第01話 追放宣言
シルエンから話があると告げられ、ギルドの集会所にやってきた。
彼は俺が所属しているパーティーのリーダーで、勇者の称号を持っている。
集会所に入ると、既にパーティーの他のメンバーも集まっていた。
「遅いじゃないか。リーオ」
「すまない。ちょっと時間が掛かった」
「魔導書はちゃんと持ってきているか?」
「ああ。ここにあるよ」
俺はシルエンに魔導書を見せた。
黒革で装丁された分厚い本で、持ち歩くだけでも大変な代物だ。
「魔導書なんか、何に使うんだ?」
「そのうち分かるさ」
シルエンはニヤリと笑った。
「ねえ、シルエン。何の話をするのか早く説明してくれない?」
ナギがしびれを切らすように口を挟んできた。
彼女はエルフの弓使いで、ちょっと気の強いところがある女性だ。
「分かってるって。そう急かすなよ。今、話すから」
シルエンは上機嫌な様子でナギに答えた。
(何かおかしい・・・・)
普段のシルエンなら、こういう時、よくイライラするものなのに。
今日は、やたらと機嫌がいいな・・・・。
「リーオも来たことだし、早速、話を始めたいと思う」
シルエンがパーティーの皆の前に立った。
俺はそれに合わせて、適当な席に座る。
「皆もよく覚えているだろう。前回の依頼で何があったかを。俺たちはBランクのモンスターの討伐依頼を受け、楽勝でそれを達成する予定だった。楽勝で、な」
シルエンは俺の方を見ながら、やたら楽勝の部分を強調した。
「だが、信じられないことが起こった。あろうことに、この俺たちが、Sランクパーティーの評価を受けているこの俺たちが、Bランクの討伐依頼を失敗してしまった。それも、最悪の形でな。何でだか分かるか?」
副リーダーであるトッシュを除いて、他の皆が顔を伏せた。
失敗した理由は痛いほど分かっている。痛いほどな・・・・。
「答えてみろ!どうして失敗したんだ?」
「俺のせいだ・・・・」
俺がシルエンに向かって答えた。
「俺のせいで、失敗したんだ・・・・」
「リーオ!」
ナギが庇うように前に出てくる。
「あれはリーオのせいじゃないって言ったでしょ?仕方のないことだって・・・」
「違う。俺の責任なんだ」
「リーオ・・・・・」
「俺が魔法をうまく扱えなかったせいだ。炎魔法を発動するべきところで、俺は手間取り、タイミングが遅れてしまった。そのせいでモンスターを仕留めるタイミングを失い、逃がしてしまったんだ」
「そして、村に被害が出た」
シルエンが俺に被せてくるように付け足した。
「死人が出たんだぞ。子供が死んだんだ。残された親はどう思うか・・・・」
「どうせ、あんたが気にしているのは、自分の体面だけでしょ!」
「黙れ!!!」
シルエンがナギを睨みつけて大声を上げる。
その剣幕に、さすがのナギも怯んで、口を閉じてしまった。
「とにかく、あの場面はリーオに責任があった。だが、俺は決して、リーオのことを責めようというんじゃない」
シルエンは一転して柔らかい表情を浮かべた。
「リーオはこれまで、ずっと俺たちと戦ってきた。能力不足なところはあるが、それでも、何度か助けになってくれたことはあった。俺はリーオのこれまでの貢献に感謝しているんだ」
「シルエン・・・・」
俺は心がジーンと温まるような気持ちになった。
シルエンはちゃんと、俺のことを仲間として意識していてくれてたんだな。
だが、そんな感動は一瞬にして消え去った。
「だからこそ」
シルエンは俺の顔をじっと見つめて、言い放つ。
「お前をパーティーから追放する」