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8 誕生日と潜む影


お茶会から数ヶ月経った。

「リリアーナ、お誕生日おめでとう」

「ありがとうございます、お父様」

今日は私の九歳の誕生日だ。父が張り切って開催したパーティには、もちろんルークやサイラス達も来ていた。サイラスとは、あれから友人として付き合いは続いている。

「リリ」

「あ、お兄様」

兄は私を呼び止めて、手招きする。素直に近づくと、手を出せと言われれる。言われるがままに手を差し出すと、ラッピングされた小さな袋が手渡された。

「プレゼントだ。お前の趣味に合うか分からないが・・・」

照れたように頬を掻きながら、兄はそう言う。ガサリと開けると、そこには派手すぎない綺麗な細工の施されたバレッタが入っていた。

「わぁ!とても綺麗なバレッタ・・・!ありがとうございますお兄様!ずっと大切にします!」

ぱあ、と顔を輝かせてお礼をすると、兄はふ、と微笑んだ。そして、

「誕生日おめでとう、リリ」

「!」

ふわり、と抱きしめられた。そこには確かな親愛が込められていた。

「ありがとうございます、お兄様」

兄はこの数ヶ月の間に十二歳になっていた。その時渡したブローチを、兄はいつもつけていてくれている。

兄妹仲はとても良いと言えるだろう。私の努力の賜物である。

兄は来年には寮制の学校へ入らなければならないから、しばらく誕生日パーティには来れない。──ちなみにその学校こそが、ゲームの舞台である。少し寂しい思いで兄を見ていると、「リリア」ともう聞き慣れた綺麗な声が私を呼んだ。

「ルーク、わぁ!?」

振り返ると同時に突然引っ張られて、よろついた私はそのままルークに抱き締められた。なんか似たような事、前もなかったか。

「ダメじゃないかリリア。僕というものがありながら、他の男に抱き締められて」

「他の男って・・・お兄様なんだけど」

私はルークに呆れを隠さず答える。利用目的のくせにやたらと婚約者ヅラしてくるのは辞めてほしいところだ。ああ、それとも利用してるからこそなのだろうか。どちらにせよ、私には迷惑なことこの上ない。そういうのは私じゃなくてニーナとやってくれといつも思う。

「・・・・・・そういうのは・・・ニーナとやって欲しいものだわ」

「え?」

ぼそ、と小声で思わず本音が漏れた。私はしまった!とばかりに口を押える。

「ごめんね、途中聞こえなかったんだけど・・・。そういうのは・・・何?」

しかし、ルークは聞き取れなかったらしく聞き返してくるだけだった。

「いいえ!なんでもないの!」

よかった、まともに聞かれてたら大変だった。慌てて誤魔化すが、ルークはいまいち納得していない顔をする。

「──まぁいいか・・・。それよりも、はい。ちょっとじっとしててね、リリア」

「っえ?わ!!」

ルークはぱっと表情を変えて、私に近づくと、首に何かを付ける。──ていうか、近い! 私は未だにこの距離感に慣れない。だって無理だ、前世でもまともな恋愛のひとつもしていないままあの世に行ったのだから。

「はい、できたよ」

「っ、あ・・・ネックレス・・・」

首元を見れば、上品な青い輝きを放つ宝石──サファイアの埋め込まれたネックレスが見えた。

「わ!綺麗・・・」

「リリアの瞳と同じ色だよ」

彼はクス、といたずらっぽく笑う。

「本当に素敵なプレゼントね。ありがとうルーク、一生大切にするわ」

私は満面の笑みで感謝を伝えた。たとえこの先、ニーナと恋をして私を利用する必要が無くなって、婚約が解消されても──この時のこの思い出は本物だから。きっと私はこのプレゼントを捨てることは無い。

「・・・・・・うん、どういたしまして」

ルークは一瞬ぼうっとしたようだった。けれどその後すぐに笑っていたから、私の見間違えかもしれない。

「いやあ〜、相変わらずリリアちゃんにはたじたじだねぇルーク」

「ひっ!?い、いたんですか!?サイラス!」

「いたんですかって酷いな〜。空気を読んで気配を消してただけだよ」

突如聞こえたサイラスの声に思い切り驚く。気配を消した“だけ”ってなんだ。つくづくサイラスという人はよく分からない。

「・・・余計なことを言う口は縫い合わせるよ、サイラス」

ルークは苦い顔でサイラスを睨む。睨まれたサイラスはニヤニヤしているだけだった。

「ちょうどいいんじゃないですか、殿下には」

「グウェイン、お前ね・・・」

しれっと兄も同調する。最近になって分かったのだが、どうも兄はルークに対して敬意は払うが一言二言余計なことが多い。兄は毒舌だっただろうか?と疑問が浮かぶ。

兄や、ルーク、サイラスに囲まれて騒がしくなる。いつの間にか自分の周囲は賑やかになったと思ってはたと気づく。

あれ?私、女の子の友達いなくないか?

この瞬間、私は友達作りに励もうと決めたのだった。



時同じくして、オルコット家の庭園。暗がりに潜む影が、その目に怪しげな光を灯して屋敷を見ていることに、誰も気がつく事はなかった。


近いうちにルーク視点のお話を出す予定です。

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