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勇者に追放された魔導士、実は最強の召喚士だった  作者: 赤井むさび
第一章 始まりの冒険
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第06話 遭遇

「私の名前はナギって言うの。この人はリーオ。貴方のお名前は?」


 馬車に揺られながら、ナギが少女に尋ねる。

 少女はナギの隣にちょこんと座っていた。


「ルエリです」

「へー。ルエリちゃんか。可愛い名前だね」

「あ、ありがとうございます・・・・」


 ルエリは照れて顔を伏せた。

 そういう仕草も可愛らしい。


「ルエリちゃんは、トゥーリンに行きたいの?」

「はい。そうです」

「どうして?何か用事があるの?」


 しばらくの沈黙の後に、ルエリは口を開いた。


「兄を、探しているんです」

「お兄さんを?」

「はい・・・・・」


 俺とナギは顔を見合わせる。


「君のお兄さんがトゥーリンにいるのか?」


 俺はルエリに尋ねた。


「それは、分かりません」

「分からない?」

「ですが、トゥーリンには行っているはずなんです」

「トゥーリンには行っている、か」


 つまり、その先は分からないということだ。


「トゥーリンがお兄さんを探す手がかりということね」

「そういうことです」


 ルエリは頷く。


「わざわざ兄を探すために、馬車を探して一人旅か」


 子供なのに、随分と大変なことをするものだ。


「どうしてそこまでして兄を探す?」

「兄は、私の数少ない家族なんです・・・・」

「数少ない?」

「はい。私には兄と母しかいないので・・・・」

「なるほど・・・・」


 俺は遠くを見るような気持になった。


「見つかるといいな」

「はい」


 ルエリは力強く返事した。


(本当に、見つかるといいな)


 一人でいるのは、とても辛いことだから・・・。


「ところで、君のお兄さんは、何でトゥーリンに向かったんだ?」

「ええと、それは・・・・」


 ルエリは少し答えづらそうにした。


「何か理由があるんだろう?」


 何の理由もなしに家族を置いて旅に出るとは考えにくい。

 ルエリの兄には、何か旅に出なければならない理由があったはずだ。


「母を、助けるためなんです」


 ルエリは絞り出すように言った。


「お母さんを助ける?」

「・・・・はい」

「お母さんは、何か病気を患っているのか?」


 ルエリがこくりと頷く。


 だが、どんな病気を患っているのかは話してくれなさそうだ。


「人には色んな事情があるわよね」


 ナギが肩をすくめてそう言った。


「リーオにも、すっごい秘密があるし」

「凄い、秘密ですか?」


 打って変わって、ルエリが目をキラキラと輝かせる。

 こういう反応は、純粋というか、本当に子供だ。


「リーオはね、『古代言語解読』のスキルを持っているのよ」


(秘密だと言った割には随分とあっさり暴露したな・・・)


「『古代言語解読』・・・・ですか?」

「読んで字のごとく、古代の言語を解読できるスキルだ。今は使われていない言語を読むことが出来る」


 俺がルエリに解説した。


「へえ・・・・」


 ルエリは何が凄いんだかよく分からないという様子だ。


 まあ、そりゃそうだろう。


 でっかい炎を出したりだとか、精霊を操ったりすることが出来る訳じゃない。

 ただ昔の言葉を読むことが出来るというだけだ。


 俺でもインパクトに欠けると思う。


「能力だけ聞くと大したことが無いように聞こえるかもしれないけど、とんでもないスキルなのよ。何せ、王国五百年の歴史の中で、このスキルが目覚めたのはリーオただ一人なんだから」


 ナギが自慢するように胸を張ってそう言った。


「え!!?」


 ルエリがびっくりして俺のことを見る。

 五百年に一人しかいないというところに反応したんだな。


「珍しいスキルってだけだ。実用的な価値はほとんどないよ」


 このスキルで読める古代の言語は一種類しかない。

 しかも、その言語が使われている本はたったの一冊だ。


 その古代の言語が使われている本というのは・・・・。


「そんなことないでしょー。そのスキルがあるお陰で、リーオは黒の魔導書が扱えるんじゃない」


 そう。黒の魔導書だ。


 黒の魔導書には、俺が解読できる古代の言語が使われている。

 だから、俺は黒の魔導書を扱うことが出来るという訳だ。


「ただ、ものすごいデメリットがあるんだけれどね」

「どんなデメリットなんですか?」

「他の魔導書が使えなくなるというデメリットよ」


 これは魔導士として致命的なデメリットだ。


 黒の魔導書を扱える代わりに、他の一般的な魔導書が使えない。


 お陰で、俺には魔道の知識があるのに、黒の魔導書を使わなければ一切魔法を使うことが出来ないという、おかしな状況になっている。


 俺が魔導士として三流の理由だ。


「でも、その黒の魔導書って、すごいものなんですよね?」

「すごいとは言われているけどな・・・・」


 俺は微妙な返事をした。


「違うんですか?」

「よく分からない」

「ん?」


 ルエリは頭の上に「?」を浮かべた。 


「これは見せないと説明出来ないな」


 俺は黒の魔導書を出して、ルエリに見せた。


「これが黒の魔導書だ」


 そして、ページをめくっていく。


「途中までは文字や術式が書いてある。だが・・・・」


 俺が魔導書を100頁ほどめくったところだった。


「ここから完全な白紙になっている。ずっと真っ白だ」

「本当だ!真っ白になっている!」


 ルエリが驚きで目を見開かせる。


「どうして白紙なんですか?」

「鍵が掛かっているんだ」

「鍵、ですか?」

「ああ。魔導書の中には、他の人が勝手に使わないようにするために、製作者が鍵を掛けることがある」


 強力な魔導書には鍵が掛かっているものが多い。

 魔導書というのは、それ自体が兵器のようなものだからだ。


 使い方次第で、一つの町を滅ぼすことだって出来る。


 だが、魔導書の一部に鍵を掛けることで、魔導書の力を完全に引き出すことを出来なくさせることが出来る。

 そして、いざという時に、自分だけが真の力を扱うことが出来るようにする。


「その白紙の状態が、鍵がかかっているということなんですか?」

「そういうことだ」


 今、黒の魔導書は、ページの大部分に鍵が欠けられている。

 それが意味するところは、俺はほんの一部しか力を引き出せないということだ。


 だが、それを踏まえたとしても・・・・。


 どうして俺がいつも魔法の発動に失敗するのかは謎なんだが。


「鍵はどうやって見つけるんですか?」

「それなんだがな・・・・」


 俺は深い溜息を吐いた。


「製作者本人にしか分からない」

「そうなんですか・・・・」


 最初は魔導書の中に鍵のヒントがあるのではないかと考えられていた。

 だから、言語を解読できる俺に大きな期待がかかることになった。


 しかし、内容を解読した結果、魔導書のどこにもヒントはなかった。

 それはもう、鍵を見つける方法がないということだ。


「なんだか、もったいないですね。せっかく力があっても、それを使うことが出来ないなんて」

「そうだな。だが、もしかしたら・・・・」


 使えなくていいのかもしれない。

 俺には、扱え切れない力なのかもしれないから。


 そんなことを言おうとした時だった。


「リーオ!!」


 ナギが突然、俺の腕を掴んだ。


「どうした?」


 ナギを見ると、ナギの目が青く光っていた。

 スキルを発動しているときの目だ。


「モンスターよ」

「なに?」

「モンスターがこの馬車に迫ってきているわ」


 次の瞬間だった。



 グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!



 大地を割るような咆哮が響き渡った。

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