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25 自己嫌悪


「こちらに座っても?」

突然現れたロイの婚約者、クララ。彼女は穏やかに目を細めていた。

「ええ、もちろんで──」

「何故来たんだ」

彼女の問いに答えようとした私の言葉を遮るように、ロイが言葉を重ねる。

「私は殿下の婚約者なのですから、不自然なことではないでしょう」

「・・・婚約者、か」

クララの主張は至極真っ当で、しかしそれをロイは薄く笑っただけだった。その態度に彼女は少し眉を寄せたが、すぐに真っ直ぐ彼を見つめ直す。

ロイは彼女をしばらく見つめたあと、ため息をついて立ち上がった。

「悪いなリリアーナ嬢。今日は失礼する」

「あ、はい・・・」

むしろ私としては願ったり叶ったりだ。

「・・・俺も愚かではない」

彼はそう呟くと、クララを置いて一人で去っていった。

(・・・・・・いや、ちょっと!クララ様を連れていきなさいよ!)

「申し訳ありません、リリアーナ様」

「えっ!」

突然クララに謝罪されて驚く。

「そんな!クララ様は何も悪くないですわ!」

「・・・ありがとうございます」

クララは灰色の瞳をスッと細めた。その瞳の奥になにを秘めているのかは分からなかった。

「ロイ殿下はいつもああなのです。幼い頃から婚約はしていたのですが、彼にとって私は“契約”によって付けられた枷なのですよ」

困ったように、そしてどこか諦めたように笑って眉を寄せるクララに私は胸が痛む。

「あ、ごめんなさい。ルーク殿下と仲のよろしいリリアーナ様に言うような事ではありませんでしたわね」

「え、ええと・・・」

「・・・・・・本当に、なぜそんなに仲が良いのかしらね」

「えっ?」

返答に困った私には、ボソリと呟かれたクララの言葉は聞き取れなかった。





「──ということがあったのよ」

「ふーん」

放課後、私は昼間にあったことを自習室でルークに話した。そろそろ定期テストが近いので、ルークに勉強を見てもらっているのだ。

「で?つまり君は昨日の今日でロイと一緒にいたと?」

「なっ、それは不可抗力よ・・・!」

明らかにルークの機嫌が急降下したので私は焦る。

「それに、クララ様が来てからすぐにロイ殿下はいなくなったわ」

「ああ、クララ嬢か・・・」

ルークはその名を口にして少し眉を寄せた。

「彼女がどうかしたの?」

「いや、彼女は昔からロイにそういう扱いを受けていたから。未だにそんな事をしているのかと思ってね。いい加減柔軟になればいいのに」

まぁそれがあいつだからね、とルークは呆れたように言う。

「・・・・・・けれどロイ殿下はともかく、クララ様は婚約をよく思っていないわけではなさそうよね」

「そうだね。少なくとも昔のクララ嬢は婚約に関しては非常に前向きだったよ」

薄々感じてはいたが、やはりそうなのか。クララは少なくともロイを嫌ってはいない。それはあの困ったような表情で伝わってきた。

(クララ様はロイ殿下が好きなのかしら。・・・もしそうなら、辛いなんてものでは・・・)

「どうしたの、リリア?大丈夫?」

想像して胸がきゅ、と苦しくなる。その様子を見たルークが心配そうに覗き込んできた。ハッとして、そしてルークを見つめる。

「リリア?」

(もし・・・・・・もし、私がクララ様のような立場だったら・・・)

考えてゾッとした。

でも、ルークは少なくとも私のことを嫌ってはいない。この心配そうな表情は本物だから。

──そう思って、ほっとした。

そして、考えてしまった挙句ほっとした自分に嫌気がさす。

(最低だわ、私。自分が安心する材料としてクララ様の悩みをこんなふうに・・・・・・)

「リリア」

「っ!ルーク・・・!?」

突然腕を引っ張られて驚く。そしてポスリと腕の中に収まってしまった。

「ちょ・・・っ!ルーク・・・っ!」

顔が真っ赤になるのがわかる。慌てて離れようとするものの、ガッチリ抱え込まれて離れられない。

「よしよし、一人で抱え込むのはいけないよ」

そのままルークにポンポンと優しく頭を撫でられて抵抗が出来なくなる。

「・・・・・・子供扱いかしら」

「いいや?俺の愛しいリリアを甘やかしてるだけだよ」

「・・・・・・そう」

ルークは欲しい言葉を欲しい時にくれる。聡明な彼は、難なくやってのけてしまう。自覚があるのかないのかは知りえないけれど。


・・・ああ、自分はつい最近までニーナと彼がくっつけばいいだなんて思っていたというのに。


「・・・ルークは、いつも暖かいわね」

「そう?」

この温もりを手放したくない。もう、手放せそうにない。

カチリとひとつ、モヤモヤしていたパズルのピースがはまったような気がした。





「あーあー、あんなに分かりやすいのに案外お互いは気づかないものなのかな〜」

「ひゃああ・・・!素敵・・・!」

「覗きとは感心しませんね。サイラス様、ニーナ様」

同時刻、自習室が見える位置にある教室で彼らを見つめる影が三つ揺れていた。

「そう言いつつ着いてきてるディランもどうなの〜?」

「私は護衛ですから」

「ま、まぁまぁ!なにか起きてからでは遅いですしね!」

サイラス、ディラン、そしてニーナ。普段この三人だけで集まることはない面々である。

「一応警戒しとけってルークが言うからしてたのに、見せつけられただけだった〜」

「何も起きないのが最良です」

「そりゃそうだけど〜」

サイラスとディランの気心知れたやり取りを一歩引いた所でニーナは微笑む。

その様子にサイラスはふむ、と少し考えてからニーナを見た。

(不思議な存在だね、ニーナ嬢というのは。純粋なだけかと思っていたけど・・・そういう訳でもなさそう〜)

彼女に対する違和感を覚えながら、サイラスはいつも通りの穏和な表情を浮かべるのだった。



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