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2 リリアーナの兄妹革命


「お兄様、見てください。綺麗なお花だと思いませんか?」

「・・・そうだな」


「お兄様、そのご本面白いのですか?よければ今度お借りしても?」

「・・・いいぞ」


「お兄様、お庭を見て!可愛らしい猫だわ!」

「・・・ああ」



これはあれから数日間の兄との会話のダイジェストである。

「お兄様、私と話す気ないでしょう!?」

「ま、まぁまぁリリアーナ様・・・」

ボスンとベッドのクッションを殴ると、ケリーがなだめてきた。

「話しかけても『ああ』『そうだな』とか、ばっかりよ!?もっと何かないの!?」

「グウェイン様は日頃から物静かな方ですものね・・・」

「物静かなんてもんじゃないわ!表情筋ちゃんと生きてるのかしらっ!」

私はバフッとベッドに倒れ込む。表情の変化らしい変化といえば、毎回話しかけた時の一瞬の驚きくらいだ。一瞬だから、すぐに元の仏頂面になる。

「リリアーナ様がよくお話しかけてくださることにグウェイン様も少し戸惑っているのでしょう。きっとお嫌ではないと思いますよ」

そう言いつつケリーは起き上がった私の乱れた髪を整えはじめる。ケリーとよく話すようになってから、彼女は最近私の扱いが上手くなった気がしている。

「そうだといいけど・・・」

先が思いやられて、ため息が出た。

「それはそうと、リリアーナ様。パーティの件はどうなさるのです?」

「──っ!」

そうだ、パーティ。最近の私は兄への問題改善に頭を使っていてすっかり忘れていた。

「ま、まぁ何とかなるわよ!」

冷や汗をかきつつ返事をするが、ケリーには何も考えてないことが絶対バレている。

「そもそも私、二つもめんどくさ・・・大変なことを考えられないわ!」

「たしかに大変ですものね」

前世から物事を効率よく進めるのは苦手だった。パーティも兄も、同じくらい大きくて重要な問題だから、同時進行なんて夢のまた夢。それにまだ時間はあるはずだ。

「ねぇケリー、パーティまでってどれくらいだったかしら?」

「あと一週間です」

ほら、あと一週間も────・・・え?

「一週間!?」

私の計画、詰んだかもしれない。





オルコット家の庭には日差しが気持ちいい場所がある。私のお気に入りスポットだ。

(大変だわ・・・一週間・・・・・・一週間か・・・)

空をボーッと見ながらぐるぐる考える。けれど、焦れば焦るほどなにも浮かばない。

──ゃう

(どうしよう・・・・・・あら?)

──にゃうにゃあ

(鳴き声・・・?猫?でもどこから?)

鳴き声を頼りに目線を動かすと、やや高い木の枝に子猫がいた。

「子猫だわ!しかもあんなところに・・・!」

子猫は登れる所まで登ってしまうから、きっと降りられなくなったのだ。

ど、どうしよう! キョロキョロと周りを見渡せば、そこにはちょうど良くハシゴがあった。それを迷わず木の下に運ぶ。

「待ってて!今助けてあげるわ!」

子猫がいたのは幸い私でも届く高さだった。ハシゴから枝に移って腕の中に保護すると、子猫は大人しくしてくれる。

「よかった・・・、さ、下に降りましょう」

ホッとして、降りようと身体を移動させた時だった。

「──リリッ!よせ!!」

「え?」

どこからか兄の声が聞こえた──と同時にミシリと嫌な音がして、気がつけば私は落下していた。

(ああ・・・、なんてベタな・・・)

枝が折れて落ちるなんてこと、本当にあるのね、とどこか他人事のようだった。ドシン!と衝撃が身体に走って、次第に意識が薄れていく。子猫は咄嗟に守ったからきっと平気だろう。

「──・・・!」

ブラックアウトしていく中で、兄がすごく焦った顔をしているのを見た。なんだ、お兄様の表情筋はちゃんと生きてたのね、と思ったのを最後に私は意識を手放した。





──リリアーナ・オルコット!今ここで、婚約破棄とする!


(ああ・・・そんな、ダメ・・・私まだ死にたくないわ・・・)


婚約破棄は、私の死を意味するもの。


だめ、ダメ!!私生きていたい!!!!


「いやーーーーッ!!!!誰があなたと婚約なんてするもんですかッッッ!!!!」


「リリ!?」

私は自分の叫び声で目を覚ました。

「お、お兄様っ!?・・・ったぁ!」

目を覚ますと目の前には超絶美形な兄の顔で、しかしガバッと起き上がろうとした時に頭が痛くて声を上げた。

「痛っ・・・、あれ、私確か・・・」

「木から落ちて少しの間気を失ってたんだ」

「・・・そうですか」

よく見ればそこは自室で、しかし時間はそこまで経っていないので、たしかに少しの間なのだろう。

「脳に異常も無いそうだ。まぁ強いて言うなら──後頭部のたんこぶくらいか」

「た、たんこぶ・・・」

ズキズキと痛むのはたんこぶか。全く私としたことがあんなベタな展開になるとは思わなかった。と、ふとそこで気づく。

「・・・お兄様、いつもよりお話ししてくれるのね」

「!」

兄は気まずそうに視線を逸らす。

「てっきり私、嫌われてたのかと思ってましたわ」

「それはお前の方だろう」

間髪入れずに兄が応える。

「え?」

しまった、というふうに口を抑えたが、言ってしまった言葉は戻らない。

「・・・昔からリリは俺のことを避けていたから、てっきり嫌われたのかと思っていた。なのに最近やたらと話しかけてくるから・・・その、戸惑ったんだ」

「・・・・・・」

記憶が無い頃はたしかにそうだったので否定はしない、が。

「それはお兄様がいつもいつも仏頂面で怖いからです!幼い子供にあんな顔してたら、そりゃあ嫌にもなります!」

「っ!」

「けど・・・お兄様は表情がちょっと、いや、かなり出にくいだけなのですね」

私が落ちた時のあの表情が忘れられない。彼は日頃では考えられないほど焦っていた。なんだ、お兄様は私の事嫌ってなかったんだわ。ほわ、と心が暖かくなる。

「ふふ、これがわかっただけでも落ちた甲斐がありました」

「勘弁してくれ、兄の心臓はそこまで強くない」

ああよかった。これで、兄との関係は改善されたと言えるだろう。となると、例の問題だけに集中できる。

(待ってなさい第一王子!私は絶対、婚約なんてしないわ!)

意気込みだけは十分な私は、たんこぶを抱えながらパーティでの作戦を練るのだった。



そろそろ王子を出してあげたい。

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