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30 急接近


ぽっかりと、まるで大きな穴が空いたような感覚がする。これは多分、いけないやつだと分かる。

…これは、この感覚は何?

「お、おい、どうしたんだ」

突然黙り込む私にロイが心配顔で話しかけてきた。

「ひぇっ!?…あ、いえ!どうもしてませんわ!」

「…?」

明らかに機嫌が急降下したロイに私は更に慌てる。

「わ、私考え込む癖がありまして、その、突然話しかけられると驚いてしまうのです…!」

嘘は言っていないし、「なんかぽっかり穴空いたみたいに感じるんです」なんて本当の事が言えるわけがない。疑いの目を向けてくるロイの視線を感じるが、言えないものは言えないのだ。どうしたものかと思った時、

「────リリア」

慌てた思考が一瞬で落ち着くような、凛とした声がした。その声を出せるのはただ一人。

「……ルーク」

にっこにこといっそ恐ろしい程に微笑む我が婚約者である。

「いやぁ、酷いねリリアは。僕という婚約者がありながら、ぐて…ロイと仲良くお昼だなんて」

やれやれ、と眉を寄せる彼はしかし、明らかに不機嫌だ。とういうか今、他の生徒がいるにもかかわらず愚弟って言いかけた。これは相当不機嫌で余裕が無いのでは…。

「そう言ってやるな、兄上。近づいたのは俺だ」

どうしようと冷や汗をかいていると、目の前にフッと影が落ちた。前を見れば、ロイの背中である。背が高いからもはや壁になっている。

「…へぇ」

そのために、ルークが今どんな表情をしているか分からない。分からないが…あまりいい予感はしない。

「ロイ、君はもう少し婚約者のいる王族としての自覚を持つべきだ。自分の婚約者を放って僕の婚約者に手を出すなんて真似をしたら…」

おお、ルークがまともな事を言っている!その調子でこの弟をどうにかしてくれ!と途中までは思った。思ったが、

「ただじゃおかないよ?」

にこ、という笑みと共に放たれた言葉でサッと血の気が引いた。

(ま、まずいわ!ルークの“ただじゃおかない”は本当にやる!やりかねない!)

友人の婚約者であり彼の弟でもあるロイを、自分のせいで大変な目にあわせるわけにはいかない。私は直感的に取るべき行動を判断した。

「ル、ルーク!ストップ!」

「リリア?」

ササッとロイの背からルークの目の前まで移動して、突然の事に目を丸くした彼の手をぎゅっと握る。

「今度のお休みの日、時間はあるかしら?一緒に行きたいところがあるのよ!」

「……そうなのかい?じゃあ一緒に行こうか」

彼は少し瞬いて、しかし意図を汲んだらしく優しく笑って了承してくれた。その事にほっとして、今度はロイを見る。

「ロイ殿下!くれぐれも!くれぐれも!!クララ様を大事になさってください!ね!!!」

そうしてビシッと言ってやった。これは彼のためである。言われた彼はぽかんとしたが、「…善処するが、期待はするな」と不満げに呟いた。よし、これで釘はさせたはず。

「よかったね、ロイ。“俺の”リリアが優しくて」

「……」

去り際、彼が弟にそんなことを囁いたのを、そして、弟がその時どんな表情をしたのかを、彼女は知らない。





そんなやり取りをしてまだ一日と経っていないというのに。

「なんっで殿下と!居残りさせられているのかしら!?」

「教師に聞け」

刻は夕方。夕焼け色に染る教室で、私はロイと共に書類整理をさせられていた。

(いいわよ別に!これくらい!爵位とか王族とか関係なくものを頼んでくれる先生達はむしろ好きよ!でも、でも!どうして今日このタイミングで!?なにが、『生徒会もそろそろ引き継ぎの時期だから書類整理に慣れなさい』よ!せめて別々にやらせて欲しかったわ!)

ぽっかりの理由が分からない今、予測不可能な事態はなるべく避けたいというのに!

「…表情筋より手を動かせ」

四苦八苦しているところに白い目をしたロイにそう言われ、慌てて作業を開始する。普段は強引なくせにこういう時は真面目なのかこの殿下は…。

「…そんなに、俺が嫌か」

「へっ?」

突然の問いに私は目を丸くした。

「お前はいつも、俺が来ると怯えるか嫌がるか避けるかだろう」

「いやそれは常識的に考えてそうなるでしょう!」

間髪入れずに答え、それに虚をつかれた彼の視線によって我に返った。

ま、まずい!思わず素で返してしまった…!

ドバっと嫌な汗が流れる感覚に陥っていると、柔らかい笑ったような声が上から聴こえた。

「…そうか、それがお前の素か」

「! …っあ、あー…」

(ちょっ、な、なんていう表情をしてるのよ…!)

見上げるとそこには、顔の良さを最大限に活用したようなキラッキラな優しい微笑みがあった。ロイはこんな表情も出来たのか。よく見れば微笑みはルークに似ているなぁ…。ってそうではなく!美形のこういうの本当弱いからやめて欲しいのですが!

「……そういうロイ殿下こそ、ゆるっゆるになってますわよ、表情筋。それが素なのですか?」

「!」

ロイは私の指摘にハッとして口元を抑えて、今まで見たことがないほど真っ赤になった。

──え、まさか本当に?冗談のつもりで言ったのに。

「普段から俺様じゃなくてもっとこうふわふわした方が素敵ですよ」

「…うるさいぞ」

やはり根は悪い人ではないのだ。きっと育ってきた環境が、彼をそうさせてしまっただけで。

「あ、殿下」

「…でいい」

「え?」

「…ロイでいいと、言っている。殿下は要らん。2度も言わすな」

「え、ええ!?」

ロイの突然の要求に私はめちゃくちゃ驚いた。

「お前には素でいてもらった方がこっちとしてもやりやすい」

「…はぁ」

まあ、お互い素を知ってしまったのだから変な壁は要らないのだろうか…?と思いつつ、私は曖昧な返事をする。これってもしかして、新たな友情の芽生えだったりするんだろうか。

「わかりました。ではロイ様とお呼びしますね」

「…ああ」

なんともまあ、心臓に悪い友人が出来てしまったなぁと、私はそれくらいにしか考えていなかった。


さあ仕事しますよ、と書類に視線を落とした彼女を見るロイの視線が以前にも増して熱を持っていることなど、彼女は知らない。



最近私生活が更に忙しくなってしまいまして、更新ペースが格段に遅くなってしまっています。そのため、更新を月1、2ほどのペースに落とすことに致しました。ご了承くださいm(_ _)m

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