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5 王子と獲物


パーティの翌日、事件は起こった。

「ええと、お父様、今なんて?」

「ルーク殿下との婚約が決まったんだよ、リリアーナ」

怪訝そうにしつつも嬉しそうにもう一度言ってくれる父。

「おめでとうございます!リリアーナ様!」

ぱあ、と顔を輝かせてこちらを見るケリー。

「・・・う、うそ・・・」

そして、場に似合わず一人顔を青くする私。

“ルークとの婚約”が決まってしまった。それ即ち、

(し、死亡フラグが折れてない!)

なんでだ。どうしてこうなった。私は王子と婚約したい素振りなんて一切しなかったし、なんなら王子公認の“婚約興味なし令嬢”だった。なのに何故・・・?

「リリアーナ?」

父に呼ばれてハッとする。

「どうかしたのかい?もしかして婚約が嫌だったかな?」

「と、とんでもありませんわお父様!」

私は反射で否定する。父は私が嫌だといえばもしかしたらこの話は無かったことにしてくれるかもしれない。けれどそれは、オルコット家には良くない事なのだ。

(お父様に・・・家族に迷惑かける訳にはいかないわ)

私に、この婚約の拒否権はないのか。婚約するのは仕方ないのだろうか。絶対に死にたくない。人生を最後まで謳歌したい。まとまらない思考で、それでもやっぱり言うだけ言ってしまおうかと思った。

「お父様、あの、やっぱりこの婚約は無かったことに────」

「失礼致します。旦那様、ルーク殿下がいらっしゃいました」

カツン、と響く足音。まとまらなかった思考が一気に停止する、その声。

「無かったことに、なんて、言わないよね?リリアーナ嬢」

そして、使用人の後ろから部屋に入ってきた人物を見てサァッと顔が青くなる。

「ルーク・・・殿下・・・」

相も変わらず彼は楽しそうに目を細めている。しかし、それは以前と少し違う。

(・・・笑ってないわ、目の奥が)

ぞく、と嫌な寒気がした。その目はまるで、私に──獲物に逃げ道はないと追い詰める蛇のよう。

「ルーク殿下、ようこそいらっしゃいました」

「突然の訪問で申し訳ないです、オルコット公爵。リリアーナ嬢にどうしても直接婚約を申し込みたかったものですから」

そうして彼は、ス、と私の手を取って跪いた。

「リリアーナ嬢、僕と婚約してくれませんか?」

綺麗な彼の碧眼は怖いほど透き通っていた。その視線は私が逃げることを許さない。頷けと、言っている。

「・・・・・・は、い」

うん、とルークは満足そうに笑う。父はホッとした顔をしていたし、ケリーはキラキラとした目でこちらを見ていた。

なにも、考えられなかった。ただこれから、私は大変な目に合うのだと、それだけは分かったような気がした。



あれから数日後、再びルークはオルコット家を訪れた。そして現在、庭に二人きりでお茶をしているのである。

「ルーク殿下」

「ああ、その呼び方は頂けないなぁ。婚約者なんだから、もっと砕けた呼び方で呼んで欲しいな。ねぇ、ルークって呼んでよ」

「・・・・・・ルーク、・・・さま」

「・・・うん、まぁいいか。それで、どうしたんだいリリア」

私はカチャリと手に持っていたカップを置く。

「何故、婚約者が私なのですか。・・・・・・正直、選ばれた理由が分かりません」

私はあの日から気になっていたことを尋ねた。すると、ルークはまるで想定内とばかりの表情で「知りたい?」とこちらを覗き込む。こくりと頷けば、ルークは答えてくれる気らしくカップを置いた。

「君が僕に興味が無いからだよ」

「・・・・・・」

さら、と言い放つ。興味が無いから選ばれたってなんだ。

「自分に好意を持つ子を婚約者にしたら面倒だろう、色々と。その点リリアは僕に興味がない、それどころか婚約したくないとすら言うからね。適任だと思ったんだよ」

私はただ呆気にとられるしかできない。

「大丈夫、悪いようにはしないよ。少なくとも僕は、君に興味がある。だから安心していい」

「・・・どういう基準なんですか・・・・・・」

「僕は僕が邪魔だと思う相手には容赦はないんだ」

ああ、まただ。この蛇に睨まれたような気分。ルーク・アルヴァンはゲーム内でもかなり計算高くていい性格をしている。つまり、そういうことなのか。

(十一になったばかりの少年がする顔じゃないわ。・・・彼が置かれている環境が、そうさせたのかしらね)

要は、私は利用されている。唯一ゲームと違うのは嫌われてなければむしろ好意的なところだろうか。

「それに、君は八歳──もうすぐで九歳だったかな?どちらにしろ、年齢にそぐわない考えを持っているみたいだから」

「っ!」

ピク、と肩が揺れる。そりゃそうだ、中身は八歳なんかでは収まらない年齢なのだから。けれどそれは、ルークにだって言える。

「理由は以上だよ。これで納得出来た?」

「・・・・・・ええ、ありがとうございます」

私はぎゅ、とスカートを握りしめた。

それから少しして、ルークは帰っていった。私は一人空を見上げる。どこまでも青くて、吸い込まれそうな空だった。私は目を伏せると、キッと気を引き締めるようにして城の方を見やる。

(嫌われてなければ、まだ希望はあるかもしれない)

生憎と、今の私は利用されるだけのお人形になるつもりは全く無い。

(私は私なりに、生き残るために頑張るしかないんだわ・・・)

それに、折角最推しの近くにいるのだから、もういっそ楽しんでしまおう。ニーナと恋に落ちるその瞬間を絶対、絶対絶対!目撃してやるんだから!



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