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7 友人


ルークが席を外したタイミングを見計らって、サイラスは好機とばかりに話しかけてきた。

「いや〜、さっきは災難だったね」

「あ、あれはもう忘れてください・・・!」

「まぁあれがルークのやり方だからね〜。許してやってよ」

「・・・ええ、わかっています。あれはきっと、周囲へわざと見せることに意味がある、ある種の牽制でしょう」

その答えに おお、とサイラスは目を丸くする。

「きっと“婚約者”がいるにも関わらず寄ってくる方々を遠ざけたいんでしょう。だから私と仲の良い振りをして見せつけた・・・、そうですよね?」

「へぇ〜、お見事。流石ルークが選んだだけの事はあるみたいだね。年齢にそぐわない思考回路をしてるのは似たもの同士ってとこかな〜」

褒められたのかよく分からないが、サイラスは感心したようにうんうんと頷く。

「でもそれだと、満点の回答ではないかな〜」

「へ?」

聞き返すと、彼は楽しそうにニヤニヤしている。

「あのね、さっきのはそれもあるだろうけど、実のところ────」

「なにをしてるのかな、サイラス」

サイラスの言葉を聞く気満々だった私は、突如戻ってきた声の主にいたのかと振り返る。

「なにか余計なこと言った?」

「おお、こわ」

ルークの周辺だけ吹雪いているのではと言うくらい、彼は冷たい声をしながら微笑んでいる。正直めちゃくちゃ怖いが、サイラスはおどけたようにそう言うと肩をすくませる。

「言おうとしたけどタイミング悪く戻ってきたからね〜。何も言ってないよ、未遂未遂」

「全く、君は相変わらず油断も隙もない・・・」

はあ、とため息をつくルークは、彼にしては珍しく苦々しい顔をしている。

「リリアも、言われた事を真に受けないでね」

「え、ええ」

こんなルークは本当に珍しい。サイラスの前ではこんな風なのか。

「ふ、ふふ」

「リリア?」

私はなんだかおかしくて、小さく笑ってしまう。

「ルーク様──ううん、ルークも、そういう顔するのね」

気持ちが穏やかになった私は、ついでに話し方を変えた。呼び捨てでいいと言ったのも向こうだし、敬語も要らないと言ったのも向こうだ。

「もっと私にも色々な表情を見せて欲しいから、ルークに認めて貰えるように頑張らないとだわ」

「・・・・・・」

緩んだ表情筋でそう笑いかけると、ルークは目を見開いて黙ってしまった。

「ルーク?」

「っははは!これはしてやられたね〜ルーク!」

「・・・いい加減うるさいよ、サイラス」

ルークはふいと私から視線を外した。私はなにか変な事を言っただろうか?

(だって、推しの色んな表情が見れるのはすごく美味しいんだもの)

視線を逸らすルークと、爆笑寸前のサイラスを横目に、私はうんうんと心の中で頷いたのだった。



「今日はすごく楽しませてもらったよ、ありがとうリリアーナ嬢〜」

「えっ?わ、私ですか?」

謎の感謝に困惑する私に、サイラスは笑って頷く。

「また遊びに来てね〜。俺たちいい友人になれるよ、きっと」

「は、はぁ・・・」

終始困惑しきりの私の手を、ルークが引く。

「それじゃあね、サイラス。また来るよ」

「うん、・・・お待ちしておりますよ、ルーク殿下、・・・ふふ、なんてね」

演技がかったお辞儀をして、サイラスは私たちを見送る。進み始めた馬車の中では、ルークは窓から外の景色を眺めているだけだった。疲れたのかしら?と思いながら、私は先程までのやり取りを思い出す。

──そう言えば、サイラスはなんと言おうとしたのだろうか。



お茶会が終わり静かになった屋敷で、サイラスは一人自室で目を閉じていた。

(ああ、今日は久しぶりに楽しかった)

彼はルークが大胆に牽制したあの場面を思い出して笑う。

(ルークのやつ、利用目的で最初はあの子に近づいただろうにね〜。しっかり好意あるじゃん)

あれは、確実に独占欲を出していたと彼は思う。あの時、周囲の男(と言っても精々九~十一歳程の年齢だ)から向けられたリリアーナへの熱い視線。あの子は次に九歳とは思えないほど、既に完成された美を持っている。黙り込んでいれば物憂げに見えなくもないだろう。その視線にあのルークが独占欲を発揮するなんて。

(だけど、肝心のリリアーナ嬢はルークにそういう感情はないみたいだった。なんというか、“あいつ自身”を見ていない目をしていた)

ルークを見ているように見えて、その実何か違うものを彼女は見ている。そんな気がした。

「はは、だから俺は、ルークといて飽きないんだよね〜」

その独り言はひどく楽しそうに放たれて、彼だけの部屋に静かに響いたのだった。



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