第05話 新たなる門出
翌日、俺とナギは宿の前で待ち合わせて、出立の準備をした。
道具と旅糧は簡単に揃えられたが、肝心なことが決まってなかった。
目的地と、移動方法だ。
「まず、移動方法はどうする?」
俺は町の中を歩きながら、ナギに尋ねた。
「馬車を使いましょ」
パンの欠片を口の中にほおばりながら、ナギが答える。
「馬車か。借りるのか?」
「商人が使っているのを乗せてもらうのよ」
「どうやって乗せてもらうんだ?」
「護衛という建前を使うの。目的地まで護衛するから、私たちも乗せてって」
「なるほどな・・・・」
いい考えだ。それなら余計なお金は掛からないし、運が良ければ、護衛代として幾らかお金を稼げるかもしれない。
「移動方法はそれでいいとして、目的地はどうする?」
「うーん。特に決めてないわ。リーオは?」
「俺も、特に考えてないな・・・・」
行きたいと思っているところは特にない。冒険者としての仕事が出来そうなところなら、どこでもいいと思っているぐらいだ。
「何か候補とかはないのか?」
「そうねえ。どうせなら、まだ行ったことがないところがいいかな」
ナギは、手に付いたパンくずを払いながら、そう言った。
「行ったことが無いところか・・・・」
「そうそう。例えば、北の方なんて、どう?」
「北の方・・・・」
俺たちが活動していたのは、王国の西側とか南側の方だ。
西側には王都があり、南側は帝国と接している。
どちらも交通が発達しているので、移動が非常に便利だ。
ちなみに、今俺たちが居るのは、王国の中央部だ。
「北にどんな町があるのか知っているのか?」
「ぜーんぜん。だから行ってみたいんじゃない」
俺はナギの自由気ままな発言に、思わずクスリときてしまった。
(ま、たまにはそういうのも、ありかもしれないな)
「それじゃ、北の出入り口に行ってみるか。もしかしたら、北の方に向かう馬車があるかもしれない」
「賛成!!それじゃ、行ってみよー!!」
●
北の出入り口に着いた。
昨日雪が降っていた影響で人通りは少なかったが、これから出発しようと準備している馬車の姿がいくつかあった。
「すいませーん」
ナギが目についた馬車に向かって声を掛ける。
「ん?なんだ?」
馬車の中から、商人姿の男が顔を出した。
「この馬車、これから出発する予定とかありますか?」
「丁度準備が終わって、今から出ようと思っていたところだ」
商人が馬車から降りて、俺たちの前に立った。
「お前たちは誰なんだ?ここで何をしている?」
「私たち、冒険者なんです。この辺りで護衛の仕事がないか探していて」
「おお!そうだったか!」
商人が顔をほころばせる。
「実は、護衛の依頼を引き受けていたやつが、急に怪我でこれなくなってな。ちょうど代わりの護衛を探していたところなんだ」
「そうだったんですか!」
ナギが小声で「ラッキー♪」と呟いた。
「ちなみに、どこまで行くんですか?」
「トゥーリンってところだ」
「トゥーリン・・・・?」
ナギが首を傾げる。
「リーオ、トゥーリンって知ってる?」
「名前ぐらいしか聞いたことが無い・・・・」
ギルドで冒険者がうわさしていたのを聞いたことがあるだけだ。
「お前たち、トゥーリンを知らないのか?」
俺とナギは頷いた。
「トゥーリンというのは、ここから馬車で北に五日ほど進んだところにある町だ。ここほど大きくはないが、それなりに発展している」
ここから馬車で五日ほどとなると、そこそこ北の方になるな。
「ちょうどいい感じのところね」
ナギが耳打ちする。
「そうだな」
俺は頷いた。
「報酬の話だが、一人頭、一日1000ペーラでどうだ?」
「合計で10000ペーラということですね」
「ああ。場合によっては、上乗せすることもある」
金払いも悪くない。全体的にとても良い条件だ。
「引き受けます!」
ナギが言った。
「よし。商談成立だな。あと十数分したら出発するから、馬車に乗っといてくれ。言うまでもないことだと思うが、商品を傷つけないようにな」
「はい!!」
俺とナギは頷いて、馬車の中に乗り込んだ。
馬車には荷物が詰められていたが、数人分なら座れるスペースがあった。
「待ってください!!!」
俺たちが馬車に乗るのと同時に、外から少女の声が響いた。
「お願いします!!待ってください!!」
俺たちが乗り込んだ馬車の扉がドンドンと叩かれる。
どうやら、この馬車に向けて少女は呼びかけているようだ。
「どうした嬢ちゃん。ここは子供の来るところじゃないぞ」
馬車の窓から外をのぞくと、少女の姿が見えた。
少女はフードを被っていて、顔が良く見えない。
「この馬車、トゥーリンに向かうって、言ってましたよね?」
「ああ。確かに、トゥーリンに向かうが・・・・」
「私も、この馬車に乗せてください!!」
少女が深々と頭を下げる。
「はあ!?何言ってるんだ!」
「お金なら出します!だから、私も乗せてください!」
「お金の問題じゃない。これは行商用の馬車なんだ。子供は乗せられない」
「お願いします!そこを何とか!!」
(何か訳ありの感じだな・・・・)
隣を見ると、ナギも外の様子に注目していた。
「ダメだ。馬車に乗せることは出来ない」
「そんな・・・・」
少女が肩をがっくりと落とす。
「どうする?」
「どうするって、何が?」
「あの娘のことよ」
そう言って、ナギが少女の方を指差す。
「なんか訳ありそうじゃない?」
「ああ。確かにな・・・・」
子供があそこまで頼み込むなんて、普通じゃない。
何か、のっぴきならない事情でもあるのだろうか。
「あの娘、何だか放っておけない・・・・」
「馬車に乗せるか?」
「そうだね。ちょっと、あの人に話してみる」
ナギは馬車の扉を開けて、外に降りた。
「あの、すみません!」
「ん?どうした?」
「その娘、乗せてもらえませんか?」
少女がパッと顔を上げて、ナギのことを見る。
「おい。お前まで何言ってるんだ」
「面倒なら私たちが見ます。だから、その娘も馬車に乗せてもらえませんか?」
「面倒を見るって言われてもな・・・・」
商人がポリポリと頭を掻く。
「お願いします!!!本当にお願いします!!」
再び、少女が商人に向かって頭を何度も下げる。
「だーっ!分かったよ。乗せればいいんだろ?乗せれば」
「ほ、本当ですか!ありがとうございます!!」
「だけど、俺は、一切、お前の面倒を見ないからな。何があっても知らんぞ」
「大丈夫です!私とリーオがしっかり面倒見ますから!ね!」
ナギが馬車の中にいる俺のことを見る。
俺は馬車の中から少女に向かって手を振った。
少女は俺とナギを見て、嬉しそうに頷く。
「本当に助かりました。何とお礼を言ったらいいか・・・・」
「おい!!そろそろ出発するぞ!!さっさと馬車に乗れ!!」
商人が少女とナギに向かって大声を上げた。
「それじゃ、乗ろっか」
「はい!!」
フードを被った少女と、ナギが馬車の中に乗り込む。
ドアが閉まる音と共に、馬のいななきが響き、馬車が出発した。
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