着いたのを確認すると祁答院は次を指名した。
指名されたところは答え、また指名をしてと繰り返し行われていった。
討伐数三体などの報告は当たり前で、中には一体も倒していないという流派もあった。
報告が始まってから一時間程が経過し、いよいよ最後となった。
「えー、それでは最後に鬼兵隊、隊長お願いします。
「はい」と言って立ち上がったのは、先程千春の顔をじっと見つめていた女だった。
「鬼兵隊、隊長の鬼比良 詩織です。討伐数が三十九体で、捕獲数が五体です。報告は以上となります」
鬼比良はそう言って席に着いた丁度、その時に千春が小さな声で「捕獲とか気持ちわりぃ」と呟いた。千春としてはかなり小さな声で言ったつもりだったが、部屋の中は静まり返っていたので、その声は部屋の中にいる全員に聞こえてしまっていた。それを聞き逃さなかった鬼比良は千春に問いかけた。
「おや? 四季さん。何か言いたいことでもありますか?」
「いや、何でもねぇよ」と千春はそっぽを向きながら答えた。しかし、鬼比良はそれでは納得しない。
「私の耳がおかしくなければ、「捕獲とか気持ちわりぃ」と聞こえたのですが」
「あぁ、確かに言ったよ。それがどうかしたのか?」
「はぁ? 逆切れですか?
ですから、私が言いたいのは私たちのやり方に文句があるなら、どうぞ直接言ってくださいと言っているのですが」
「だから、言ってんだろ。「捕獲とか気持ちわりぃ」って。それで終わりだよ」
「はぁ~、私の言い方が悪かったですね。どうして気持ち悪いのか述べてもらいたいのですが」
「お前も面倒臭い奴だな、相変わらず。
だーかーらー、本来は殺すべきはずの鬼を捕獲して洗脳してから自分の手駒にしているのが気持ち悪いって言ってんの。
しかも、それだけじゃねぇ。お前らは普通の人間の『鬼門』を無理矢理開いて鬼にして洗脳している。
それは外道じゃねぇのか?」
「おや? それは心外です。私が鬼にしているのは普通の人間ではありません。ちゃんと罪人限定ですよ」
「はぁ? どういうことだよ」
「そのままの意味ですよ。刑務所に入っている人です。その中でも鬼にするのは殺人を犯した人だけです」
「ますます意味が分からん」
「少し考えれば分かることですよ。
殺人を犯した人はもう人ではありません。『殺人鬼』と言う言葉がありますよね? その言葉の中には「鬼」という文字が入っています。人は人を殺した時点で、もう人ではなく鬼になります。
それに刑務所で殺人鬼を飼うのにも税金がかかるのですよ? 衣食住を約束された塀の中で税金を使って生活されるのなら、私の手下になって働いてもらって、使えなくなったら殺処分する方がまだマシだと思いません?」
鬼比良はにこやかに笑って千春にそう言った。その笑顔に千春は嫌悪を感じた。
「お前、マジで言ってんのか? それだったら、だいぶ頭おかしいぜ。
いいか、いくら罪を犯した人でも人権ってのがあるんだぞ?」
千春がそう言うと鬼比良は笑い出した。
「あははははははっ、四季さんって面白いことを言うんですね。てっきり頭の固いお馬鹿さんだと思っていましたが、想像以上の大馬鹿さんでしたか」
「はぁ? なんだぁ、喧嘩売ってんのか?」
「止めてくださいよ。見えざる刀の持ち主に喧嘩なんか売るわけないですよ。朽網会長以外はここに居る人全員、一秒足らずで細切れになっちゃいますから。
まぁ、話を戻しますが、鬼に人権なんかありませんよ。馬鹿は死んでも治らないのと一緒で鬼は死んでも治らないのです。
ここにいる二人は過去に殺人を犯しております。こっちは五人。こっちは四人殺しています。私が鬼門を開いて鬼にしたのですが、前に試しで元の人間に戻してあげたことがあります。
そしたら最初に彼らが取った行動は何だと思いますか?」
千春は問いに答えることなく黙った。
「とても簡単なことですよ。
正解は人を殺そうとしました。刑務所でお会いした時には「もう人なんて殺したくないから、反省しているからここから出してくれ」なんて言っていたくせに記憶を少しだけ消して人に戻した途端これなんて、呆れて物を言う気も失せました。
それでも四季さんは「人権がー」とか「頭がおかしいー」だなんて喚きますか?」
「当たり前だ。
人として罪を犯したのならば、人として罪を償わさせろ。それで結果として鬼になったなら、そこからは私たちの仕事だ」
「はぁ~、ですからー「やめんかぁ!」
鬼比良が反論しようとした時、会長が怒号を飛ばした。
「二人して、見苦しいぞ!
