秋穂vs風鬼
こちらは風鬼と秋穂が睨みあっている。炎鬼と夏樹、同様の形になっているが、そこには少し違いがあった。それは二人がずっと喋っていることだった。
「ねぇ、君は私を選んだとき、おっぱいで選んでいたけど、やっぱり男の子ってみんなおっぱいが好きなの?」
「何言ってんの? 確かに乳のデカさで君を選んだけど、ボクは男じゃないよ。ボクは歴とした女の子だし」
風鬼はそう言うと深く被っていたフードを取った。風鬼の素顔は確かに女の子らしい顔つきをしていた。しかし、散切り頭になっている髪の毛のせいで一見女の子には見えない。
「へぇ、本当に女の子なんだね。でも、髪の毛どうしたの? 随分面白い髪型だけど」
「これは戒めだよ。
誰しも、いや、少なくともボクは鬼になりたくて鬼になったわけじゃない。ボクだけじゃなくて、雷鬼も炎鬼も氷鬼もそうさ。君達が四鬼と呼んでいる鬼は、自ら鬼になりたくてなった、そこら辺のチンピラとは違うの」
「それは意外だな~
それで、風鬼ちゃんはどんな戒めで、そんな髪型にしているわけ?」
「それは秘密だよ。君だって知られたくないことぐらいあるでしょ?
…ところで、話は変わるけど、君、凄いね。ボクの攻撃をここまで耐えられるなんて。そんな人、そうそういないよ」
風鬼はそう言って小さく笑った。
攻撃と言っても傍から見れば二人が向き合って喋っているようにしか見えない。だが、二人の間には猛烈な風が吹き荒れている。
「それ、褒めてる?」
秋穂は額に脂汗を滲ませながら風鬼に尋ねた。
「もちろん褒めてるよ。
君達は知っていると思うけど、四鬼は名前の通りの力を使いこなす。雷鬼は雷、炎鬼は炎、氷鬼は氷、ボクは風だね。
他の三人の攻撃は目に見えてどこから飛んでくるのか、どういう形をしているのか、どんな規模で来るのか、とか全部分かるけど、風はそうはいかない。目に見えないし、形も無い。風を感じた時にはもう攻撃が仕掛けられている状態だ。それを君は受け流しているんだから、凄いことだと思うよ。
でも、それまでだよね」
風鬼の話が終わると吹き荒れていた風がピタリと止んだ。
「どういうことかな?」
「また話は変わるけど、君って女子高に通っているんだったよね?」
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「君のクラスに帆花ちゃんって可愛い子がいるよね。
君はその子に― 「帆花は関係ないでしょ!」
秋穂が風鬼の話を遮って叫んだ。すると、止んでいた風が再び吹き出した。そして、その風が秋穂の頬をそっと撫でた。秋穂の頬から血が滴る。
「ダメだよ。これぐらいのことで心を乱しちゃ。可愛いお顔に傷がついちゃったじゃないか」
「…くっ」
「風の噂って言葉聞いたことない? ボクは風の声が聞こえるんだ。誰かの内緒話も風に乗ってボクの耳に届くようになっている。
まぁ、今から死ぬ君に話したところで意味ないか。
それなりに楽しかったよ。こう見えてもボクはお喋り大好きだからね」
風鬼がそう言うと、先程よりも何倍も強い風が吹いた。その風を感じた秋穂は思った。こればかりはどうやっても防ぐことはできないと、死を覚悟したその時、風が止んだ。秋穂は戸惑いの表情を浮かべ、風鬼の方を見ると風鬼は明後日の方を額に汗を滲ませながら睨みつけていた。そして、その後すぐに雷鬼と炎鬼が血相を変えながら風鬼が睨みつけていた方へと飛んでいった。風鬼もその後に続くようにして秋穂の目の前から消えた。
一人取り残された秋穂はその場に腰が抜けたように座り込み、静かに涙を流した。