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4 作戦失敗


人生における最推しにして最大の壁、ルーク・アルヴァン。そんな彼は、目の前で楽しそうに目を細めている。

どうして彼がこんな会場の隅にいるのだ。

「・・・ご、ごきげんよう、ルーク殿下」

さっきの私、もの凄く余計なことを言ったわ。自覚はあるが言ってしまったものはどうしようもなく、慌てて挨拶をする。

「ええと、その、先程は大変失礼な事を・・・」

「ああ、気にしてないよ。突然話しかけたのはこちらだし。それに、とても興味深いから」

「・・・・・・」

「ここにいるパーティ参加者のほぼ全てが、僕に媚を売っている。なんとかして自分の娘を婚約者にしようだとか、あるいは令嬢自身が婚約者になりたいだとかでね」

はぁ、とルークは心底つまらなさそうな顔をする。

「僕の立場上、仕方の無いことだけど。でも、なにも面白みがないと思わない?」

「・・・はぁ」

私は今度こそ余計なことを言わないようにと、冷や汗をかきながら話を聞き頷く。

「だから、僕に興味のない君が面白いと感じたわけだ」

そう語る彼は、まるで珍しいものを見たとでもいう目で私を見ている。たしかに、前の私なら間違いなく媚を売るその他大勢のうちのひとりだったのだろうが、今は訳が違う。なんてったって推しと推しのルートが──いや、自身の生死がかかる案件なのだ。

(まずい事になったわ・・・。まさかこんな所で接点を持つなんて・・・!なんとかして立ち去りたいけどそんなこと出来ないし・・・。ああ、もう!こんな時に限ってお兄様もいないし!)

内心とても焦っているが、表に出してはいけない。意地でなんとか微笑みを保つ。頼むから早くどこかへ行ってくれ。それかニーナの所へ行ってくれ。その方が私にとっては美味しい。

(──そういえば、ニーナは?)

チラ、と先程まで彼女がいた所を見るが、そこに姿はない。おかしいわね、と視線を動かすと、何やら数人の令嬢が隅に固まっている。そして彼女たちに囲まれているのは、

(やだ、ニーナだわ!!)

見たところ、なにやら絡まれているようだ。恐らくニーナの可愛さに嫉妬して、色々と難癖をつけているに違いない。ゲームにおいても、学校の中で彼女は攻略対象達に出会うまで令嬢たちに詰め寄られていた。

「リリアーナ嬢?」

そちらに視線を向けていたのがわかったらしいルークは私を伺い、同じほうを向く。

「ああ、なるほど」

「どうしましょう!助けないと!」

「それはやめた方がいいよ」

「は?」

ルークは私の言葉を否定した。思わずポカンとしてしまう。

「僕の立場でも君の立場でも、一人の令嬢を助けただけでも“特別”だと思われかねないから」

仕方がないから堪えろ、とばかりにルークは首を振る。

──何言ってるの、この王子サマは。

「そうですね、その理屈は分かりますわ。けれど」

私はス、と彼女達の方に足を向けた。

「上に立つものとして、あの子を守るのも務めでしょう!立場を気にして大事なものを守れない方が、私、よっぽど堪えられませんわ!」

ルークの言いたいこともわかるし、今まで公爵令嬢として生きてきた“私”にも良くわかる。

──でも、推しの笑顔を曇らせるなんて許せない!笑顔曇らせる奴、絶許!!

私の考え方が綺麗事でもなんでも良い。今の私は自分に正直なリリアーナ・オルコットなのだ。

私はコツコツとさほど踵が高くない子供用の靴を高らかに鳴らして、取り囲む彼女達の注意を引く。なんなんだ、とこちらを振り向いた彼女達は私を見るなり顔を青くした。

「なにをしていらっしゃるの」

「リリアーナ、様」

彼女達の立場は私より下なので、途端に畏まる。八歳相手に面白いものだ。権力を振りかざすのは好きではないが、今は仕方ない。存分に使わせてもらう。

「彼女はあなた達よりも立場が下でしょう。それなのに多勢に無勢は如何なものかしら?上に立つものとしての自覚はおあり?」

サァッと顔を青くして俯く彼女達だが、ここで容赦はしない。

「王族の方々もいらっしゃるパーティでこのような行為、恥を知りなさい」

キッと睨みつける。ああ、今の私、なんか悪役令嬢っぽい顔をしている気がする。令嬢達は謝罪をしてそそくさとその場を後にする。色々言った気がするが、実際は私の推しに何してるんじゃ!という気持ちだけである。やりきった、と達成感を感じていると、

「あ、あの・・・」

「は、はい!?」

後から可愛らしい声で話しかけられた。

「た、助けて頂いてありがとうございました!」

「・・・っ!!!!?」

不意打ちで推しに感謝された私は息を呑む。

「き、気にしないで。あなたはなにも悪くないのだから」

ほほほ、と取り繕った笑みを精一杯浮かべる。ニーナはもう一度お礼を言うと、どこかへ歩いていった。

──ああ、もう!

「ああ!なんて可愛いの!!あ、あああ、ありがとうって!涙目で!!くりくりのお目目と可愛らしい表情で言われたら私耐えられない!!!可愛い!!!!」

ついに抑えきれず、残った少しの理性で大声というほどではない音量を保ちつつ悶える。──だから気づけなかった。

「っくくく・・・」

後ろに爆笑寸前のルークがいたことに。

「る、ルーク殿下!?」

驚愕してズサ、と後ずさる。ま、まさかこんな姿を見られるなんて!

「は、ははは!はぁ、リリアーナ嬢、君は・・・くくっ・・・本当に面白いね・・・ふふっ」

「そ、そんなことありませんわ」

クスクスと楽しそうなルーク。私はちっとも楽しくない。というか、こんな所見られたくなかった。普通に恥ずかしくて顔が赤くなる。と、

「リリ!」

聞き慣れた声にハッとして、顔を上げる。

「お兄様!」

「全く、どこに行ったのかと思った」

「あ・・・ご、ごめんなさいお兄様」

そういえば動くなと言われていたのを思い出す。まずい、約束を守らなかったとなると過保護が加速しそうだ。

「グウェインか」

「・・・殿下」

「リリアーナ嬢は面白いね。おかげで楽しかったよ」

「・・・それは良かったです。では殿下、私たちはこの辺で失礼致します」

「え、あ、お兄様!?っ、殿下!ごきげんよう!」

兄に引っ張られて、私は失礼ギリギリのラインの挨拶をする。ルークは楽しそうに手を振っていた。



──そんなパーティの翌日に、父からルークとの婚約が決まった事を知らされて、私は絶望することになる。



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