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四季さん家の鬼退治  作者: ぞのすけ
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特訓

 帰り道は何事も無く、四季家に着いた。玄関の戸を開けるとそこには仁王立ちをした千春の姿があった。

 「遅い、遅すぎる。一体どこで油を売っていたんだ?」

 「え、い、いや、あのちょっと、いろいろありまして…」

 予想していなかった出迎えに楓はしどろもどろになりながら答えた。

 「どうした。何か言えない事情でもあるのか?」

 「い、いえ、そういうわけじゃないですけど…」

 「すみません。四郎園さんが学校で気絶をして先程目を覚ましたので遅くなりました。」

 返答に戸惑っている楓を見かねた美冬利は楓と千春の間に入った。

 「おいおい、大丈夫か? 一体、何があったら学校で気絶するんだ? 喧嘩?」

 その質問に美冬利は今日あった出来事を簡潔に説明した。その話を聞いた千春は腹を抱えて笑い出した。

 「ぷっ、ははっ、あはははっ

 お前、面白い奴だな」

 「そ、そんなに笑わないでください! 僕だって、本当に学校生活が終わったと思ったんですよ!」

 「まぁ、学校のトイレを女の子と一緒に出てきて先生と鉢合わせたら、誰だって終わったと思うよ。そんなことを思わないのは、お前の目の前に立っている美冬利ぐらいだ」

 千春は目に涙を浮かべて笑っている」

 「事情が事情ですからね。学校生活など私には関係ありませんから」

 「おいおい、そんなこと言うもんじゃないぞ。学校生活も大切にしなくちゃな。

 家での生活がそのまま学校生活に出る。逆もまた然りだ。そんなんじゃ友達出来ないぞ」

 千春は諭すように美冬利に言った。

 「友達何て、出来たところで私にはそんな余裕はありませんから」

 美冬利はそう言うと靴を脱ぎ千春の横をすり抜けて自分の部屋へと向かっていった。

 千春はそれを止めることなく遠ざかっていく背中を見てため息をついた。

 「なんだかなー

 まぁ、それとこれとは別だ。おし、楓。準備しろ」 

 「は、はい」

 急に話しかけられた楓は声が裏返った。

 「お前、さっきから笑わせにきてるだろ?」

 「い、いや、そんんあつもりは…

 あの、美冬利さんのこと、いいんですか?」

 「いいんだよ。おいつもあいつで、色々と事情を抱えているんだ。

 とにかく、今はお前の力をコントロールが最優先だ。時間が惜しいから早速始めるぞ」

 楓は結局特訓するのかと思いながら靴を脱ぎ、自分の部屋へ向かった。鞄を置き、運動が出来る服装へと着替えると千春の元へ向かった。一階にいた千春は退屈そうに欠伸をしながらかえでのことを待っていた。

 「すみません、お待たせしました」

 「大丈夫だ。それじゃ、特訓場へ向かうか」

 千春はそう言うと歩き始めた。楓はどこで特訓するのだろうと思いながら千春の後を着いていった。

 少し歩くと、ある戸の前で千春は足を止めた。千春が引き戸を引くと、部屋の全貌が明らかになる。そこは楓の鬼を引き出した場所だった。

 千春は楓に中に入るように指示をした。楓はそれに従い中に入る。その後に千春が中に入ると戸を閉め、鍵をかけた。

 「えっ?」

 「ん? どうした?」

 「いや、どうして鍵をかけるのかなって思いまして」

 「簡単なことだろ。お前が逃げ出さないためだ。ここは他の部屋とは違って特別に作られていてね、例えどんな屈強な野郎でも、どんな武器を使っても壊すことはできないよになっている」

