廃工場にて 前
千春たちは鬼の気配がした街外れにある工場跡地までやってきた。
到着すると、異様な雰囲気が漂っていることが素人の楓にも分かる。今更ながら怖くなってきたというのが本音である。怖がっている楓に気付いた夏樹が話しかけてきた。
「おっ、楓きゅん。もしかして、怖いの?」
「え、えっとー、実は…」
「そうだよね。私も最初は怖かったよ。まぁ、今でもちょっと怖いけどね」
夏樹はそう言って楓に笑顔を見せた。その笑顔で少しばかり気が紛れた。
「よし、準備はいいよな?
今回、私は怪我をしているから楓の守りに徹する」
「えー、それなら、私が楓きゅんをお守りしたいんだけど! 千春姉さん、本当に骨折しているのかどうかも怪しいぐらい強いじゃんか」
「もー。文句言わないでよー、早く終わらせて帰らないと見たいテレビが終わっちゃう」
秋穂は頬を膨らませて夏樹に言った。
「分かった。分かったよ。早く終わらせりゃいいんだろ?
んじゃ、一仕事行きますか!」
夏樹の言葉を合図に各々、武鬼を取り出した。
「よっしゃぁ! 突撃ぃぃ!」
夏樹はそう言うと先陣を切って廃工場へと足を踏み入れて行った。皆もそれに続く。
工場内に入る前に何かを思い出したかのように秋穂は足を止めて楓の元へ歩み寄り耳打ちをしてきた。
「楓君。絶対何があっても千春姉さんの前に飛び出したりしないでね。
もし、言いつけを破ったら、バラバラになって死んじゃうかも…」
楓は生唾を飲み込んだ。
「怪我をしているからですか?」
「怪我? そんなの全然関係ないよ。むしろあれは怪我の内に入らないかも。
じゃあ、私は行くから気を付けてね」
秋穂はそれだけ言うと悪戯な笑みを浮かべて工場内へと姿を消した。
「おい、楓。ボーっとすんな。置いていくぞ」
楓はその言葉に急いで千春の元へと駆け寄った。これから踏み入れようとする工場内は真っ暗な闇に包まれていた。