どうして協力して鬼を退治することが出来ないのかね?」
会長の制止によりお互い歯切れが悪そうに口論を止めた。会長はそんな二人を見てから祁答院に次に進めるように促した。
祁答院は申し訳なさそうに深く頭を下げ、会長に誤った。
「すみません。気を取り直して、次に進めさせていただきます。
次は四鬼に対しての対策を練ろうと思います。会長、お願いします」
祁答院はそう言って会長にマイクを渡した。
「皆も分かっているように、先日、四季家と四鬼の戦闘があった。
残念ながら現段階で四鬼と戦える戦力を持っているのは四季家のみだ。次点で鬼兵隊といったところかの。
そこで、四季家と鬼兵隊、そして見鬼原組には協力して四鬼を倒してもらいたい」
会長はそう言って三組の代表者をそれぞれ見た。三人ともいい顔はしていない。
「…と言いますと?」
祁答院が会長に質問した。
「うむ、まず、見鬼原組で四鬼の発見。奴らはいくら調べてもどこに潜んでいるのか全く分からない。それを見鬼原組で暴いてもらう。そして、鬼兵隊の力で鬼の力を封じ、弱体化したところを四季家にトドメを刺してもらうという作戦を考えておるのじゃが。まぁ、大雑把な作戦なのじゃがな」
「却下です」
そう言って意見したのは鬼比良だった。
「私は四季家とだけは、協力できません」
その言葉を聞いた会長は頭を抱えた。
「どうして、お前たちはそうも仲が悪いんじゃ。
つい、先代までは仲が良かったじゃないか」
「つい、先代とはいつの話をしているのですか? 七代前の話ですよ?
そんな昔の話を今、持ち出されても困ります。
「お前も、そんなツンケンすんなよ。
会長の言う通り、仲良くしようぜ。討伐数、一位、二位同士でさ」
千春がそう言うと鬼比良は千春を睨んだ。
「嫌です。
私たち鬼兵隊があなた達のことを嫌いなのは、そういう所ですよ。
常に見下している所もそうですし、特に態度が気に食いません。他に嫌いなところを挙げればキリがないですけど」
「はははっ、そうだよな。私もお前とは仲良くするつもりは端からねぇわ。
先代が何をしたのかは知らないけど、そこまで言われる筋合いはこっちにはねぇよな」
「それは鬼兵隊に対する宣戦布告として受け取ってもよろしいでしょうか?」
「おー、別に構わねぇけど、そんな負けが決まった勝負を受ける程、お前は馬鹿じゃないと思うけどな」
「えぇ、そうですね。今は勝てません。『今は』ですけど」
「なんか秘策があるみたいな言い方するじゃねぇか」
「当たり前じゃないですか。いつまでもトップの椅子に座れると思わないでください。
それをお父様の秀春さんにお伝えくださいね。代表代理の千春さん」
鬼比良はそう言うと立ち上がって取り巻き二人と一緒に部屋を出た。会長は慌てて呼び止めたが、戻ってくることは無かった。祁答院は戻って来た会長に深々と頭を下げ、隊長の非礼を詫びた。会長は凄い剣幕で祁答院を怒鳴っている。祁答院は赤ベコの如く頭を下げている。そんなやり取りを見かねた見鬼原が仲裁に入った。
「まぁまぁ、会長落ち着いてください。祁答院を怒ったところで何も変わりませんよ。
処分は後々下せばいいじゃないですか。今は早くこの会を終わらせましょう。こうしている間にも鬼の被害にあっている人もいるわけですし」
