美冬利vs氷鬼
こちらは氷鬼と美冬利。そして、その少し後ろに楓の姿がある。何故楓がここに居るのかと言うと、四鬼との戦いの前に話し合いで決まったのだ。
それはさておき、戦いの様子はというと、美冬利が攻撃を仕掛け、氷鬼がそれを何事も無く捌くということを繰り返している。
「あのさぁ、もういい加減諦めたらどう?
あなたの家であなたの技を返した時点で実力差は分かりきったものだと思うけど」
「関係ありません。
諦めが勝利への道を遠ざけます」
「そうは言っても、ね。
ここから一歩も動かせていない時点で勝利もクソも無いと思うんだけど。ねぇ、楓君もそう思うでしょ?」
急に話を振られた楓は驚いた表情を見せた。
「…はぁ、本当につまらないわ。
攻撃は単調。空から矢の雨を降らせて、それを捌いているうちに別の方向から矢を放つ。これを馬鹿の一つ覚えと言うのね。
あっ、そうだ。楓君も一緒に戦ったらどう?」
氷鬼は降り注ぐ矢の雨を顔色一つ変えずに捌きながら楓にそう言った。
「…でも、僕は戦える力ないですし…」
「何を言ってるの。あるじゃない、楓君の中に眠っている鬼が」
「…力のコントロールができないです」
「じゃあ、お姉さんが特別に力の使い方を教えてあげる。
それはね、絶望の中に希望を見出すのよ」
「言っていることが全然分からないです」
「今から分かるわ」
氷鬼はそう言うと今までその場から動かなかったが、急に美冬利との距離を詰めた。不意を突かれた美冬利は顔面に強烈な一撃を食らい、地面を二、三転した。まだ立ち上がれないでいる美冬利に氷鬼は容赦なく攻撃を浴びせる。
「ほーら、楓君。あなたが助けないと、この娘、死んじゃうよ」
氷鬼の足元に転がっている美冬利は血だらけになっており、立ち上がることは出来ない。
氷鬼は立ち上がることの出来ない美冬利を軽々と持ち上げると楓の目の前に持ってきた。そしてそれを楓の前に無造作に落とすと、氷鬼は手の平から先が尖っている氷の柱を作り出した。その氷の柱を美冬利に突き刺そうとした。
「やめてください!!」
楓が叫ぶと氷鬼の手が止まった。
「世界はそんなに甘くないわ。もっと非情で残酷で冷たいものなのよ」
氷鬼はそう言うと再び手を振り下ろした。しかし、氷の柱は美冬利を捉えることなく静かに地面に突き刺さった。
「あれ?」
氷鬼は不思議そうな顔をして辺りを見渡す。すると、少し離れたところで楓が美冬利を抱えた状態で立っていた。
「止めろって言ってんだろ…」
「ふふっ、やれば出来るじゃない」
怒りが頂点に達している楓とは対象に、氷鬼は面白いものを見つけたように笑っている。
楓は気を失っている美冬利を静かにその場に置くと氷鬼を睨みつけた。その目は真っ赤な目をしていた。