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29 夢を見る


夢を見ていると分かる時がある。

有り得ない光景だったりした時にそう自覚する。

だから、ああ、今のこれも夢だ。

「うっ、うう……ひっく…」

──だって、目の前で小さなロイが泣いているのだから。

「国王は第二王子に王位を継承させたいと?」

どこからともなく見知らぬ男達の声が響く。

「あのロイ殿下にか?それはまた…。あの優秀で非の打ち所が無いルーク殿下こそ正当な後継者だろうに」

「ロイ殿下はダメだ。どうやってもルーク殿下には及ばないし、国を治める才能もない。母が違うだけでこうも差が出るのか」

「仕方がないだろう。何せルーク殿下の母君にはあの“血”が流れていたんだ」

残念そうにため息をつく男達。その声を聞いた幼いロイはひたすらに俯いて肩を震わせていた。

「ねぇ、泣かないで」

その姿を見ていられなくて、私はそっと彼に手を伸ばす。小さなロイはまだ真っ白で、あまりにも脆い。その頭を撫でてあげたくて、しかし意識が浮上しようとしているのか靄がかかり始める。

(ああ、起きようとしているのね…。撫でてあげることも出来なかった)

どうして自分がこんな夢を見ているのかは分からないし、そもそもやたらとリアルで不思議だった。

色々と不思議な何かに囚われながら、私は目を覚ました。



「おはようございます、リリアーナ様!」

「おはよう、ニーナ、ミア」

教室に向かう途中で二人の友人と合流した。二人は楽しげに会話をしているが、私はそれどころではなかった。

(本当に、不思議な夢を見たわ。ハッキリ覚えているし、妙にリアリティがあった。まるで(ロイ)の過去を見ているような感覚…)

「──い」

(ううーん、何かが引っかかるのよ。この現象を説明できる何かがあるはず)

「──おい!」

(変な事にならなきゃいいけど…。ルークにも変な心配かけたくないし、この事は黙っておこう)

「リリアーナ嬢!!!!」

「は、はぃい!?」

突然名前を呼ばれて、かと思ったら身体が物凄い勢いで傾いた──と思ったら背中からぽすりと硬めの何かに収まった。

「全く…」

「ろ、ロイ殿下!?」

はぁ、と頭上で大きいため息をついた人物に私は目を丸くする。どうやら彼に後ろから物凄い勢いで引っ張られたらしい。

「お前は満足に前も見れないのか?」

「え?…あ、あら…」

呆れたように言われて前を見れば、そこには柱があった。どうやら考え込みすぎてまたしてもやらかしかけたらしい。

「リリアーナ様、大丈夫ですか!?」

と、ニーナとミアが早足で駆けつけてきた。並んで歩いていたはずが気が付かないうちに追い越していたのか…。

「ええ、大丈夫よ。ロイ殿下が助けてくださったから」

そう言って、私はロイを見上げて微笑んだ。

「ロイ殿下、ありがとうございました」

「…あのまま放っておいたら大惨事だろうから仕方なくだ」

フン、と顔を逸らすロイ。そういえば彼はゲームでツンデレ属性持ちだったが、それは健在なのかもしれない。

「それはそうと殿下」

「…なんだ」

「そろそろ離してくださいませんか?」

「……っ!?ふ、不可抗力だ!」

今気がついたのか慌てて私を離して飛び退いた。言われるまで気が付かないほど咄嗟に私を助けてくれたのだろう。

ロイ殿下って気性の荒い猫みたいね。

「……おい、口に出てるぞ」

「…あら?」

ロイの顔が少し赤く見えるのは気のせいだろう。

ルークとの関係を明言されてから、ズケズケとものを言う彼に知らず知らず苦手意識を持っていたが…。

実は素直で面白い人なのかもしれない。そう結論付けて私は教室に向かった。





「あのー、ロイ殿下」

「なんだ」

「席なら他にも空いてますよ」

「別にいいだろうが。どこに座ろうと俺の自由だ」

「………」

その日の昼休み、ロイはまたしても私と同じテーブルに座った。今朝の言動から印象が変わったとはいえ、あまり一緒にいると後が怖い。これを知られたらきっとルークの雷が落ちる。

(とはいえ相手は王族…。私にどうにかできることは少ないわ…)

うう、と項垂れつつもここで諦める私ではない。

「殿下はご婚約者のクララ様がいらっしゃるんですから、私と二人で一緒にいてはあらぬ誤解が生まれてしまいます」

「…俺にあいつと共にいろというのか?」

大変険しい顔をされた。そんなに仲が良くないのか。

「なら今から俺とお前は友人だ。それならいいだろう」

(良いわけないでしょうが!!!!)

「そんなわかりやすく良いわけが無いという顔をするな」

ハチャメチャな提案をして来たかと思えば、フンと拗ねたような顔をする。顔がいいとこういう表情も絵になるのか。

「………分かりましたわ」

渋々私は了承した。顔がいい男の拗ねた表情が可愛くて了承した訳では断じてない。

「…ところで殿下は何故私にこだわるのですか?」

ここに彼が座ることはもういいとして、気になっていた根本的な事を折角なので訊いてみた。すると、彼は虚をつかれたような表情をして、しかしすぐにいつもの表情に戻った。

「お前に興味があるだけだと言ったはずだが」

「それはそうですが…」

「自分の持つ考えと異なる考えを持った存在を不思議に思うことは普通だろう?」

「…そうですわね」

やはりそれだけなのだろうか。確かに彼はゲームでも現実でも、恋だの愛だのには全く興味がない人物だ。利益のない関係に疑問を持つのは普通なのかもしれない。

「私を観察しても得られるものはあまりないと思いますが…。ロイ殿下がそうなされたいのでしたら私は受け入れますわ」

仕方ない、と思いつつふ、と軽く微笑んでおいた。

「…………そうか」

すると、何故かロイは少し顔を赤くして顔を逸らす。変なタイミングでそういう事をするのはルークに似てるなぁ…と思い、

(………あれ?)

なにか、とても大事なことを忘れているような気がした。



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