見鬼原が宥めると会長は段々と落ち着きを取り戻し、席に戻った。
「怒鳴ってすまなかったな。
祁答院、次に進めてくれ」
「は、はい。では、続いて四季家による四鬼との戦闘報告、そして鬼人についての報告をお願いします」
「では、まず鬼人について報告致します。
報告書であげていますように、鬼人は山谷中学校三年生の四郎園楓。
鬼人になりました経緯は、始業式初日にうちの妹、美冬利をストーカー。その行為を美冬利に咎められました。美冬利はそのストーカー行為が鬼の仕業ではないかと判断しました。それから、その日の内に四郎園をうちに連れてきまして、強制的に四郎園の中にいる鬼を成長させました。
しかし、我々の予想とは違い、四郎園の中にある鬼は出現することはありませんでした。この時に鬼人の可能性を疑えば良かったのですが、鬼との戦闘明けで疲れもあり、その可能性を疑うことをしませんでした。深く反省しております。
四郎園はその後、自宅に帰宅途中に本屋に寄った際に高校生グループの万引き現場に遭遇。その現場を目撃した四郎園は高校生を注意しました。それで高校生グループの怒りを買ってしまい暴行を受けました。それが、きっかけで一番初めに四郎園が鬼人になった事柄です。
この時は力のコントロールは全く以って、出来ていなく、不意を突かれた私は腕を骨折するなどの被害がありました。
現在は、不安定ながらも力のコントロールが概ね、出来るようになっています。
続きまして、四鬼との戦闘報告になります。
つい、一週間前に四鬼が四季家を訪ねてきました。理由は四郎園を仲間として勧誘。我々が反対したことから戦闘に発展。
私は雷鬼、夏樹が炎鬼、秋穂は風鬼、美冬利は氷鬼と戦闘しました。
はっきり言いますが、どう足掻いても勝ち目はないです。一対一で戦って勝率が一割あればいい方かと」
「やはり、手を組んで四鬼を倒すべきではないか」
「会長、お言葉を返すようですが、私と同等以上でなければ手を組んでも意味ありません。
足手まといになるだけです」
「ならば鬼兵隊の鬼比良と手を組むべきではないか」
「会長、四鬼を討伐したい気持ちは分かります。私たち姉妹だって同じ気持ちですし、ここに集まっている方々もきっと同じ思いだと思います。
しかしながら、会長もご存知の通り、四季家と鬼兵隊の間には確執があります。今日、ここで顔を合わせられただけでも凄いと思いますよ」
千春がそう言うと会長は腕を組んで黙った。そんな会長を横目に千春は話を続けた。
「話を戻しまして、勝率は一対一で戦って一割無いほどですが、我々にも少し希望があります。それは鬼人である四郎園楓です。
四鬼との戦闘の際、美冬利が氷鬼に殺されそうになり、鬼人の力を発揮。今までとは違い自我を失うことなく自分の自我を失うことなく氷鬼に対して不意打ちですが、一撃を食らわせました。
それに激高した氷鬼は、そこ一帯を凍らせようとしました。それを残りの三鬼が止めに入り、ニュースで報道されているように山が氷漬けにされるといったことが起こりました。
…いろいろと省いて説明いたしましたが、私からの報告は以上です」
千春は頭を下げてから着席した。
そこから滞りなく会は進行していき、会長の挨拶を以って会議は終了した。
千春は建物から出ると体を伸ばし、欠伸をした後に「疲れたぁ」と呟き帰路に着いた。




