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四季さん家の鬼退治  作者: ぞのすけ
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廃工場にて 中

 「おい、あんまりくっつくんじゃねぇよ。歩きにくいだろ」

 「す、すみません」

 楓は恐怖のあまり千春から離れることができずにいた。その姿はまるでお化け屋敷にきたカップルのような姿であった。

 工場内に入ってから十分ほどは歩いたと思うが鬼の姿は一向に見えない。

 「あ、あの~、本当に鬼はここにいるんですか?」

 「あぁ、絶対にいる。

 少なく見積もって四体だ」

 「ということは四体以上いるかもしれないということですか?」

 「そういうことになる。最初に気配を感じた鬼は生まれたての鬼だろうな。生まれたての鬼は気配の消し方とか分からないはずだが、どういうことか今は全く気配が感じられない。

 考えられる理由は二つ。一つは他の鬼ハンターがいて鬼を退治した。

 もう一つは他に鬼がいて気配の消し方をレクチャーしたのかのどちらかになる」

 「そんな簡単に気配の消し方を覚えられるものなんですか?」

 「あぁ、とても簡単に消せるらしいぞ。報告によると呼吸の仕方さえ覚えてしまえばいいみたいだ。

 そのことについては追々話すよ」

 「なるほど… でも他の鬼はどうしてそんなことを教えるのでしょう?」

 「仲間を増やしたいんだよ。

 中身は鬼でも外見は人間そのものとなんら変わりは無い。生活の仕方もだ。ただ変わったのは人間を喰うことが追加されたという事だけだな。

 つまり、鬼になってしまった人間は人間だった頃と変わらぬ生活を送れるはずがない。他の鬼はそういう鬼を手助けするために気配の消し方や生活できる場所を提供したりするのさ」

 「…なんだか不思議な感覚です」

 そんな話をしていると二人の目の前に人影が現れた。千春が武器を構える。

 「…誰だ」

 「た、助けてください」

 声色からして男性のようだ。おぼつかない足取りでこちらに一歩ずつ近付いてくる。千春の刀の握る力が一生強くなる。

 近付いてきた男性が廃工場の天窓から差し込んだ月明かりに照らされて正体が見えた。眼鏡をかけたスーツ姿の男性だった。どうやら、サラリーマンのようだ。きっと、この時間から推測すると仕事帰りといったところだ。しかし、その男性は普通のサラリーマンとは少し違ったところがある。それは、彼の姿が何者かに襲われたようにボロボロだった。服は滅茶苦茶になり、ところどころ切りつけられたような跡がある。いつもキチンとかけられているだろう眼鏡も目の位置からずれたところにかけられていた。

 「だ、大丈夫ですか!?」

 楓は千春の元を離れスーツ姿の男性に駆け寄ろうとした。

 「おい! バカ! 待て!」

 千春に大声で呼び止められて楓は後ろを向いた。その瞬間、スーツ姿の男性が襲ってきた。

 「はははっ! バカがぁ! 死ねぇ!」

 スーツ姿の男性は後ろから楓を殴ろうと拳を振った。しかし、その拳は楓を捉えることなく空を切った。

 「ん? あぁ? どこ行きやがった?

 おい! 聞こえてんだろ! 出てこい!」

 スーツ姿の男性は手当たり次第に周りのドラム缶を蹴飛ばしたりするが千春たちの姿は出てることはなかった。

 「…チッ、あの女か。刀を持ってやがったしな。

 まぁ、あれがあいつらが言っていたように俺らを殺そうとしている人間なんだろうな。

 クククッ、全く馬鹿な奴らだ。たかが人間がこの鬼の俺様に勝てるわけがねぇだろうが!

 …とりあえず、あいつらを探しながら報告でもしに行くか」

 スーツ姿の鬼はぶつぶつと呟きながら闇の中に消えていった。

 「…ふぅ。間一髪だったな。

 おい、楓。力も使えないのに勝手なことをするな。ここはもう敵のテリトリーだ。知っている顔も信用できない場所だ。早死にしたいなら私の目の届かないところで死んでくれ。分かったか」

 「…すみませんでした」

 「ほら、さっさとさっきのやつを探しにいくぞ」

 千春はそう言うと立ち上がり一歩踏み出した。すると、その瞬間闇の中からさっきの鬼が飛び出して来た。完全に死角からの攻撃だった。

 「ははははっ! 俺が気付いていないとでも思ったか! 死にさらせや!」

 「…やっぱ、鬼は卑怯だよな。

 でも、そこはもう私の領域だ」

 千春はそう呟き楓を引っ張りながら後ろに下がった。そのお陰で鬼の攻撃を寸前で躱すことができた。

 「チッ、さっきから、ちょこまか動きやがって! うぜぇんだよ!」

 鬼はそう怒鳴りながらとびかかってきた。しかし、鬼はこちらに到達する前に体がバラバラになった。

 「…う、そ、だ、ろ」

 鬼の最後の言葉であった。バラバラになった場所には血溜まりが出来ていた。楓はその臭いとバラバラになった鬼を見て嘔吐してしまった。

 「おい、大丈夫か?」

 「す、すみません。も、もう大丈夫です。

 ち、因みに今のはいつのまに攻撃したですか?」

 「ん? あれか? あれは企業秘密だ」

 千春はそう言って笑った。

 「そ、そうですか」

 楓はそう言って立ち上がったが、死んだ鬼がまた視界に入り再び嘔吐してしまった。

 「…はぁ、これはしばらく無理そうだな」

 千春はそう言うと頬を掻いた。

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