出会い
春、それは出会いと別れの季節。麗らかな日差しに照らされ、心地よい春風に背中を押された一人の少年は山谷中学校と書かれた校門をくぐった。
「えーっと、僕のクラスは…、あっ、あった」
少年は教室の前に張り出されていた名簿に目を通していた。そして、自分の名前が書かれていた三年六組の教室へと入った。中に入ると既に何名かの生徒がいて、そのそれぞれが談笑をしていた。少年は辺りを見渡し、見知った顔がいるかどうかの確認をした。すると、少年の目に映ったのは窓際の席に座り、春風に靡く髪を直しながら本を読む美しい少女が目に留まった。その美しさに我を忘れ、ただただ見惚れていると不意に後ろから声を掛けられた。
「おい、楓。何を入り口で突っ立っているんだよ」
楓と呼ばれた少年は我に返り後ろを振り向くと一人の少年がニヤニヤしながらこちらを見ている。
「浩太か。びっくりしたよ。
あれ? もしかして浩太も同じクラス?」
楓がそう言うと浩太と呼ばれた少年は「おう」と答えた。その返答に楓はホッと胸を撫で下ろした。
「よかった~ 知らない人ばかりだったらどうしようと思ったよ」
楓がそう言うと浩太は笑った。
「そんな心配するなよ。
まぁ、一年間よろしくな」
浩太はそう言って楓の背中をポンと叩くと適当な席に着いた。それにつられて楓もどこか席に着こうと辺りを見渡し、空いていた教卓の前の席に座った。
鞄を机の上に置き、ぼんやり考え事をしていると学校のチャイムが鳴った。チャイムの音が聞こえると話をしていた生徒は話を止めて席に着いた。
チャイムが鳴ってから三分ほどして男の先生と女の先生が教室へと入って来た。きっと今年の担任と副担任の先生だろう。男の先生が教卓のところまで来て自己紹介を始めた。
「今日から一年間、お前らの担任を受け持つことになった吉岡だ。よろしく」
吉岡と名乗った先生は自己紹介を終えると女の先生に「どうぞ」と促した。女の先生はペコリと頭を下げると、その場で自己紹介を始めた。
「え、えーっと、副担任の御領です。一年間よろしくお願いします」
御領と名乗った先生が自己紹介を終えると吉岡先生は、ざっと教室の中を見渡した。
「という訳だから、一年間よろしくな。
もう、みんな三年生だからこの後の日程を分かっていると思うけど、この後は始業式があるから体育館に移動しろよ。
そして、体育館から戻ってきたら席を出席番号順で座りなおすこと。分かった奴から体育館に移動するように」
吉岡先生はそう言うと教室を出た。生徒たちはその後に続くように教室を出て体育館へと向かった。