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勇者に追放された魔導士、実は最強の召喚士だった  作者: 赤井むさび
第一章 始まりの冒険
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第02話 魔導書を返す

「は?」


 俺は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。


「聞こえなかったのか?」


 シルエンが俺の顔を見てニヤニヤと笑う。


「お前を追放すると言ったんだ」

「本気で言っているのか?」

「本気だとも。お前を追放するために根回しをしたぐらいにはな」


 そう言って、シルエンは懐から紙を取り出した。


「それは何だ?」

「国王からの正式な勅書だ。これが無ければ誰も信用しないだろう」


 勇者が入るパーティーは、通常とはかなり変わった扱いになっている。

 メンバーの追放には国王の許可が必要であり、勝手に追放することは出来ない。


「読むか?」


 シルエンが俺に勅書を投げ渡した。

 読むと、そこには、俺の追放を許可するという趣旨のことが書かれていた。


「納得したか?」

「・・・・・ああ」


 ここまで揃えられたら、納得するしかない。

 俺はこのパーティーから追放されるのだということを。


「ちょっと待ってよ!!」


 ナギが声を上げた。


「本当に追放なんてする気!?リーオは最初の頃からずっとパーティーを支えてくれた仲間なのよ!?前回の失敗があったからって、それだけで追放するなんてあんまりじゃない!!」

「前回だけじゃない!!!」


 シルエンは声を張り上げた。


「リーオが失敗したのは前回だけじゃない。これまでに何度もあった」

「それでも、支え合って来たじゃない。皆が揃ってこそのパーティーでしょ?」

「支えているのは俺たちだけだ。リーオは、支えられているだけだ」

「そんな言い方って・・・・!」

「何か異論でもあるのか?それなら皆にも異論がないか聞いてみよう。リーオは俺たちの支えになっていると思うのか?ん?リーオは本当に必要な存在か?」


 シルエンは他の仲間に向かって尋ねた。

 他のメンバーは顔を俯かせるだけで、ただただ黙っている。


 皆、心のどこかで、俺のことをお荷物だと思っているんだ・・・・。


「何も言わないということは、皆、考えていることは同じということだ」

「そんなことないわよ!あんたが圧力を掛けるからでしょ!ね、ローナは違うわよね?リーオのことを必要だと思っているわよね?」


 ローナはドワーフのハンマー使いだ。

 身体は小さいが、パーティーの中で一番の力持ちである。


「わ、私は・・・・」


 ローナは身体を震わせながら、ナギの顔を見上げる。


「私は、リーオを・・・・」


 ローナは何か言いかけようとしたが、そこにシルエンの顔が視界に入った。

 その途端に、ローナは再び俯き、何も喋らなくなってしまった。


「ローナ・・・・」

「いくら説得しようと無駄だ。皆の考えは一緒なのだからな」


 シルエンは勝ち誇る様に言い放つ。


「あんたってやつは本当に・・・・」

「おっと。言い忘れる所だった。実は、ナギにも話しておかなければならないことがあるんだった。ふふふ・・・・」


 シルエンが薄ら笑いを浮かべる。

 そして、懐から、さっきと同じような紙を取り出した。


「まさか・・・・・」

「そのまさかだ。今日限りで、ナギ、お前も追放する」

「どうしてナギまで追放するんだ!!」


 俺は声を上げずには居られなかった。


「俺が追放されるのは分かる。俺は、皆の足手まといだからだ。だが、ナギは違うだろ!ナギはこのパーティーの大事な戦力じゃないか!!」

「ふんっ。"黒の魔導書"を扱えることだけが取り柄の三流魔導士が。よくもそんな生意気な口を聞けたものだな」


 シルエンが高圧的な態度で俺のことを見下す。


「ナギは大事な戦力だと?ナギはこのパーティーのリーダーである俺に食って掛かり、挙句の果てに、お前に異常に肩入れしてパーティーの輪を乱そうとした。ナギはパーティーをかき乱しているだけで、何一つ役立っていない!!」


(まさか、こんなやつだったとは・・・・・)


 俺は呆れて口が塞がらなくなった。

 

 ナギにどれだけ助けられたと思っているんだ。

 ナギがどれだけこのパーティーに尽くしてきたと思っているんだ。

 ナギが居なかったら、勝てなかった戦いが何度もあっただろう。


 それを、シルエンは、自分と意見が合わないという勝手な理由の為に・・・・。


「もういいわ。リーオ」


 ナギは落ち着いた様子でそう言った。

 だが、ナギの方を見ると、その顔は怒りで震えていた。


「あんたがどういうやつなのか、よく分かったわ。実力だけはあるから大目に見ていたけれど、今日と言う今日はもう我慢ならない。こんなパーティー、私の方から願い下げよ!!」


 そう言い捨て、ナギは集会場から出ていった。


「ナギ!!」


 俺は彼女の後を追おうとした。


「待て」


 だが、シルエンが後ろから呼び止めた。


「リーオ。お前にはまだやるべきことがあるだろう」

「やるべきこと?」

「その魔導書だ」


 シルエンは俺が手に持っている魔導書を指した。


「それは、本来、お前の持つべきものじゃない。返してもらおうか」


 "黒の魔導書"・・・・。


 王国の国宝の一つであり、強大な魔法を発動できるとされている。

 誰も使い手が居なかったため、王国の宝物子で埃を被っていたが、俺という"使うことの出来る人間"が現れたため、王国から俺に貸し与えられていた。


 この魔導書こそが、俺が勇者のパーティーに加えられた、最大の理由だ。


「これを、返すのか」

「そうだ。お前はもう俺たちの仲間じゃない。だから、その魔導書をお前が持ち続ける理由はないだろ」


 確かにそうだ・・・・。


 "黒の魔導書"を勇者を補佐するのに使えるかもしれないからという理由で、俺はこの魔導書を持たされていたのだ。

 勇者からパーティーを追放された今、俺にこの魔導書を持ち続けることの出来る理由はなかった。


「分かった」


 俺は魔導書をテーブルの上に置いた。


「それじゃあ、もう行っていいぞ。追放された同士、せいぜい慰め合うことだな」


 俺はシルエンの言葉を無視して、ナギを追いかける為に外に出た。

 集会所の外では、雪がしんしんと降り積もっていた。

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