回収屋
休憩も終わり、皆で後片付けを始めた。内容としては、殺した鬼の回収、噴き出した血の始末、壊してしまったもの等を集めて特殊業者に処理を頼むのだ。姉妹達は手際よく作業を進めた。
作業を開始してから一時間が経ち、千春があることに気付いた。
「あれ~、やっぱりあいつの死体がないぞ」
千春の言う『あいつ』とは楓に四肢を捥がれた鬼のことである。捥がれた手足はあるものの肝心な胴体が見当たらない。
「おかしいなー、腕や足が見つからないならまだ分かるけど、あんなデカいやつを探しきれないわけがないもんなー
おーい、そっちにあるかー?」
「うーん、こっちにはないみたいだよ~
美冬利ちゃんの方にはー?」
「こっちにもありませんよ。
夏樹姉さんの方には…ってあれ? 夏樹姉さんは?」
美冬利の発言で皆、捜索を一時中断して皆同じ方を見た。そして、一同ため息をついた。
夏樹はというと、楓のそばでニヤニヤしながら楓を眺めていたのだ。
そんな夏樹を見て千春はいつも通り制裁を食らわせようとしたが、途中で何かを思い出した。
「あっ、そういえば明日も学校あるな。
もう、夜も遅いし秋穂と美冬利は楓を連れて先に帰れ。
後は私とあいつでやるから」
「えっ、でも、胴体を探すにしてもここは広すぎませんか?」
「大丈夫、大丈夫。あそこでサボっている奴が四人分ぐらい働くから。
な? そうだろ? 夏樹さん?」
「ひゃい!? な、なにが!?」
「いや、明日学校があるだろ?こいつら先に帰そうかと思ってさ。それで、後は私とお前でやるって話」
「あぁ、そういうこと。
それなら、私たちに任せておいてよ!」
これから行われる奴隷のような扱いを知る由もなく夏樹は自分の胸をドンと叩いた。秋穂と美冬利は千春と夏樹に礼を言ってから楓を抱えて帰っていった。
「よし、じゃあ、お前が後は全部やれよ」
千春は二人が帰ったのを確認するとそう言って近くにあった木箱に腰を下ろした。
「え、えっと、話が違う気がするんですけど…」
「さっき、サボってた罰」
千春がそう言うと夏樹の絶叫が廃工場内を木霊した。
――
―
あれから、二時間探したが結局見つからず、千春は特殊業者に連絡を入れた。
連絡を入れて十分もしないうちに業者はやってきた。三人組で帽子を深く被り顔が見えない二人と、ニコニコしながら手にA4サイズのバインダーを手に持ちながらこちらに近付いてくる小柄な女で構成されていた。
「お疲れ様です。
駒走回収の駒走です」
駒走と名乗った女は千春たちに話しかけてきた。
「相変わらず到着が早いよな。もしかして、現場近くで待機してたりするの?」
「いえ、そんなことはないですよ。
迅速対応がモットーですから。
今日回収するのはこれだけでいいですか?」
帽子の二人組は駒走が千春に確認している時には、既に集めていたものを袋に詰めていた。
「あぁ、そうなんだが、一個パーツが見つからなくてな。三時間は探していると思うんだけど」
「そのパーツは腕ですか? それとも足?」
「いや、それが胴体」なんだよ」
千春がそう言うと駒走は驚いた顔を見せた。
「それは珍しいですね。
それなら、万が一ここで一班の方に胴体を発見されても騒ぎにならないように、こちらで火消しをしておきますね」
駒走はそう言いながら手元に持っている紙に何かを書き込んでいる。
「すまないな、何から何まで」
「いえいえ、これも仕事ですから。
それに、私たちには鬼を退治する力はありませんし、これぐらいがお手伝いできる精一杯のことです。
えーっと、はい、じゃあここにサインをお願いします」
駒走はそう言うと手に持っていたバインダーを千春に差し出した。千春はそれに目を通し、書類にサインをして駒走にバインダーを返した。
「はい、ありがとうございます。
それでは私たちは帰りますので、四季さんもお気をつけてくださいね」
駒走たちは千春たちに頭を下げて去っていった。千春と夏樹もそれを確認してから変える事にした。
時刻を確認すると午前三時を回ったところであった。