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32 朝から勘弁してください


夏イベントが始まった翌朝。どんなに気が重かろうが朝は来る。私は気乗りしないが朝食を摂るべく食堂へ向かった。

(みんなで朝ごはん…なにかあったら…いやさすがに朝っぱらからそんなことはないわよね…?)

朝から何かあっても頭が働くかどうか…。不安を抱えつつ到着し、ひょこっと中を覗く。

「…あ、ルーク。おはよう」

「おはよう、リリア。よく眠れた?」

「……まぁまぁよ」

意外にも中にはルークしかおらず、私はホッとしつつ中へ入った。

「皆はまだ?」

「少なくとも俺は見てないね。まあ少し早い時間だから。……リリア?」

そうね、と返事をしつつ席に着こうとしたところをルークに呼び止められた。私はギクリとしながら振り返る。

「そんなに離れてないで、こっちにおいで」

「……ええ」

あえて彼から離れたところを選んだのだが、それを見逃すルークではない。私は観念して彼の目の前に腰を下ろした。

「久しぶりにリリアと二人で話す気がするよ」

「最近は周りが賑やかだものね」

先程の態度には触れず、彼はいつも通り話し始める。私はそれにほっとしつつ、運ばれた朝食に手をつけた。

(ああ、平和…ね。私が“悪役令嬢”でなければずっと続いたのかしら)

穏やかであればある程、昨日から巣食っている暗い気持ちが顔を出す。折角の二人きりの食事も、なんだか味がしなかった。

「ああそうだ。リリア、今日は──」

ルークが何か言いかけた時、扉を開く音がした。振り返ると、そこにはいつもより少しホワッとしたロイが立っていた。

「あら、ロイ様。おはようございます」

「……おはよう…」

ホワッとしたロイはそれだけ言うとくあ、と小さく欠伸をした。どうやら彼は朝に弱いらしい。

「………って、いや、あの、そこなのですか?」

「悪いか」

「い、いえ…そんなことは…」

いや良くありませんとも!だって眠そうな彼はそのまま隣に座ったのだ。なんでだ、席他にも空いてるじゃないか。

「く、クララ様が見たら誤解されてしまいますよ」

「……」

至極真っ当な事を言ったはずなのに、彼はじとりとこちらに視線を寄越すだけで動こうとはしなかった。

(なんで、なんでよりにもよって自由席なの…!いやまあ、イベントだからよねそうよね…!)

本来であれば、きっとニーナの座る位置を巡って色々起きそうなものである。それがタイミングのせいでこんな事になるとは…。クララと上手くいっていないロイが、これまた上手くいっていない兄と、そこそこいい友人関係を保っている(と私は勝手に思っている)存在がいる空間にやって来たら、そりゃ必然的に避難先は私になると思うけれども…!

(仕方ない、かくなる上は…!)

「わ、私、ちょっと用事を思い出したわ!」

私は行儀が悪いと自覚しつつ、あと少しで終わりそうな朝食を急いで食べ終わらせて逃げるという選択に踏み切ったのだった。



「随分と露骨なことをするね、ロイ」

「……何の話だ」

「ふぅん、とぼけるのかい?」

リリアーナが去った後、二人だけの空間は凍てつく空気に満ちていた。

「悪いけど、彼女は俺の婚約者なんだ。そしてお前にも婚約者がいるはずだよ。──王族が“あんなこと”するもんじゃあないよ」

その言葉にロイは苦々しい顔をして、ルークをギロリと睨んだ。

「…何が王族だ。都合のいい時ばかり俺をそう扱うのはあんたも一緒か」

そう吐き捨てると、ロイはガタリと席を立ち、そのまま食堂を去っていった。

「……」

ルークは静かに去った後のドアを眺めて、そして目を伏せため息をついた。

「いるんだろう、サイラス、ディラン」

「あはは、バレてた?」

「…申し訳ございません」

声をかけられた二人はするりと食堂へ入って来た。

「サイラスが本気で隠れる気があれば見つけられるわけが無いから、別に隠れるつもりもなかったんだろう?ディランだって、あんなに分かりやすく隠れるわけがない」

「おっしゃる通り〜。あの場面には入れないよね〜流石に」

いつも通りのおどけたように振る舞うサイラスを一瞥して、ルークは目を伏せた。

「……都合のいい時ばかりそう扱う、ね。望まれて王族として生まれたのはあれの方だというのに」

「ルーク様…それは」

「大丈夫だよ、ディラン。分かっているから」

ルークはそう言うと、いつも通りの、しかし踏み込むことはさせない表情をしている。それを見たサイラスはなんともないように世間話をし始め、ディランも主人の意思を尊重すべく仕事に戻るのだった。



(はぁ…思わずあの場から逃げてしまったわ…。後でなにか言われるかしら…)

あの場から脱出した私は、日陰のあるベンチに座り込んで途方に暮れている。自分のことで手一杯な今、あの兄弟のことまで手に負える自信などあるはずもない。それに加え、あの場面をクララが見たらあらぬ誤解をされそうだった。だからこそ八方塞がりで逃げ出したのだが、後々のことを考えるとそれはそれで面倒な事が待っていそうなことに気がついたのだ。

「うう…朝からこんなイベント望んでないわ…」

がく、と肩を落とした時、

「リリアーナ様?」

とても心地のいい声がした。声のするほうを見れば、ふわふわの長い髪の毛を一つにまとめてキョトンとこちらを見る美少女──もといニーナが立っていた。

「あら、ニーナ!おはよう!」

「おはようございます!…あの、朝からこんな所でどうなさったんですか?…まさか、ご体調が優れないのですか…?」

「え!?そんなことないわ!……ちょっと考え事をしていただけ」

「それならいいのですけれど…」

心配そうにやってきた彼女は朝から素晴らしい美少女具合である。ああ、これぞ癒し。極上の目の保養。

「そんなことより、ニーナ、いつもと髪形が違っててとても可愛いわ!」

「え、あ、ありがとうございます…!ひゃあっ!?」

照れたように笑うニーナがあんまり可愛いから、私は思わず抱きしめてしまう。

「り、り、リリアーナ様っ!?」

「んん〜ちょっと疲れちゃって、癒しを…」

「ひぇえええ」

何故かものすごく動揺するニーナと、それを気にせず抱きしめ続ける私という傍から見ると謎すぎる絵面をしばらく続けた。


──その様子を見る人影があったことを、気が付かないまま。



お待たせしました!これからも少しずつ更新していきますので、よろしくお願いしますm(_ _)m

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