 千春は不敵な笑みを浮かべた。楓はその顔に思わず後退りをした。

 「お、お手柔らかに、お願いします」

 「ははっ、冗談だよ。そんなに緊張するな。今日は基本中の基本、座禅しかしないから」

 「座禅ってあの肩をパーンって叩かれるやつですか?」

 「…まぁ、強ち間違っちゃいないが、その考えもどうかと思うぞ」

 千春は苦笑いを浮かべて自分の頬を人差し指で掻いた。

 「とにかく、何でこれが基本中の基本なのかを説明するからそこに座れ」

 千春がそう言ったので楓は床に体育座りの姿勢で座った。楓が座ったのを確認すると千春は説明を始めた。

 「いいか? 昨日、軽く話したように、私たち四季家は心の中に棲んでいる鬼を具現化して武器として使っている。これが昨日美冬利の言っていた武鬼だな。

 それには莫大な集中力を要するんだ。どうして必要なのか分かるか?」

 千春の質問に楓は首を横に振った。

 「まず、第一に集中力が足りていないと武鬼を具現化することが出来ない。

 何もない状態から武器を作り出すイメージをしなければいけない。余計な雑念が入ると、上手くイメージが出来ずに中途半端な武鬼にしかならない。

 私が今から見せるから見とけよ」

 千春がそう言うと、何も持っていなかった左手にいつの間にか日本刀が握られていた。一瞬の事過ぎて理解できなかった楓は口を開け、間抜けた顔をしている。

 「これが、私の武鬼だ」

 「す、すごいです。めちゃくちゃカッコいいです」

 千春は満更でもない顔をしたが、すぐに元の引き締まった顔に戻した。

 「ま、まぁ、武鬼は一旦仕舞うぞ」

 千春がそう言うと武鬼は再び一瞬にして消えた。まるで手品を見せられているような気分だった。

 千春はそのまま話を続けた。

 「話の続きだが、次に集中力が足りていないと鬼に喰われる。

 これはどちらかと言うと、お前に必要な説明かもな。私たちは具現化して使っているが、楓の場合は鬼を自分の体に憑依させる形になるから、生半可な精神力や集中力なら鬼に喰われる。

 鬼人は三人いる話はしただろ?」

 楓は千春の質問に頷いた。

 「お前以外の三人は自分の鬼に喰われて死んだ。

 なんなら、その時の映像あるけど、見てみるか?」

 千春の問いかけに楓は首がどこかに飛んで行ってしまうのではないかと心配になるぐらい首を横に振った。それと、同時に自分の中にはとんでもないモノが潜んでいるんだということを理解した。

 「ビビりすぎだ。そんなんじゃ喰われるぞ。

 とにかく、自分が今何をすべきか分かったと思う。それに、一刻も無駄にはできない。早速取り掛かるぞ」

 千春はそう言うと楓に胡坐を掻くように指示をした。座禅のやり方など分からないが、一緒に座禅をしながら教えてくれるそうだ。

 楓はなんとなくテレビで見たことあるやり方を見よう見まねでやってみた。千春に座り方や手の組み方など細かいところを指摘され、やっと基本の形になった。

 「よし、これが基本の座り方だから覚えておけよ。

 まぁ、その場によってこのやり方と違ったりするけど、うちはそういうのを専門にしているわけじゃないから。

 とりあえず、目を瞑って頭の中を真っ白にしてみろ」

 楓はそう言われたのでとりあえず目を瞑り頭を真っ白にしようと努力した。しかし、これが上手くいかない。いくら頭の中を真っ白にしようと試みても別なことがちらつき、頭を真っ白にすることができない。そうやって四苦八苦していると右肩に平たい棒のようなものが乗っているのを感じる。楓は乗せられたものの意味を理解する。肩を叩かれるので頭を左に傾けた。すると、その瞬間、右肩がパーンッという音を良い音を響かせ、叩かれた。

 物凄く痛かった。声には出さなかったが、顔に出る程痛かった。

 そして、また沈黙が訪れる。楓は無になろうと試みる。肩を叩かれたことにより、先程と比べると、幾分か雑念が消えた気がする。

 肩を叩かれて無になったつもりを繰り返していると楓の体中を恐ろしいモノが駆け巡っていく感じがした。それに思わずびっくりして声をあげて驚いた。

 「おい、どうした?」

 千春は少し心配そうに尋ねた。

 「い、いや、なんだがとても恐ろしい何かが体の中を駆け巡っていくようなそんな感じがして驚いてしまって…」

 楓の額にはびっしりと脂汗が浮き出ていた。千春はそれを見て小さく呟く。

 「思ったより早かったな…」

 「えっ」

 「今、お前が感じたものはお前の鬼だ」

 「僕の鬼、ですか…?」

 「鬼は本来、成長しきると人の体を破って出てくる。しかし、楓の場合は成長しきった鬼が出て来れずにいる。

 すると、鬼はどうすると思うか?

 「…分かりません」

 「鬼人の説明はしただろ?

 鬼は楓自身を乗っ取ろうとする。つまり、今もその可能性があるというわけだ。

 今は座禅を組ませて雑念を取っ払ったから、楓自身が鬼を明確に認識することができた。

 お前はあんな恐ろしいものに狙われている自覚をしなければならない。だから、私は美冬利に学校ではずっと付いて回るように言ったんだ。

 それで、どんな感じの鬼なのか分かったか?」

 「いえ、体を駆け巡る感じだったので。でも何だか真っ赤な目に見られたような気がします!」

 「そうか。

 今日はもう疲れただろ? 風呂に入って飯にするか」

 千春はそう言うと部屋を後にした。呆気に取られた楓は少し固まったが、急いで千春の後に続いて部屋を出ると自分の部屋へと戻った。

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